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暴露と覚醒

魔王の呪い

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 正直な話、異世界なんてどうでもよかった。
 バイトに行って働いて、家に帰ったら母さんと華日はなびとご飯を食べて。
 たまに灯花とうかが手作りのおかずを持ってきてくれたりして。
 たしかに部活は面白そうだったけど……僕はそれでも楽しい毎日を過ごせてた。
 サーラさんにこの世界へ呼ばれた理由を説明されたけど、やっぱりよく分からない。
 どこかの王様と魂の形が同じ?一体それがなんなんだろう。
 そんな事のせいでたくさんの人たち……僕達を襲ってきた化け物はともかく、サーラさんやアルネリアちゃんみたいな普通の人も犠牲になったなんて。
 自分に非が無いと言われても、僕はそんな簡単には割り切れない。
 灯花の背中の刺青いれずみ?だってそうだ。日本に帰ったら灯花の親になんて説明すればいいんだろう?
 それにこっちの世界に来てどのくらいった?伝言も無しに急に消えた僕らを、きっとみんな心配してるよな……。
 ベッドに寝転んで目を閉じても、今まで見て見ぬふりしてきた底知れない不安に襲われだして眠ることすらできない。
 そして――――――。
お前は誰なんだ・・・・・・・?」
 カガリが居なくなったあの日から、僕がなにか疑問を持つと時折ときおり聞こえる声。
 自分だけにしか聞こえない声。
 それと、なにか大事なことをどうしても思い出せないような……そんな感覚が頭の片隅から離れない。
 僕は何を忘れている?
 こんな時こそに話してほしいのに。
 コンコン
 部屋のドアがノックされた。
「……入ってもいい?」
 誰だろう?
「ど、どうぞ……?」
 開いたドアから入ってきたのはアルネリアちゃんだった。
「お姉さまたちが二人でお話してて、たいくつだから来ちゃった……。ユウお兄さま大丈夫?」
 会話に混ざれないのがつまらなかったのだろう。僕に気をつかいつつも心なしか表情が不機嫌そうだ。
 ベッドのはしに座ると、そのまま寝転がって僕の足をまくらにする。
「アルネリアちゃん……アルネリアちゃんは僕が怖くないの?」
 いくら兄とそっくりとは言え、大勢おおぜいの人を犠牲ぎせいにしてこの世界に来た僕のことを。
 怖いと思わないのかな。
「ううん。ユウお兄さまはただ呼ばれただけだもん」
 横向きに寝転がり、僕の顔をしっかりと見据みすえる。
「それにユウお兄さまが怖い人じゃないって、お姉さまもアルも知ってるよ?」
「そっか……」
 怖がられたり嫌悪けんおされていないということを知って、少し心が軽くなった気がする。
 それを見て嬉しくなったのか、アルネリアちゃんがゴロンゴロンとベッドの上を転がって往復おうふくする。
「ユウお兄さまたちがいた世界ってどんなところだったの?」
 アルネリアちゃんは好奇心に目を輝かせながら、無邪気に僕へと質問を投げかける。
「僕達が住んでた"世界"と言うより、日本って言う国はね……」
 少し遠くなりつつある記憶を思い出しながら、僕はアルネリアちゃんに故郷のことを語り始めた。



「血の繋がりが無い……?」
「ええ。お兄様は異母兄弟ですから」
 サーラ氏がグラスの水を飲む。
 やはり側室そくしつがあるのは王族だと当たり前なのでござるなぁ。
「権力争いとか無かったのでござるか?」
「私たちが4歳の時にお兄様は魔王紋まおうもんを発現させていましたし、その時点で権力争いなんて起きようがありませんもの」
「それはすごい事なのでござろうか?」
「同じ時代に魔王紋持ちが二人いることが前代未聞ぜんだいみもんです。すごいなんて話じゃありません」
 サーラ氏の話によると、どういった理屈かは分からないが魔王は生殖能力せいしょくのうりょくが封じられて子供が出来なくなるらしい。
 それにより魔界では世襲制せしゅうせいと言うものはなく、魔王紋に選ばれし突出とっしゅつした"個"が全てを支配するのだとか。
「その封印……というより呪いをいた人がお義母かあさまなのです」
「お兄様のお母様……」
 不治の病を治したようなものでござるし、そんな女性にれてしまうのも当然というもの。
「でも、10年前の戦争の発端ほったんも……そのお義母さまでした」
「何があったのでござるか?」
「暗殺です。人界じんかいのどこかの国がはなった刺客しかくにより殺害され、それに激昂げっこうした父が挙兵きょへいした……と私は聞いています」
 愛する人を殺された怒りで戦争が起きてしまった……と。
「それで、どうして戦争は終わったのでござるか?」
 テッサ氏の話では終戦の理由は不明瞭ふめいりょうでござった。しかし、当事者に限りなく近い場所にいたサーラ氏なら知っているのかも……?
「お兄様が終わらせました。お父様を殺し、次代の魔王として君臨くんりんすることで」
 親殺し。それは拙者が想像していた理由とは全然違うもの。でも、それだと兄がかたきになるのでは?
「……うらんでいないのでござるか?」
「いいえ、お兄様は正しい判断をしました。どこの国の刺客かも分からない内に人界全体を敵に回すような侵攻しんこうをするなんて、王のすべかおこないではありません」
「……愛する人を殺されたのでござるよ?」
「それでもです。感情を制御できない者が……たみを不幸にする者が王であることなど到底とうてい許されることではありませんから」
 言葉が静かに響く。もしかすると……父親の姿を見たことが、今の冷静沈着なサーラ氏に繋がっているのかも。
「……となると、お兄様が魔王になったのにどうして二人は魔界にいないのでござる?」
「それは……私達のお母様のせいです」
 次の王をまだ幼い子供がつとめることになると、そこにつけ込んで利用しようとする大人が現れる……どこの世も同じでござるな。
「お母様は私達にもいずれ魔王紋が発現するという世迷言よまいごとを盾に王位を要求し、そのせいで起きるはずのない政争が始まりました」
「……しかし、既に魔王の証が出ている以上は勝負が決まっているのでは?」
「お兄様は……お兄様は私達と違って純粋な魔族ではありませんでしたから」
 しぼり出すように言葉をつむぐサーラ氏。
「お兄様は人であるお義母様・・・・・・・・と魔人であるお父様のあいだに産まれた混者まざりものだったのです」
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