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ロケット
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数日後、カトレアは道案内役にジャック、護衛としてレイを従え、峡谷の集落を発った。
エリゼオは温かな眼差しで旅の無事を祈り、サフランは思い詰めた様子で言葉少なに見送ってくれた。
出発にあたり、エリゼオは三人それぞれが馬一頭にまたがれるよう、駿馬を調達してくれた。国境の砦を抜け、ヴェルダ国領へ入ると、辺りの風景は荒れ地から徐々に森林地帯へと変貌していった。国境から先へ進むと険しい山脈があり、そこを境にしてヴェルダ国領に湿潤な空気がもたらされるのだという。
アルベール王の住まう王城は、国領のほぼ中央に位置する。城を目指す間、敵国の者であるカトレアとレイは正体を悟られぬよう、外套の頭巾を被り口元を覆い隠すことで人目を忍んだ。ヴェルダは夏に向かうこの時期、気温はひんやりとしていたが雨に見舞われることも多く、カトレアはじっとりした湿気に苦痛を強いられた。
ラランジャから馬を進めること七日。森林に囲まれた小高い丘の突端に、堅牢な城の外観が見えた。
堀池に囲まれ、高い外壁がそびえる石造りの王城は、さも広大な森の頂から国全体を見下ろす岩山のように映る。華美な装飾を一切そぎ落とした無骨な構えは、コルデホーザよりも古い歴史を誇るヴェルダの威厳を示していた。
昼下がりに到着したものの、見上げた空は薄暗い雲に覆われている。衛兵はジャックの姿を認めると、跳ね橋を上げ中へ招き入れた。カトレアとレイには「陛下がお待ちしておりました」との声がかけられた。
厩舎に馬を預け、城内に足を踏み入れると、数名の侍女がカトレアを取り囲んだ。旅塵を落とし身支度が整い次第、アルベール王自ら謁見を行いたいのだという。ジャックは別棟に自室があるらしく、一足先に去っていってしまった。
カトレアとレイはそれぞれ別の侍女たちに案内され、湯浴みと着替え、身繕いを済ませると、謁見の間に案内された。
両開きの扉にはつる草をモチーフとした装飾が施され、有機的な美を放っている。カトレアは若草色のドレスに袖を通し、薄い花弁のような感触を懐かしく思いながら、レイと連れ立って謁見の間に入室した。
コルデホーザの謁見の間よりも幅狭い室内は仄暗く、左右に並ぶ篝火が煌々と周囲を照らし出している。玉座に腰を据える一人の老人が待ち構えていたように身体を浮かせた。
見事な白髪を肩口まで垂らした、鷲を彷彿とさせる英明な面立ち。森林の深き緑をそのまま纏ったような天鵞絨のローブと、翠玉(エメラルド)をあしらった王冠。カトレアの父マーカスが狂王であるならば、こちらは賢王と呼ばれる、アルベール王その人であった。
カトレアはレイを従え、壇上の手前まで来ると一礼した。
「拝謁に上がりました、コルデホーザ王国第一王女、カトレアです。まずはこの命を救ってくださった数々のお計らい、深く感謝致します」
そっと目線を動かすと、玉座を覆う垂れ幕の隅にジャックが控えている。馴染みある眼差しが、カトレアの背筋を自然と伸ばしてくれた。
御齢六十になるヴェルダの君主は、群青色の双眸をわずかに細め、深くうなずく。
「そなたがこうしてここに立っていられるのは、何も儂のお陰ではない。半分はそなた自身の意志、もう半分はそなたを守った、様々な人間の力であろう」
王宮を追われてから出会った、幾人もの人々の顔が脳裏をよぎる。手を差し伸べてくれた者、払いのけた者。そばにいてくれる者、もう会うこともかなわない者。ふいに湧き上がった感傷を心の中で振り払った。
アルベール王は、カトレアの傍らに跪くレイに視線を移した。
「その者は、確かイーデンの伝令役として仕えていた男か。何故おぬしがここに」
問いにはレイ自ら顔を上げ、淀みのない口調で答えた。
「私は、カトレア様とジャックという男を始末するため、イーデンの手により追手として放たれました。しかし、任務に失敗した暁には斬首される運命だった私をカトレア様はご自身の従者として迎え入れ、救ってくださったのです」
そうか、とアルベール王は目元を和ませ、カトレアに視線を戻した。
「そなたらがラランジャに滞在している間、ジャックからの伝書を受け取った。我が国を真っ直ぐ目指さず、かの地を訪ねた成果は如何ほどであった」
カトレアは、ラランジャの栽培場で働く薬花師たちの顔を思い返した。
「わたしの抱いていた理想論だけでは、民を動かすことは出来ないのだと思い知らされました。そう気づけた以外にも、建国の祖ゆかりの地を踏み、これまで知らなかった先代の想いに触れることも出来ました」
「して、我が国を訪ねた今、そなたの望みは何か。申してみよ」
試すような口振りのアルベール王を見据え、カトレアは望みを告げた。
「まず、ラランジャの栽培場へコウジアの種を分けていただきたいのです。勿論無償でとは言いません。コルデホーザが費用を捻出します」
今のカトレアの立場では、金を積むことなど出来ない。その前にやるべきことがある。
「また、近いうちにイーデン率いるコルデホーザと、ヴェルダの再戦が行われるでしょう。その際、わたしとレイは貴国の軍勢に加わりたいのです」
レイが顔を上げるのが伝わった。ジャックは腕を組んだまま、こちらを静観している。この先は、誰にも打ち明けていない。
「戦の結果、貴国が勝利した暁には、イーデンを謀反人としてコルデホーザの刑法により裁きます。それからわたしが王位に就いた後、貴国と和平条約を結びたいのです」
イーデンの軍勢が勝利したら、という仮定は提示しなかった。彼が国の頂点に立つことはすなわちヴェルダだけでなく、ラランジャもいずれ降伏せざるを得ないということだ。今はただ、自分の目指すべき道だけを見つめていたい。
アルベール王は尖った顎に手を添え、ちらと脇に控える臣下に目を配ると眉根を寄せた。
「となると、事は急を要する。カトレア王女よ、そなたの立場が現在、祖国でどのようになっているのかご存じかな」
さっと血の気が失せた。コルデホーザの国境を突破後、カトレアの自害は一向に知れ渡る気配がなかった。
答えはおのずと導かれる。きつく握りしめた両の拳が震えた。
「……おそらく、わたしの生存が明示され、同時に貴国の軍門に下った反逆者として扱われているのでしょう」
「左様。そのためマーカスの崩御で膠着状態となっていた時とは異なり、既に昨日、再戦の宣戦布告がされておる」
戦慄が走った。喪に服す期間すら煩わしいということか。身震いするカトレアに寄り添うように、レイも立ち上がる。
「それでは……イーデンは、息子のティムを擁立したのですね」
建国の祖の直系がカトレアしか存在しない現在、母セルレアの甥であるティムが次位に最も近い。この事態を見据えての婿入りだったのかとうすら寒い思いだった。
「うむ。どのみち、戦は終結させねばならぬ。だがカトレア王女よ。そなたは儂の差し伸べた一縷の望みにすがりつくどころか、己の意志をもって姿を現してくれた。儂の考えと、ジャックの働きが決して無駄でなかったことを、今は嬉しく思う気持ちもあるのだ」
ジャックの話題に触れたことで、カトレアは目礼した後、思い切って申し出た。
「陛下。その……彼のことについて、お話ししたいことがあるのですが」
当のジャックが鋭い視線を寄越す。アルベール王は控えるジャックとカトレアを交互に見て、腰を浮かせた。
「ふむ……。では儂の私室にて話を伺おう。おぬしもな」
視線を投げかけられ、レイは目をしばたたかせる。ジャックは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、おとなしく従った。
アルベール王の私室に通され、衝立で遮断された手前の応接間に落ち着く。侍女が熱い紅茶をすぐに用意してくれた。湯上がりから少し冷めた頃だったので、一口飲むと身体に染み渡る。やはりヴェルダの紅茶は香り高く上品な後味だった。
カトレアとレイは隣に座り、アルベール王と対面する形となる。その間にジャックが腰を据えている。紅茶を味わうのもそこそこに、カトレアは切り出した。
「彼……ジャックと行動を共にするうちに、彼が陛下に名を捧げ、暗躍する集団に属する者だと知りました。同時に、彼の生い立ちも……。わたしは今のジャックが、己の生を全う出来ているとは思えません」
おせっかいはよせ、と言いたげなジャックの視線が突き刺さるが、主の面前なので口にはしない。カトレアはずいと身を乗り出した。
「どうか、彼を自由にしてください。彼自身が陛下に抗えないというのなら、わたしからお願いいたします」
深く頭を垂れると、レイが慌ててカトレアの肩を掴んだ。
「お言葉ですが、この男は本来貴女には関わりのない存在です。貴女が直々に願い出るようなことでは」
「レイよ。おぬしは、何も知らぬのだな」
突然声をかけられ、レイは真意が分からず怖々とアルベール王に頭を巡らせる。
アルベール王はおもむろに立ち上がると、衝立の奥から何かを取ってきた。手中に握られていた品を目にして、カトレアはおろか、レイは驚愕のあまり石像のように固まった。ジャックは憮然とした表情で目を伏せている。
「そんな……」
カトレアはわななく手で、胸元のロケットに手を伸ばした。
皺の寄った手のひらに乗せられている品は、まさしく母セルレアが、カトレアの生誕と共に贈ったロケットと同じものだった。カトレアのものより、表面の光沢が剥げており古びている。レイの視線はおのずと、これまで敵対心をむき出しにしてきた男に注がれた。
エリゼオは温かな眼差しで旅の無事を祈り、サフランは思い詰めた様子で言葉少なに見送ってくれた。
出発にあたり、エリゼオは三人それぞれが馬一頭にまたがれるよう、駿馬を調達してくれた。国境の砦を抜け、ヴェルダ国領へ入ると、辺りの風景は荒れ地から徐々に森林地帯へと変貌していった。国境から先へ進むと険しい山脈があり、そこを境にしてヴェルダ国領に湿潤な空気がもたらされるのだという。
アルベール王の住まう王城は、国領のほぼ中央に位置する。城を目指す間、敵国の者であるカトレアとレイは正体を悟られぬよう、外套の頭巾を被り口元を覆い隠すことで人目を忍んだ。ヴェルダは夏に向かうこの時期、気温はひんやりとしていたが雨に見舞われることも多く、カトレアはじっとりした湿気に苦痛を強いられた。
ラランジャから馬を進めること七日。森林に囲まれた小高い丘の突端に、堅牢な城の外観が見えた。
堀池に囲まれ、高い外壁がそびえる石造りの王城は、さも広大な森の頂から国全体を見下ろす岩山のように映る。華美な装飾を一切そぎ落とした無骨な構えは、コルデホーザよりも古い歴史を誇るヴェルダの威厳を示していた。
昼下がりに到着したものの、見上げた空は薄暗い雲に覆われている。衛兵はジャックの姿を認めると、跳ね橋を上げ中へ招き入れた。カトレアとレイには「陛下がお待ちしておりました」との声がかけられた。
厩舎に馬を預け、城内に足を踏み入れると、数名の侍女がカトレアを取り囲んだ。旅塵を落とし身支度が整い次第、アルベール王自ら謁見を行いたいのだという。ジャックは別棟に自室があるらしく、一足先に去っていってしまった。
カトレアとレイはそれぞれ別の侍女たちに案内され、湯浴みと着替え、身繕いを済ませると、謁見の間に案内された。
両開きの扉にはつる草をモチーフとした装飾が施され、有機的な美を放っている。カトレアは若草色のドレスに袖を通し、薄い花弁のような感触を懐かしく思いながら、レイと連れ立って謁見の間に入室した。
コルデホーザの謁見の間よりも幅狭い室内は仄暗く、左右に並ぶ篝火が煌々と周囲を照らし出している。玉座に腰を据える一人の老人が待ち構えていたように身体を浮かせた。
見事な白髪を肩口まで垂らした、鷲を彷彿とさせる英明な面立ち。森林の深き緑をそのまま纏ったような天鵞絨のローブと、翠玉(エメラルド)をあしらった王冠。カトレアの父マーカスが狂王であるならば、こちらは賢王と呼ばれる、アルベール王その人であった。
カトレアはレイを従え、壇上の手前まで来ると一礼した。
「拝謁に上がりました、コルデホーザ王国第一王女、カトレアです。まずはこの命を救ってくださった数々のお計らい、深く感謝致します」
そっと目線を動かすと、玉座を覆う垂れ幕の隅にジャックが控えている。馴染みある眼差しが、カトレアの背筋を自然と伸ばしてくれた。
御齢六十になるヴェルダの君主は、群青色の双眸をわずかに細め、深くうなずく。
「そなたがこうしてここに立っていられるのは、何も儂のお陰ではない。半分はそなた自身の意志、もう半分はそなたを守った、様々な人間の力であろう」
王宮を追われてから出会った、幾人もの人々の顔が脳裏をよぎる。手を差し伸べてくれた者、払いのけた者。そばにいてくれる者、もう会うこともかなわない者。ふいに湧き上がった感傷を心の中で振り払った。
アルベール王は、カトレアの傍らに跪くレイに視線を移した。
「その者は、確かイーデンの伝令役として仕えていた男か。何故おぬしがここに」
問いにはレイ自ら顔を上げ、淀みのない口調で答えた。
「私は、カトレア様とジャックという男を始末するため、イーデンの手により追手として放たれました。しかし、任務に失敗した暁には斬首される運命だった私をカトレア様はご自身の従者として迎え入れ、救ってくださったのです」
そうか、とアルベール王は目元を和ませ、カトレアに視線を戻した。
「そなたらがラランジャに滞在している間、ジャックからの伝書を受け取った。我が国を真っ直ぐ目指さず、かの地を訪ねた成果は如何ほどであった」
カトレアは、ラランジャの栽培場で働く薬花師たちの顔を思い返した。
「わたしの抱いていた理想論だけでは、民を動かすことは出来ないのだと思い知らされました。そう気づけた以外にも、建国の祖ゆかりの地を踏み、これまで知らなかった先代の想いに触れることも出来ました」
「して、我が国を訪ねた今、そなたの望みは何か。申してみよ」
試すような口振りのアルベール王を見据え、カトレアは望みを告げた。
「まず、ラランジャの栽培場へコウジアの種を分けていただきたいのです。勿論無償でとは言いません。コルデホーザが費用を捻出します」
今のカトレアの立場では、金を積むことなど出来ない。その前にやるべきことがある。
「また、近いうちにイーデン率いるコルデホーザと、ヴェルダの再戦が行われるでしょう。その際、わたしとレイは貴国の軍勢に加わりたいのです」
レイが顔を上げるのが伝わった。ジャックは腕を組んだまま、こちらを静観している。この先は、誰にも打ち明けていない。
「戦の結果、貴国が勝利した暁には、イーデンを謀反人としてコルデホーザの刑法により裁きます。それからわたしが王位に就いた後、貴国と和平条約を結びたいのです」
イーデンの軍勢が勝利したら、という仮定は提示しなかった。彼が国の頂点に立つことはすなわちヴェルダだけでなく、ラランジャもいずれ降伏せざるを得ないということだ。今はただ、自分の目指すべき道だけを見つめていたい。
アルベール王は尖った顎に手を添え、ちらと脇に控える臣下に目を配ると眉根を寄せた。
「となると、事は急を要する。カトレア王女よ、そなたの立場が現在、祖国でどのようになっているのかご存じかな」
さっと血の気が失せた。コルデホーザの国境を突破後、カトレアの自害は一向に知れ渡る気配がなかった。
答えはおのずと導かれる。きつく握りしめた両の拳が震えた。
「……おそらく、わたしの生存が明示され、同時に貴国の軍門に下った反逆者として扱われているのでしょう」
「左様。そのためマーカスの崩御で膠着状態となっていた時とは異なり、既に昨日、再戦の宣戦布告がされておる」
戦慄が走った。喪に服す期間すら煩わしいということか。身震いするカトレアに寄り添うように、レイも立ち上がる。
「それでは……イーデンは、息子のティムを擁立したのですね」
建国の祖の直系がカトレアしか存在しない現在、母セルレアの甥であるティムが次位に最も近い。この事態を見据えての婿入りだったのかとうすら寒い思いだった。
「うむ。どのみち、戦は終結させねばならぬ。だがカトレア王女よ。そなたは儂の差し伸べた一縷の望みにすがりつくどころか、己の意志をもって姿を現してくれた。儂の考えと、ジャックの働きが決して無駄でなかったことを、今は嬉しく思う気持ちもあるのだ」
ジャックの話題に触れたことで、カトレアは目礼した後、思い切って申し出た。
「陛下。その……彼のことについて、お話ししたいことがあるのですが」
当のジャックが鋭い視線を寄越す。アルベール王は控えるジャックとカトレアを交互に見て、腰を浮かせた。
「ふむ……。では儂の私室にて話を伺おう。おぬしもな」
視線を投げかけられ、レイは目をしばたたかせる。ジャックは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、おとなしく従った。
アルベール王の私室に通され、衝立で遮断された手前の応接間に落ち着く。侍女が熱い紅茶をすぐに用意してくれた。湯上がりから少し冷めた頃だったので、一口飲むと身体に染み渡る。やはりヴェルダの紅茶は香り高く上品な後味だった。
カトレアとレイは隣に座り、アルベール王と対面する形となる。その間にジャックが腰を据えている。紅茶を味わうのもそこそこに、カトレアは切り出した。
「彼……ジャックと行動を共にするうちに、彼が陛下に名を捧げ、暗躍する集団に属する者だと知りました。同時に、彼の生い立ちも……。わたしは今のジャックが、己の生を全う出来ているとは思えません」
おせっかいはよせ、と言いたげなジャックの視線が突き刺さるが、主の面前なので口にはしない。カトレアはずいと身を乗り出した。
「どうか、彼を自由にしてください。彼自身が陛下に抗えないというのなら、わたしからお願いいたします」
深く頭を垂れると、レイが慌ててカトレアの肩を掴んだ。
「お言葉ですが、この男は本来貴女には関わりのない存在です。貴女が直々に願い出るようなことでは」
「レイよ。おぬしは、何も知らぬのだな」
突然声をかけられ、レイは真意が分からず怖々とアルベール王に頭を巡らせる。
アルベール王はおもむろに立ち上がると、衝立の奥から何かを取ってきた。手中に握られていた品を目にして、カトレアはおろか、レイは驚愕のあまり石像のように固まった。ジャックは憮然とした表情で目を伏せている。
「そんな……」
カトレアはわななく手で、胸元のロケットに手を伸ばした。
皺の寄った手のひらに乗せられている品は、まさしく母セルレアが、カトレアの生誕と共に贈ったロケットと同じものだった。カトレアのものより、表面の光沢が剥げており古びている。レイの視線はおのずと、これまで敵対心をむき出しにしてきた男に注がれた。
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