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54 アンドル・クリネット 4

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マリングレー王国のティア王女からの手紙は、意味不明だった。
『過去にダイアナが関わった事件に忌み子という悪しき存在がいる。至急調査して報告してほしい』

「なんだこれは?」

思わず言ってしまった。サイファに見せても、

「何でしょうね…もうダイアナ嬢とは話もしたくない会わないと言われましたよね。連絡が取りたいと変わったのは謎です。やはり夢見の乙女こそ異物…変質者…ダイアナ嬢も嫌悪感が凄いですし、連絡は取らない方が国同士揉めないのではないですか?」

と言う通り私も頷く。

「異常なしで良いだろう、こちらも忙しい」

ティア王女宛に簡単な返事を返した。



イズリー伯爵が帰国と同時に何人か王城勤めの文官が帰ってきた。
疲労困憊で、すぐに詳細は聞けない。まずは休日を与えろとの医師の判断。

「馬車馬の気持ちがわかりました…」

それが、眠りにつく前の言葉だったそうだ。
どれだけ無理をさせたのだ、あの親子は!?



イズリー伯爵が登城して、国王陛下に謁見後、書類が回って来た。

「なんだこれは!今日もしくは明日朝までにマユリカ王女をウランダル王国に送還」

「おい、サイファ!」

「わかっている、至急馬車と騎士団の手配、荷物運びをかき集めている。侍女に荷物を詰めさせている最中だ。何人か先行させて宿の手配に…」

…サイファも大変そうだ。

マユリカ王女が私と会いたいと懇願していると聞き、逃げるように温室に向かった。その途中で、帰るイズリー伯爵に会った。

「これは、アンドル王子様、マユリカ王女様へお別れの挨拶に行かれますか?」

「いえ、お帰りの邪魔をしてはいけませんから。女性の御心を乱してはいけないと王妃様から注意された事がありまして」

「そうですね。我が家の我儘な息子が、ウランダル王国の王太子に話があると言っていました。詳しくは、本人が報告書を上げると思いますが。王太子殿下が、マリングレー王国のティア王女様を妃に迎えるか、マリングレー王国にマユリカ王女様を嫁に出すかのどちらかの案を条件に出しました。王女様が起こした傷害補償金の請求も加えて」

「ウランダル王国の王太子だって、王族の婚姻をそんな脅迫で受ける人間はいない」

「確かに。しかし、ティア王女様自ら夢見を進言されそうですね。マリングレー王国に損害請求出来る話を紹介したそうです」

「確かに、ウランダル王国側には、良い交渉条件ですね、お金も貰って、マユリカ王女様は嫁ぎ先がなくなってしまった件を強く押して、側妃でもってね。マユリカ王女様もあちらに押し付けられる」

「はい、アンドル王子様もきっと証言を頼まれることでしょう。その時は、頼みますね」

「しかし、マリングレー王国は突然の厄介事を押し付けられる形で、何故ディライドは…あ、そう言えばティア王女様から意味不明な手紙が、届きました…」

「返事はどうされましたか?」

「我が国では異常なしと夢見の乙女とのやり取りを拒否の旨を書きました。ご覧になりますか?」

ティア王女はディライドに纏わりついていたな。それが嫌だったなら、応対させた私の責任もある。根に持つ程ティア王女が、嫌いだった?

「よろしいですか?他国との交渉に関わる案件なら目を通したいです。
ティア王女様は、他国の王族達に勝手に進言したのでしょう?他国の王族に対して婚約者決めを左右する発言を許しますか?頼まれていなければ、単なる脅しや命令じゃないですか。あちらのミスですよ。何か焦ったのですかね?」

イズリー伯爵は笑って言った。確かにそうだ。マユリカ王女もダイアナ嬢も怒っていた。
夢見の乙女同士をぶつけたからか?

「ディライドは怖い男ですね」

と言えば、

「私達からしたら、あなたの方がよっぽど怖いと思いますよ」

「え?」

「いや、何でもありません。これ以上はディライドが泣いてしまうでしょうし、一か月も離れていたのだから労ってあげたいので、御前を失礼します」

とイズリー伯爵は帰って行った。

温室で月下美人を見ていた。
少しずつ蕾が大きくなってきている。
…毎日成長している。

あぁ、やっぱり彼女に見せてあげたいな。どうにか出来ないだろうか。

王宮でお茶に招待するとか…
理由は?
事件の慰め?いや、原因は、私なのに。

それに変に目立つ招きをすると、前回のように誰が、ミランダ嬢を攻撃するかわからない。

…根回しか。

目立たずに温室に入る方法は…ない。ここは、一般的に入室禁止区画だ。

薬草園!
あの場所は見学可能で、そうだ、確か来月には一年生は見学日があったはずだ。その日に合わせて、鉢植えを移動して…

しかし、薬草園は広い。
月下美人を見てくれるとは限らないな…

そもそも興味もないかもしれない、知らない奴が育てた花なんて。
でも…
次いつ蕾が出来るか、本当は花を見せてあげたいけど…

押し付けなのはわかっているけど。

「アンドル、何をうーん、うーん、唸っている?」

「グレゴリー、その、この月下美人を一年生の薬草園の見学日で見て欲しい。どうしたらいいかな?」

「アンドル様、私達はそれを、それほど見たいとは思いません」

サイファがはっきり言った。
…植物を愛しく癒やしと感じられないんじゃないか、サイファ。心が荒んでいるな。
それに、お前に見せたいわけじゃない!私は、ミランダ嬢に見せたいだけだ。

…とは言えない。


「ディライドが帰ってくるよな」

「グレゴリー、だから事が性急に動いている。後、あいつがまた勝手に交渉した。後で話すが、何か良い考え浮かんだか?」

「ミランダ嬢は一年生で薬草園に行く。ディライドにその事を気づかせれば、あいつは、一緒に行くだろう。そしてあいつが歩く所にギャラリーが増える」

「ディライドに月下美人を伝えれば良いってことか!」

と私が言うとサイファまで参加して来た。

「そんな素直な奴ではないですよ。ミランダ嬢の前で言う必要があるんじゃないですか?」

作戦会議ぽくなったな。
仕事関係じゃないのに…楽しいな、こんなのは、いつぶりだろうか。

「食堂…以前もディライドは、ミランダ嬢の後をついていた。我々も食堂で偶然を装って一緒に食べれば、薬草園の話が出来るのではないでしょうか?」

サイファの案は凄くいい!

「確かに自然だな。会話的にもおかしくない。準備する」

と言えば、グレゴリーが、

「いや、今まで食堂で食べたことなどないだろう。人が多すぎて、変だろう。ディライドに勘繰られる」

と言いサイファもノリノリだ。

「視察でいきましょう、アンドル様。私が席を確保します。後から来て下さい」

完璧なんじゃないか!
これでミランダ嬢にも私自身を見てもらえるだろうし、顔を見て会話が出来る。

自然だ。食事をしながら会話をする。
なんて素晴らしい!
月下美人も伝えられる!

あぁ、早く計画書を書かなければ。

「早く戻るぞ、突発的なことに巻きこまれて計画が破綻することだけは、あってはいけない。全て事前に潰さないと」



緊張する。
あぁ、いるじゃないか!
わざとらしくないように…

「どうしたのか?…ミランダ嬢…それにリリエット嬢、席を共にするよ…」

声が震えて、小さくなった。わざとらしかったか…
あぁ、やばい。胸が痛い。マズイかもしれない。
…グレゴリーが、私の肩を軽く叩いた。

『しっかりしろ』

と聞こえた。
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