33 / 43
いくじなしと優男
2
しおりを挟む
「……わたしと? それは、どういう意味なの」
カトレアの問いには答えず、ジャックは腰に手を当て、沈んだ瞳で語った。
「俺が生きていると、立場が危うくなる人間がいてな。エリゼオ様が懸命に働きかけてくれたが、頑として受け入れてくれなかった。やり場のない感情を武術に明け暮れることで紛らわしていたら、十五の頃アルベール王からお声がかかった」
アルベール王は、主に身寄りのない、身体能力に優れた者を集めていた。彼らは王に名を捧げ、偽名を名乗り、表に出ない特殊な任務を課される。
万が一任務を遂行出来ず、最悪死亡した場合も、捧げた名と共に人知れず葬られる。誰も彼らの本当の名を知らない。悲しむ家族もいないのだ。
「俺はそういう生き方の方が向いていると思い、二つ返事で承諾した。サフランはあの時からずっと反対している。けど、俺の人生を他人の都合や想いに左右されたくない。いっそ独りの方が、気が楽だ」
何と声をかけたら良いのか、頼りなげな言葉が浮かんでは泡のように消えていく。ジャックとの間にかき分けることの出来ない茨の壁がそびえ、隔たれているようだった。
彼は野を駆ける孤独な獣だ。誰とも群れず、情を交わすこともなく、いつ死んでもいいとその日暮らしを続けている。それが、たまらなく悲しかった。
うつむくカトレアに歩み寄り、ジャックは顔を覗き込む。身の上に心を痛めていると知れたら、彼は馬鹿げていると一蹴するだろう。
押し黙っていると、ジャックは壁に腕をつけ、カトレアの肩口から波打つ髪を一房手に取った。ゆるやかに上下する胸のあたりから頬、耳にかけて、たちまち熱が放出されていく。乏しい明かりの中で、どうか火照りが気づかれないよう、必死に息を殺した。
ジャックは手の中で確かめるように髪を弄ぶと、ためらいがちにつぶやいた。
「だけど、お前の姿を見ていると、妙な気分になる。どれだけ疎まれ、蔑まれ、陥れられても、一心に自分の追い求めるものを見据えている……」
するりと離した手は、カトレアの胸元に下がったロケットに伸びた。あの晩、短剣の刃先で傷付いた箇所を指先でなぞられると、直に触れられたように胸の奥が焼けついた。
「俺は、わざとここを狙ったんだ。お前を、殺さないように。今はそれで良かったと、自然と納得出来る」
唇を引き結び、ただジャックの一挙一動を見つめる。心臓の音が聞こえそうな距離で、夜空よりも深い色をした眼差しが近づく。
ジャックの手が、カトレアの頬に伸びた時だった。足早に床を鳴らす音が近づいてきた。
ほどなくして、客室の方から蝋燭台を手にした金髪の青年が現れた。彼は二人の様子を目にすると、眼光鋭く割って入る。
「このような時間に、カトレア様を連れ出して何用だ」
「レイ!」
カトレアが咎めても、レイは立ちはだかったままだ。ジャックは持て余した手を握りしめ、いつもの軽薄な笑みで答える。
「俺が連れ出したんじゃない。立ち聞きしていた所を捕まえて、こらしめていただけだ」
真に受けたレイは肩をいからせ、カトレアを廊下の方へ遠ざけると厳しい声音で忠告した。
「いくらカトレア様を逃がしたとはいえ、図に乗るな。貴様のような輩に、みだりにカトレア様を近づけたくない」
行きましょうと促され、無理矢理部屋へ連れ戻される。レイの肩越しにジャックを見やると、先程のやりとりが幻のように、片方の口角を上げたたずんでいた。
二人に充てられた客室に戻ると、レイは蝋燭台を小さな食卓に置き、深々とため息をついた。
「貴女も貴女です。あの男は所詮、役目を果たすだけのために遣わされた者。どうか身分をわきまえますよう」
「それが、あなたに言える台詞なの? あなたはジャックに妬いているのよ。自分が今までしたことを差し置いて、わたしを守ってくれたジャックによく言えたものね」
レイを連れてきたのは、イーデンの無慈悲な処刑から逃すためだ。だが事情を知っていても、レイが救いの手を差し伸べなかったことは主として、許してはいけないのだ。
レイは苦痛に歪んだ顔で、しばらくの間黙りこくっていた。夜の外気が通気口から流れ込み、ひとつ身震いする。
「レイ、あなたにも勿論ついて来てもらうわ。もう寝ましょう」
毛布に手をかけると、レイが強張った表情で近寄る。そのままカトレアの足元に跪くと、細い手を取り、両手で包み込んだ。
「……レイ?」
呼びかけると、レイはうつむいたまま、両手に力を込めた。
「……貴女の仰る通りです。私は、この手で貴女を守れなかった、自分の不甲斐なさを棚に上げておりました。ですが、貴女があの男と親しげにしているのを黙って見過ごせるほど、私は出来た人間ではないのです」
顔を上げたレイの双眸が、カトレアを真っ直ぐに射抜く。
気づいた時には、レイの腕に抱きしめられていた。込められた力と包み込む体温には、もう寸分のためらいもなかった。
「カトレア様……。貴女を、心からお慕いしております」
レイの切実な想いが、全身に突き刺さる。受け止める想いは抱えきれないほどに、共に分かち合った歳月の重みを伴う。
見返りを求めない、一途すぎる愛にこのまま身を委ねられたら、どんなに良いだろう。レイはきっと、今までの裏切りを償って有り余るほどの愛情をカトレアに注いでくれる。ジャックもそれを理解した上で、あのように促したのだろう。
けれどカトレアもまた、レイの想いを知り、同じ形の想いをジャックに抱いてしまった。だからこそ、応えることは出来ない。
「レイ……放してちょうだい」
想いは違えど、レイは肉親同然の存在だ。やんわりと押し返すが、放せば今生の別れとなるかのように、レイはきつく腕を食い込ませる。カトレアは心を鬼にして、腹の底から声を出した。
「放しなさい!」
全身から拒絶を示すと、レイはびくりと身を震わせた。おそるおそる離れ、片膝をつき頭を垂れる。
「……申し訳、ありません」
叱責を受け、うなだれる犬のようなレイがいたたまれず、カトレアもその場に膝を折った。親愛の念を込めて、骨ばった肩に手を添える。
「謝らなければならないのはわたしだわ。あなたに家族以上の感情を持てなかったのに、伴侶となることを約束し、さもあなたが自分のものであるかのように振る舞った」
結局は、レイの愛情を一心に受ける自分を誇示していた。幼い自己顕示欲が、レイの想いを弄んでいたのだ。
「あなたには伝えなければいけない。わたしは、ジャックが好きなの。初めて出会った時から、きっと……」
レイが顔を上げ、何か言いたげに唇を開く。カトレアは首を振り制止した。ひとたび自分の気持ちを認めると、驚くほど素直に、切々と想いが溢れた。
「あなたが言っていたことの意味が、ようやく分かったの。たとえこの想いが報われなくても、わたしはジャックを明るい陽の下へ連れて行きたい。彼に自由に生きて欲しい。本当の生きる喜びを、知って欲しいの」
カトレアはレイを立たせると、向かい合い腕を取った。
「それも含めて、アルベール王と交渉することが山ほどあるの。身勝手を承知で頼むわ。あなたにはイーデンにも仕えていた分、知恵を貸して欲しい。どうか、わたしが晴れてコルデホーザに戻る日まで、一緒に来て」
蝋燭の明かりを受け、儚く揺れていたレイの瞳が、徐々に本来の光を取り戻す。
誰よりもカトレアの騎士であることを誉れとするレイの微笑みは、決して通じ合うことのない想いを憂いながらも、新たな希望を芽吹かせていた。粛々とカトレアの手を取り、誓いの口付けを落とす。
「我が主。貴女に救われたこの身と心を尽くして、共に目指すもののため、お供致します」
カトレアの問いには答えず、ジャックは腰に手を当て、沈んだ瞳で語った。
「俺が生きていると、立場が危うくなる人間がいてな。エリゼオ様が懸命に働きかけてくれたが、頑として受け入れてくれなかった。やり場のない感情を武術に明け暮れることで紛らわしていたら、十五の頃アルベール王からお声がかかった」
アルベール王は、主に身寄りのない、身体能力に優れた者を集めていた。彼らは王に名を捧げ、偽名を名乗り、表に出ない特殊な任務を課される。
万が一任務を遂行出来ず、最悪死亡した場合も、捧げた名と共に人知れず葬られる。誰も彼らの本当の名を知らない。悲しむ家族もいないのだ。
「俺はそういう生き方の方が向いていると思い、二つ返事で承諾した。サフランはあの時からずっと反対している。けど、俺の人生を他人の都合や想いに左右されたくない。いっそ独りの方が、気が楽だ」
何と声をかけたら良いのか、頼りなげな言葉が浮かんでは泡のように消えていく。ジャックとの間にかき分けることの出来ない茨の壁がそびえ、隔たれているようだった。
彼は野を駆ける孤独な獣だ。誰とも群れず、情を交わすこともなく、いつ死んでもいいとその日暮らしを続けている。それが、たまらなく悲しかった。
うつむくカトレアに歩み寄り、ジャックは顔を覗き込む。身の上に心を痛めていると知れたら、彼は馬鹿げていると一蹴するだろう。
押し黙っていると、ジャックは壁に腕をつけ、カトレアの肩口から波打つ髪を一房手に取った。ゆるやかに上下する胸のあたりから頬、耳にかけて、たちまち熱が放出されていく。乏しい明かりの中で、どうか火照りが気づかれないよう、必死に息を殺した。
ジャックは手の中で確かめるように髪を弄ぶと、ためらいがちにつぶやいた。
「だけど、お前の姿を見ていると、妙な気分になる。どれだけ疎まれ、蔑まれ、陥れられても、一心に自分の追い求めるものを見据えている……」
するりと離した手は、カトレアの胸元に下がったロケットに伸びた。あの晩、短剣の刃先で傷付いた箇所を指先でなぞられると、直に触れられたように胸の奥が焼けついた。
「俺は、わざとここを狙ったんだ。お前を、殺さないように。今はそれで良かったと、自然と納得出来る」
唇を引き結び、ただジャックの一挙一動を見つめる。心臓の音が聞こえそうな距離で、夜空よりも深い色をした眼差しが近づく。
ジャックの手が、カトレアの頬に伸びた時だった。足早に床を鳴らす音が近づいてきた。
ほどなくして、客室の方から蝋燭台を手にした金髪の青年が現れた。彼は二人の様子を目にすると、眼光鋭く割って入る。
「このような時間に、カトレア様を連れ出して何用だ」
「レイ!」
カトレアが咎めても、レイは立ちはだかったままだ。ジャックは持て余した手を握りしめ、いつもの軽薄な笑みで答える。
「俺が連れ出したんじゃない。立ち聞きしていた所を捕まえて、こらしめていただけだ」
真に受けたレイは肩をいからせ、カトレアを廊下の方へ遠ざけると厳しい声音で忠告した。
「いくらカトレア様を逃がしたとはいえ、図に乗るな。貴様のような輩に、みだりにカトレア様を近づけたくない」
行きましょうと促され、無理矢理部屋へ連れ戻される。レイの肩越しにジャックを見やると、先程のやりとりが幻のように、片方の口角を上げたたずんでいた。
二人に充てられた客室に戻ると、レイは蝋燭台を小さな食卓に置き、深々とため息をついた。
「貴女も貴女です。あの男は所詮、役目を果たすだけのために遣わされた者。どうか身分をわきまえますよう」
「それが、あなたに言える台詞なの? あなたはジャックに妬いているのよ。自分が今までしたことを差し置いて、わたしを守ってくれたジャックによく言えたものね」
レイを連れてきたのは、イーデンの無慈悲な処刑から逃すためだ。だが事情を知っていても、レイが救いの手を差し伸べなかったことは主として、許してはいけないのだ。
レイは苦痛に歪んだ顔で、しばらくの間黙りこくっていた。夜の外気が通気口から流れ込み、ひとつ身震いする。
「レイ、あなたにも勿論ついて来てもらうわ。もう寝ましょう」
毛布に手をかけると、レイが強張った表情で近寄る。そのままカトレアの足元に跪くと、細い手を取り、両手で包み込んだ。
「……レイ?」
呼びかけると、レイはうつむいたまま、両手に力を込めた。
「……貴女の仰る通りです。私は、この手で貴女を守れなかった、自分の不甲斐なさを棚に上げておりました。ですが、貴女があの男と親しげにしているのを黙って見過ごせるほど、私は出来た人間ではないのです」
顔を上げたレイの双眸が、カトレアを真っ直ぐに射抜く。
気づいた時には、レイの腕に抱きしめられていた。込められた力と包み込む体温には、もう寸分のためらいもなかった。
「カトレア様……。貴女を、心からお慕いしております」
レイの切実な想いが、全身に突き刺さる。受け止める想いは抱えきれないほどに、共に分かち合った歳月の重みを伴う。
見返りを求めない、一途すぎる愛にこのまま身を委ねられたら、どんなに良いだろう。レイはきっと、今までの裏切りを償って有り余るほどの愛情をカトレアに注いでくれる。ジャックもそれを理解した上で、あのように促したのだろう。
けれどカトレアもまた、レイの想いを知り、同じ形の想いをジャックに抱いてしまった。だからこそ、応えることは出来ない。
「レイ……放してちょうだい」
想いは違えど、レイは肉親同然の存在だ。やんわりと押し返すが、放せば今生の別れとなるかのように、レイはきつく腕を食い込ませる。カトレアは心を鬼にして、腹の底から声を出した。
「放しなさい!」
全身から拒絶を示すと、レイはびくりと身を震わせた。おそるおそる離れ、片膝をつき頭を垂れる。
「……申し訳、ありません」
叱責を受け、うなだれる犬のようなレイがいたたまれず、カトレアもその場に膝を折った。親愛の念を込めて、骨ばった肩に手を添える。
「謝らなければならないのはわたしだわ。あなたに家族以上の感情を持てなかったのに、伴侶となることを約束し、さもあなたが自分のものであるかのように振る舞った」
結局は、レイの愛情を一心に受ける自分を誇示していた。幼い自己顕示欲が、レイの想いを弄んでいたのだ。
「あなたには伝えなければいけない。わたしは、ジャックが好きなの。初めて出会った時から、きっと……」
レイが顔を上げ、何か言いたげに唇を開く。カトレアは首を振り制止した。ひとたび自分の気持ちを認めると、驚くほど素直に、切々と想いが溢れた。
「あなたが言っていたことの意味が、ようやく分かったの。たとえこの想いが報われなくても、わたしはジャックを明るい陽の下へ連れて行きたい。彼に自由に生きて欲しい。本当の生きる喜びを、知って欲しいの」
カトレアはレイを立たせると、向かい合い腕を取った。
「それも含めて、アルベール王と交渉することが山ほどあるの。身勝手を承知で頼むわ。あなたにはイーデンにも仕えていた分、知恵を貸して欲しい。どうか、わたしが晴れてコルデホーザに戻る日まで、一緒に来て」
蝋燭の明かりを受け、儚く揺れていたレイの瞳が、徐々に本来の光を取り戻す。
誰よりもカトレアの騎士であることを誉れとするレイの微笑みは、決して通じ合うことのない想いを憂いながらも、新たな希望を芽吹かせていた。粛々とカトレアの手を取り、誓いの口付けを落とす。
「我が主。貴女に救われたこの身と心を尽くして、共に目指すもののため、お供致します」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる