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アルド・カガリ

カガリの過去(2/3)

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「ふぅ~!」
 畑の手伝いが終わってみんなでひと休み。
「みんな~!おじじが蜜飴みつあめくれたよ~!」
 メリルが木の箱に入った飴を皆にくばっている。
「カガリも食べよっ?」
「うん!メリルねえありがとう」
 貰った飴を口に放り込むと少しずつ蜜が溶けだして口の中に甘さが広がる。
「みんなのおかげで使える畑が増えたぞぃ。美味うまい野菜をいっぱい食わしてやるからな」
「わーい!」
 おじじもみんなも笑顔だ。
「それじゃ、次は笑牛ラクトのお散歩に行くよ~!」
「「「「「はーい!」」」」」
 いつもニコニコ笑顔(に見える)の笑牛をみんなで草原へと連れていく。



「ただいま~!」
「おかえりカガリ」
 家に帰るとお母さんがたくさんのご馳走ちそうを用意していた。
「ごはんがこんなにたくさん!誰か来るの?」
 それを聞いてお母さんは微笑ほほえむ。
「あらあら、忘れちゃったの?今日はカガリの誕生日じゃない」
 忘れてた。今日はボクの五歳の誕生日だった。
「お客さんも来るからカガリも手を洗ったら準備を手伝ってね」
「はーい!」


「ほー、カガリももう五歳になったのかぁ」
 持ち込んだ赤麦酒レィルを飲みながら、ガヤンがカガリの頭をわしゃわしゃとでる。
「アンタまだ日も暮れてないのに飲みすぎじゃないの?明日も畑仕事があんのよ?」
 それを見たガヤンの奥さんが一言たしなめるとガヤンの手がピタッと止まった。
「ん……。まぁ、酒はこのへんにしとくか。ちょっと顔を洗ってくる」
 ガヤンが席を立つと、そこにナヤンが座る。
とうちゃん、ああやって言われたらすぐにいを覚ましに行くんだ」
 かあちゃんが怒ったらめちゃくちゃ恐いんだよ。ナヤンがこっそりとボクに耳打みみうちする。
「ナ~ヤ~ン~?」
「やべっ」
 コソコソ話を聞かれていたのか、逃げようとしたナヤンはすぐに捕まった。
「この子ったら、だんだん若い頃のガヤンに似てきたわねぇ!」
「うわぁ!?ごめんよ母ちゃんっ!!」
 それを見た大人たちは笑い合う。
「カーガリっ!」
 聞こえた声の方へ振り向く前にメリルがボクを抱きかかえた。
「メ、メリル!?なんかお酒くさいよ!?」
 こっそり赤麦酒を飲んだのかな?
「んへへへぇ~。お酒なんて飲んでないよぉ?」
 明らかに酔っぱらっている。
「もう~、水飲んでっ!明日あたま痛くなっちゃうよ?」
 メリルに机の上に置いてあった水を渡す。
「カガリありがとぉ~。んくっんくっ」
 自分の誕生日なのに自分より楽しんでる人ばかりなのは少し不思議だけど、そんなに悪い気はしない。
「カガリ~!助けてくれぇ!」
 なんとか逃げ出してきたナヤンがボクの後ろに隠れた。
「ナヤンったら、相変わらずお母さんに弱いねぇ」
 まだ酔いの残るメリルがナヤンをあおる。
「メ、メリル姉は母ちゃんの恐ろしさを知らないんだっ!」
「まだ言うのかい~?」
「ひぃっ!!」
 ナヤンは悲鳴を上げて逃げていった。
「あはは……」
「カガリも笑ってないであっち行きましょ!ポリフおじじの楽器に合わせて一緒に踊ろっ!」
 ボクか答えるよりも先に、メリルはボクの手を引っ張って強引に連れて行く。
「あぁ~楽しいなぁ!次は誰の誕生日かな?毎日が誕生日なら良いのにね~!」
 それは"踊る"と言うよりも、メリルに"振り回されてる"と言った方が正しかった。



「今日はみんな楽しそうだったね~」
「うん……とっても楽しんでたと思う……」
 ポリフおじじの楽器が故障こしょうするまでずっと振り回されていたボクの体力は限界を迎えていた。
「それじゃカガリ……また明日」
 そう言ってお母さんはボクのおでこを撫でる。
「おやすみ……お母さん」
 まぶたを閉じると、ボクはそのまま眠りについた。
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