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ナルアポッドの族長たち

全ての始まり

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「ふぅ~。ひどいにあったわい」
 一通ひととおえてスッキリしたかお子供こども(おそらく少女しょうじょ)は僕の水筒すいとうして一息ひといきつく。
「ん? なんじゃ、わらわかおになんぞいておるのか?」
 自身じしんほほでる少女。
「えっと……どうしてかばんなかにいたんですか?」
 まわりにはサーラさんとアルネリアちゃんのほか身長しんちょう三メートルくらいはありそうな筋肉質きんにくしつおとこひと……人? が何人なんにんるけどもうれた。
「なぁに、加護かご同士どうし喧嘩けんかれるといて見物けんぶつたら、丁度ちょうどいい具合ぐあい寝床ねどこいてあったから昼寝ひるねしていたのじゃ」
(学生がくせいかばんの中で昼寝? 普通ふつう無理むりだろ……)
 当然とうぜん、この少女は普通ではない。
 いま小学生しょうがくせいくらいの身長しんちょうだが、鞄からしたときねこ程度ていどのサイズしかなかった。
「えっと……結局けっきょくのところ、何者なにものなのでござるか?」
 出会であいがあまりにも強烈きょうれつだったせいか、灯花とうか気味ぎみだ。
「何者……。わらわはツギビキぞくのネル・アウラじゃ。エボンもそうじゃが、これはなんのあつまりなのじゃ?」
「あぁ、魔界まがいわだりでぇってアザムんとこのじょうちゃんたぢてなぁ」
「なんじゃ、よく見れば魔王まおうむすめではないか。むむ? 先代せんだい魔王まおうむすめたち聖女せいじょ混者まざりもの魔王まおうとはこれまた面妖めんような……」
「……混者まざりもの? だれがですか?」
 言っていることが分からずたずねる僕に、少女は不思議ふしぎそうなかおをしつつこたえた。
「おぬしじゃよ。たところ、しんぞうあたりに気配けはいかんじるのう」
 混者まざりもの……ひと魔族まぞくあいだまれた子供のことだとサーラさんからいている。
「ははぁん……。そやつ、えらくおおきな法力マナうつわかとおもえば、人造じんぞう魔族まぞくというやつじゃな?」
 なにかに得心とくしんったのか、少女は得意気とくいげかたりだした。
「人の身体からだ魔石ませきみ、人のまま魔法まほう使つかえるようにする外法げほう普通ふつうは身体にわんでぬがの」
 さらっとっているが、もしかしなくてもとんでもないことを言われたようながする。
「イズナの姉御あねごめ……久方ひさかたぶりにこえけてきたかと思えば、世間せけんでは面白おもしろそうなこときているようじゃのぉ」
 少女……アウラはたのしそうにケラケラとわらい、先程さきほどエボンとんでいた大男おおおとこ背中せなかによじのぼる。
「ほれ、むらまで案内あないせい。いそがねばぬというわけでもないのなら、しばしかたらいおうぞ」



「なに? おぬしらはべつ世界せかいからたじゃと?」
 村の中でも一際ひときわおおきなお屋敷やしきまねかれ緊張きんちょうする僕らをよそに、まるで自分じぶんいえかのように少女はくつろぐ。
 「そんな話は聞いたこといが……まぁ、ことなる世界が存在そんざいしても不思議ふしぎとはおもわん」
「どうしてですか?」
わらわゆめなかでイズナの姉御やゴルジの兄御あにごうが、そこはこのとはてもつかんからの。この世のほかに知らぬ世界があってもおかしくはなかろうよ」
「……さっきも言っていたでござるが、"イズナ"とは人の名前なまえなのでござろうか?」
 イズナと言えば僕達にとっては聖法イズナの事だが、この少女は誰か特定とくてい人物じんぶつかたっているように見える。
「あ~、異世界いせかいものらが知らぬのも仕方しかたない……」
 パンパンとたたくと、さっきの男の人たちより一回りほど小さい女の人たちが何やらものはいったうつわを持って入ってきた。
「やはりくちまわりをよくするにはこれじゃの。それでは! カヤノク大陸この世つくりし二柱神にちゅうしん説話せつわ、とくとけい!」
 本来ほんらいならかねるのじゃがの、とつぶやいてアウラはかたはじめた。



————とおい遠いはるむかしのこと。
 神々かみがみくにおな二柱ふたばしら幼神おさながみまれた。
 智慧ちえの神の寵愛ちょうあいけ、夜色よるいろかみをもって産まれたやみの神ゴルジ。
 の神の寵愛を受け、黄金こがねいろの髪をもって産まれたひかりの神イズナ。
 出会であったその日からゴルジをったイズナは、毎日まいにちのようにあそびにさそっていかけてはよくげられていた。
 追跡ついせきいたゴルジがまってかうのは神々の知識ちしきほんとしてまれた回廊かいろう書庫しょこ
 ゴルジはそこで知識欲ちしきよくおもむくままにほんを読みふけっていた。
 そんな日々ひびおくっていたある日のこと。
 書庫のたないてあった本がゴルジの興味きょうみつよせた。

創世そうせい秘法ひほう

 本来ほんらい、全ての神は産まれて成熟せいじゅくしたのちひとつの世界せかい統治とうちまかせられる。
 そのさいもちいられる秘法の手順てじゅゅんしるされた本をつけてしまったのだ。
 好奇心こうきしんおさえられず、ゴルジがその本をしてしまったことから————


————全てが始まった。
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