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歓迎と理由
招待
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「ドナドナドーナードーナー♪」
「……気分が滅入るからやめてくれ」
僕と灯花は賓客用と説明された馬車に揺られ、とある場所へ向かっていた。
行き先は首都ドラグ・ニスト。
なぜそんな場所へ向かうことになったかというと……。
あの後、エルさんとハディ近くの野営地に到着すると、傷だらけの人達に出迎えられた。
謎の敵に襲撃を受けて多数の負傷者が出たらしく、エルさんを追いかけようにも無事な馬が居なくて街からの応援を待っていたそうだ。
やっと来た馬に比較的軽傷の人を乗せてエルさんのもとへ……というタイミングで僕達が帰ってきて野営地は大騒ぎ。
それからの僕はと言うと、野戦病院のようになっていたテントを回り、治療の聖法を負傷者にかけていた。
どうしてカガリから習っていない聖法が使えるのかはまた後で説明する。
「シェレちゃんに乗りたかったでござる~」
灯花はエルさんが乗っていた馬が空を飛べるということを知って、2人乗りでいいから乗せて欲しいと何度もせがんだ。
「……仕方ありません。特別ですわよ?」
飛行機に乗ったことの無い灯花は大喜びで、フライトを終えても興奮冷めやらぬ状態って感じだった。
……まぁ、僕もあとから乗せてもらったんだけど。
2日ほど経って一通りの治療が終わった頃、なにやらおとぎ話の貴族や王様が乗ってそうな馬車が野営地にやって来た。
書状を持った男の人が言うには、僕と灯花を首都に招くことが議会で決まったので同行願いたい……とのこと。
「普通に考えて、”はい”か”いいえ”で”いいえ”を選ぶと無限ループに入る種類のイベントでござろうな」
どの道、僕達だけじゃ旅を続けられない。拒否する理由は無かった。
「狭い車でお二人にはご不便をお掛けしますが、何卒ご容赦を……」
白髪に白い髭の男性……ヨウケンさんは深々と頭を下げる。
「いえいえ!灯花、静かにしてろって……!」
灯花を窘めて、僕はヨウケンさんの右腕を見る。
「あの、僕じゃ腕を治せなくて……すいませんでした」
骨折やちぎれかけた手足は治せたものの、その場に無かったヨウケンさんの腕は治せず、傷口を塞ぐことしかできなかったのだ。
「なんのなんの!10年前の戦場に置いてきたと思えば、この老いぼれの腕の一本くらい安いものです」
ペシっと左手で右腕部分を叩くヨウケンさん。
「あなたのおかげで多くの若い団員や鬼馬が除隊せずに済んだのです。感謝してもしきれませんぞ」
ホッホッホッとにこやかに笑いながらあごひげをなぞる姿に、僕は祖父を思い出していた。
「それにしても、拙者たちはどんな用事で呼ばれたのでござろう?」
カガリの口添えがある以上、不法入国で逮捕……なんて話にはならないと思う。
「恐らくは今回の一件の事情聴取と、治療に関するお礼をする為の招待ではないかと」
「その……僕たちが魔族と戦った件ですが、これって滅多にないことなんですか?」
僕の質問にヨウケンさんが頷く。
「勿論ですとも。戦争が終わってすぐの頃は残党との散発的な小競り合いがありましたが、我が国だと少なくともここ数年は無かったと記憶しております」
なるほど……。もしかして、僕と灯花がこっちの世界に飛んできたことと何か関係があるのかな?
「なに、こうやって賓客待遇の馬車を用意されているのです。不安にならず、首都までの旅路をごゆるりとお楽しみくだされい」
窓を流れる外の風景を見て肩の力を抜き、ここ数日の緊張をほぐそうと目を閉じる。
あの時、カガリを庇って槍で刺されたところまでは記憶がある。
が、そこから灯花に起こされるまでの記憶が無い。
気を失っている間にカガリが治療してくれた……と考えるのが自然だけど、何か重要な出来事が頭からすっぽり抜けてしまっているような気がする。
ポス
「しばらく昼寝するでござる」
灯花が僕の太ももに頭を乗せて寝始めた。
「おいおい、もっと向こうに寄れば膝枕しなくても……。まぁ、いいか」
静かになるのならこのままにしておこう。灯花も毎日楽しげに振る舞ってはいるが、きっと精神的にも肉体的にも疲れているはずだし。
僕は窓からの光が眩しくないように、灯花にアイマスク代わりのハンカチをかぶせた。
「……気分が滅入るからやめてくれ」
僕と灯花は賓客用と説明された馬車に揺られ、とある場所へ向かっていた。
行き先は首都ドラグ・ニスト。
なぜそんな場所へ向かうことになったかというと……。
あの後、エルさんとハディ近くの野営地に到着すると、傷だらけの人達に出迎えられた。
謎の敵に襲撃を受けて多数の負傷者が出たらしく、エルさんを追いかけようにも無事な馬が居なくて街からの応援を待っていたそうだ。
やっと来た馬に比較的軽傷の人を乗せてエルさんのもとへ……というタイミングで僕達が帰ってきて野営地は大騒ぎ。
それからの僕はと言うと、野戦病院のようになっていたテントを回り、治療の聖法を負傷者にかけていた。
どうしてカガリから習っていない聖法が使えるのかはまた後で説明する。
「シェレちゃんに乗りたかったでござる~」
灯花はエルさんが乗っていた馬が空を飛べるということを知って、2人乗りでいいから乗せて欲しいと何度もせがんだ。
「……仕方ありません。特別ですわよ?」
飛行機に乗ったことの無い灯花は大喜びで、フライトを終えても興奮冷めやらぬ状態って感じだった。
……まぁ、僕もあとから乗せてもらったんだけど。
2日ほど経って一通りの治療が終わった頃、なにやらおとぎ話の貴族や王様が乗ってそうな馬車が野営地にやって来た。
書状を持った男の人が言うには、僕と灯花を首都に招くことが議会で決まったので同行願いたい……とのこと。
「普通に考えて、”はい”か”いいえ”で”いいえ”を選ぶと無限ループに入る種類のイベントでござろうな」
どの道、僕達だけじゃ旅を続けられない。拒否する理由は無かった。
「狭い車でお二人にはご不便をお掛けしますが、何卒ご容赦を……」
白髪に白い髭の男性……ヨウケンさんは深々と頭を下げる。
「いえいえ!灯花、静かにしてろって……!」
灯花を窘めて、僕はヨウケンさんの右腕を見る。
「あの、僕じゃ腕を治せなくて……すいませんでした」
骨折やちぎれかけた手足は治せたものの、その場に無かったヨウケンさんの腕は治せず、傷口を塞ぐことしかできなかったのだ。
「なんのなんの!10年前の戦場に置いてきたと思えば、この老いぼれの腕の一本くらい安いものです」
ペシっと左手で右腕部分を叩くヨウケンさん。
「あなたのおかげで多くの若い団員や鬼馬が除隊せずに済んだのです。感謝してもしきれませんぞ」
ホッホッホッとにこやかに笑いながらあごひげをなぞる姿に、僕は祖父を思い出していた。
「それにしても、拙者たちはどんな用事で呼ばれたのでござろう?」
カガリの口添えがある以上、不法入国で逮捕……なんて話にはならないと思う。
「恐らくは今回の一件の事情聴取と、治療に関するお礼をする為の招待ではないかと」
「その……僕たちが魔族と戦った件ですが、これって滅多にないことなんですか?」
僕の質問にヨウケンさんが頷く。
「勿論ですとも。戦争が終わってすぐの頃は残党との散発的な小競り合いがありましたが、我が国だと少なくともここ数年は無かったと記憶しております」
なるほど……。もしかして、僕と灯花がこっちの世界に飛んできたことと何か関係があるのかな?
「なに、こうやって賓客待遇の馬車を用意されているのです。不安にならず、首都までの旅路をごゆるりとお楽しみくだされい」
窓を流れる外の風景を見て肩の力を抜き、ここ数日の緊張をほぐそうと目を閉じる。
あの時、カガリを庇って槍で刺されたところまでは記憶がある。
が、そこから灯花に起こされるまでの記憶が無い。
気を失っている間にカガリが治療してくれた……と考えるのが自然だけど、何か重要な出来事が頭からすっぽり抜けてしまっているような気がする。
ポス
「しばらく昼寝するでござる」
灯花が僕の太ももに頭を乗せて寝始めた。
「おいおい、もっと向こうに寄れば膝枕しなくても……。まぁ、いいか」
静かになるのならこのままにしておこう。灯花も毎日楽しげに振る舞ってはいるが、きっと精神的にも肉体的にも疲れているはずだし。
僕は窓からの光が眩しくないように、灯花にアイマスク代わりのハンカチをかぶせた。
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