286 / 315
第四章 天命
第二十五話 始まり
しおりを挟む
核の元に向かうミミエル。
激闘の後にもかかわらずすさまじい速度だったが、それでもわずかにアンズー鳥が速い。
そんなミミエルを追い越すように黒い布が巻かれた矢がアンズー鳥を襲う。
シャルラが自らの掟、『触れたものの手を重くさせる掟』を使い、アンズー鳥の動きを封じようとしたのだ。
しかしアンズー鳥は巨体とは思えない風のような軽やかさでその矢を避けた。
「速っ!?」
次いでターハが手近に落ちていた岩……おそらく天の牡牛の眷属の欠片をぶん投げる。
しかしそれもすいすいと躱す。
もうアンズー鳥は核の目と鼻の先まで迫っている。だがそれは同時にアンズー鳥の動きが限定される瞬間でもある。
ラマトが自らの槍を全力で投擲する。まっすぐにアンズー鳥へと向かい、間違いなく当たる。
だがぐりんと、首を巡らせたアンズー鳥はそのくちばしで槍をくわえこんだ。
思わず絶句する三人。
だがミミエルだけは、回避や迎撃でわずかに遅れたアンズー鳥に追いつき、その二つの槌を振るおうとして。
「おっと。やらさへんで」
「っ!?」
もう一羽のアンズー鳥に迎撃された。
かろうじて攻撃は防いだが、大きく弾き飛ばされる。その隙にもう一羽のアンズー鳥が核をそのかぎ爪で掴み、驚くほど巨大な核を持ち去ろうとする。
「あんたたちいったい何なの!?」
「なんや言われてもなあ。契約を果たしてるだけや」
「契約? 誰と?」
「ああ、そらあ……」
「ちょい。あんた話しすぎやで」
「時間の問題や。もうええやろ」
ミミエルたちは独特な話し方をするアンズー鳥に少し面食らっていた。なんというか、アンズー鳥とは品位や神聖さがあると思っていたのだ。
戸惑いながらもここにきて現れた理由は気になる。
もちろん物見遊山に来たわけではないのはわかっている。だからこそ嫌な予感が止まらない。
「時間の問題ってどういう意味?」
「もうちょいしたらわいらが契約した相手、知識の魔人があんたらに宣言すんねん」
「宣言って……何を?」
「はいはい。それは聞いてのお楽しみや。そろそろいくで。さっきから弓でこっち狙ってる女の子がおっかないねん」
母鳥らしきアンズー鳥は常に周囲を警戒している。シャルラから見ても隙は見当たらなかった。
空を覆うような巨大な翼がより一層強く羽ばたく。
巨大な核は持ち上がり、ともにアンズー鳥も空に浮かぶ。
四人はそれを見送るしかできなかった。
「エタ。あのアンズー鳥、どう思う」
ミミエルは携帯粘土板でエタに連絡を取った。
『実は……あのアンズー鳥と会ったことがあるんだ』
その言葉に低い声で反応したのはシャルラだ。
「……そう。後で話を聞く必要がありそうだけど……まずはあのアンズー鳥は何が狙いなの?」
『それはわからない。でも、知識の魔人が誰なのかは見当がつくよ』
エタの声はどこか苦悩しているような、信じたくないような声だった。
「いったい誰なの?」
『多分、知識の魔人は知識を集めるために人の社会で暮らしている。そして……この国で最も知識を持っている人は……』
あ、と四人は声を出した。
誰もが、顔と名に心当たりがあったのだ。
この時期、この地域では雲一つない晴天が常である。
しかし、ジッグラトの入り口から覗く景色は暗雲が立ち込めていた。それは季節外れの雨を予感させ、誰もそれが吉兆か凶兆かを判断できなかった。
そこから空を眺めるのは白い老人だった。
誰あろう、このジッグラトの頂点の片翼、アトラハシスであった。
彼の丁寧に編み込まれた髭が揺れる。衣服ははためく。そして彼はあらかじめ決められていたかのように振り返らないまま背後の客に声をかけた。
「何か御用ですかな? ラバシュム様?」
このジッグラトの頂点のもう片方、国王ラバシュムだった。
激闘の後にもかかわらずすさまじい速度だったが、それでもわずかにアンズー鳥が速い。
そんなミミエルを追い越すように黒い布が巻かれた矢がアンズー鳥を襲う。
シャルラが自らの掟、『触れたものの手を重くさせる掟』を使い、アンズー鳥の動きを封じようとしたのだ。
しかしアンズー鳥は巨体とは思えない風のような軽やかさでその矢を避けた。
「速っ!?」
次いでターハが手近に落ちていた岩……おそらく天の牡牛の眷属の欠片をぶん投げる。
しかしそれもすいすいと躱す。
もうアンズー鳥は核の目と鼻の先まで迫っている。だがそれは同時にアンズー鳥の動きが限定される瞬間でもある。
ラマトが自らの槍を全力で投擲する。まっすぐにアンズー鳥へと向かい、間違いなく当たる。
だがぐりんと、首を巡らせたアンズー鳥はそのくちばしで槍をくわえこんだ。
思わず絶句する三人。
だがミミエルだけは、回避や迎撃でわずかに遅れたアンズー鳥に追いつき、その二つの槌を振るおうとして。
「おっと。やらさへんで」
「っ!?」
もう一羽のアンズー鳥に迎撃された。
かろうじて攻撃は防いだが、大きく弾き飛ばされる。その隙にもう一羽のアンズー鳥が核をそのかぎ爪で掴み、驚くほど巨大な核を持ち去ろうとする。
「あんたたちいったい何なの!?」
「なんや言われてもなあ。契約を果たしてるだけや」
「契約? 誰と?」
「ああ、そらあ……」
「ちょい。あんた話しすぎやで」
「時間の問題や。もうええやろ」
ミミエルたちは独特な話し方をするアンズー鳥に少し面食らっていた。なんというか、アンズー鳥とは品位や神聖さがあると思っていたのだ。
戸惑いながらもここにきて現れた理由は気になる。
もちろん物見遊山に来たわけではないのはわかっている。だからこそ嫌な予感が止まらない。
「時間の問題ってどういう意味?」
「もうちょいしたらわいらが契約した相手、知識の魔人があんたらに宣言すんねん」
「宣言って……何を?」
「はいはい。それは聞いてのお楽しみや。そろそろいくで。さっきから弓でこっち狙ってる女の子がおっかないねん」
母鳥らしきアンズー鳥は常に周囲を警戒している。シャルラから見ても隙は見当たらなかった。
空を覆うような巨大な翼がより一層強く羽ばたく。
巨大な核は持ち上がり、ともにアンズー鳥も空に浮かぶ。
四人はそれを見送るしかできなかった。
「エタ。あのアンズー鳥、どう思う」
ミミエルは携帯粘土板でエタに連絡を取った。
『実は……あのアンズー鳥と会ったことがあるんだ』
その言葉に低い声で反応したのはシャルラだ。
「……そう。後で話を聞く必要がありそうだけど……まずはあのアンズー鳥は何が狙いなの?」
『それはわからない。でも、知識の魔人が誰なのかは見当がつくよ』
エタの声はどこか苦悩しているような、信じたくないような声だった。
「いったい誰なの?」
『多分、知識の魔人は知識を集めるために人の社会で暮らしている。そして……この国で最も知識を持っている人は……』
あ、と四人は声を出した。
誰もが、顔と名に心当たりがあったのだ。
この時期、この地域では雲一つない晴天が常である。
しかし、ジッグラトの入り口から覗く景色は暗雲が立ち込めていた。それは季節外れの雨を予感させ、誰もそれが吉兆か凶兆かを判断できなかった。
そこから空を眺めるのは白い老人だった。
誰あろう、このジッグラトの頂点の片翼、アトラハシスであった。
彼の丁寧に編み込まれた髭が揺れる。衣服ははためく。そして彼はあらかじめ決められていたかのように振り返らないまま背後の客に声をかけた。
「何か御用ですかな? ラバシュム様?」
このジッグラトの頂点のもう片方、国王ラバシュムだった。
1
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる