迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
182 / 315
第三章『身代わり王 』

第十話 三人の王子

しおりを挟む
 三人いる王子候補の名前はスーファイ、ニッグ、セパス。
 もちろん偽名だ。イシュタル神殿の調べでは、数年ほど『荒野の鷹』に在籍しているが、それ以前の経歴ははっきりしていない。
 この三人の中から本物の王子を見つけ出さなければならない。
 休憩時間となり、単独行動をとることになったラバサルはスーファイのもとに向かった。
 ゆで上がりそうな日差しに辟易しながら、あらかじめ教えられていた人相に近い男を探し、すぐに見つかった。
 ラバサルより頭一つ二つ大きく、いかにも戦士という筋肉質でがっしりとした体つきだった。
 顔つきはまだすこし若さがあった。しかし帽子を手に持って扇ぎながら禿頭に照りかえる陽光からか、いくぶん年かさを増しているように見えた。
(さて、どう話しかけたもんかな)
 ラバサルは逡巡した。
 別に今どきの若者に話しかけるのを恥じるような心は持ち合わせていない。
 厄介なのはスーファイの周囲にいる冒険者と兵士たちだった。
 おそらくギルド長か王の義弟の一派の差し金だろう。こういう見張りがいるから三人を強引にイシュタル神殿に連れて行くというやり方ができない。
 もちろん、ここでラバサルが何の意味もなく話しかければ余計な疑いを招く。
 しかし意外な話題が向こうから歩いてきた。
 波打つ短髪に、ゆるやかなトーガを着ており、あまり健康そうには見えない顔色。その顔は見覚えがあった。
(『荒野の鷹』のギルド長ラッザ。護衛まで引き連れて……スーファイの様子を見に来たのか?)
 ラッザが笑いかけるとスーファイは豪快な声で、しかし丁寧に受け答えしていた。育ちが良いと言われても信じてしまいそうだ。
 二人は親しそうだが、周囲の部下たちはどこか緊張した空気だった。
(スーファイに話しかけるよりも、ラッザに話しかける方が自然だな)
 ラバサルは足音も消さず、隠れもせずごく普通に歩み寄っていくと、ラッザが目ざとくラバサルの姿を確認し、間合いを測るように挨拶してきた。
「こんにちは。どのようなご用件でしょうか」
「わしはシュメールという企業の一員だ。近場のギルドの長に挨拶しておこうと思ってな」
「それはそれはご丁寧に。『荒野の鷹』、ギルド長、ラッザです。こちらはスーファイ」
「どうも、よろしくお願いいたします」
 豪快そうな見た目な割に折り目正しいスーファイだが、目を細めるラッザにはどうもうさん臭さが漂っていた。
(王子と王の娘婿を天秤にかけるような奴だ。一癖あるに違いはねえ。人は見た目によらんという言葉は間違いだろうな)



 なるほど。
 人は見た目によらないという言葉は事実らしい。
 それが話を聞いたターハの感想だった。
 それは王子候補の一人、セパスとこの遠征軍の事実上の頂点、トエラーである。
 セパスは当然ながら『荒野の鷹』の一員なのだが、トエラーは普段ジッグラトやウルクの城壁を守護する任務に就いているらしいが、今回遠征軍の指揮官として抜擢されたらしい。
 それゆえに王の義弟側の人間かと思っていたのだが。
「承知しました。こちらも供出した食料を分配しましょう」
 太くたくましい、マルドゥク神のごとき肉体を誇るトエラーは意外にも物腰丁寧で教養を感じさせる言葉選びだった。
「ご厚意に感謝します。ギルド長もお喜びでしょう」
 セパスは巻き毛で軽薄そうな見た目だったが、こちらも負けず劣らず丁寧で育ちがよさそうだった。
(こう言っちゃなんだが、どいつも怪しく見えるよなあ)
 先ほどからこっそりと会話を盗み聞いているが、特段妖しい動きはない。本当に王子かどうかを見分けるなどできるのだろうか。
「しかしトエラー殿。何故我々『荒野の鷹』が真っ先に遠征に同行すると決まったのですか?」
「それは、私にもわかりかねます。この遠征は半年ほど前から決まっていましたが、突然上から『荒野の鷹』が推挙されたのです」
(……半年前……王様が死ぬ前から決まってたってことならトエラーはマジで王子の暗殺とは無関係なのか? いや、それとも嘘? ……ううん……わかんねえな。とりあえず覚えておいてエタに判断させるか)
 ターハのわからないなら人に任せる、というきっぱり割り切った思考は彼女が自分の想像よりも頭の良い女性であるという証左でもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...