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8拐われた子供達

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今日は、捕まった子供達と会えることになった。質問したいことをまとめておく。今日もそれほど時間がないためだ。
ハア~、お祖母様は、本気でダンスの先生まで雇うらしく、最近のお祖母様は、どうしたのかとお母様に聞いても、少し困ったように笑っていた。
「最近忙しくて、絵を描く時間がないのが悲しいわ」
とシンさんに言うと、
「そうですね、もうじき王家の皆様がお見えになれば、勉強は出来ませんし、その分を先に学ばれているのですよ。私が思うにアーシャ様は、学ぶ必要もないぐらい知識が豊富だと思いますが」
と笑って言ってくれる。とても優しい人だ。きっと彼を剣術の先生にしたら、褒めて伸ばすタイプだと思う。
「ありがとう、シンさん」
と目的地場所まで、馬に乗る。

綿花作業小屋につけば、子供達が外に出ていた。
「どうしたの?」
と聞けば、子供達は、
「おばさんの咳が酷いから、部屋の中にいたら邪魔になると思って」
と言った。
私は子供達に
「まず小川で水を汲み、身体を拭いてきたほうがいいわ、不清潔は、病の元になります」
と言った。その間にシンと小屋に入った。
「初めまして、アーシャ・ドミルトンと申します、体調が悪いところすいません。聞きたいことがありまして」
と言えば、床に寝ている女性が、ゆっくり起き上がり、
「ドミルトン様、このように無礼をしてすいません。今日は、先日より調子が良くて、お答え出来ます。私は、ハンナと申します」
とボソボソと話す。
「ハンナさん、父様から聞いた話では、隣の領地で不作になり働きにきたと聞きましたが、本当ですか?」
て言えば、ハンナさんは少し目線を私からシンさんに向けた。
「本当です、こちらは随分豊かだと聞きまして」
「あの子供達はどこの子ですか?」
「それは、妹夫婦の子供達で流行り病で亡くなった妹の代わりに育てています」
私が子供だから、聞いた所できちんと答えてくれるとも思わなかったし、キツい言い方になるが、時間もない。私は、
「そうですか、失礼な事を聞きますが、あの子供達はどこかの修道院から拐われたなんて事はありませんか?」
と単刀直入に聞く。
「えっ!?私は何も知らない、そんなの知らない」

シンが前に出た。片手は、剣の持ち手を触りながら。
「いえ、あなたが拐ったなんて思ってもいません。父様に聞いた所、年齢も8.9歳で、兄弟にしたら不思議だと思っただけです。拐ったなんて乱暴な言い方をしたのは、少し前にそんな現場を見たから、影響されただけです」
と言えば、子供にズバズバ言われて、感情が抑えられなくなったのか、女性は泣きだした。

「私もあの子供達が幌付きの荷馬車に乗せられているのを見ただけで、男たちがその場を離れた時間が長かったから、下ろすのを手伝っただけ…まさかついてくるなんて思いもよらなかったんです。みんな心に傷を負ったのかあまり話さないし、何も知らないんです。私も病気のせいで仕事がクビになり、途方にくれていて、良い事をしたら見返りがあるかもしれないとか考えて、手を貸したにすぎないのです。今は、余計な事に手を貸したと後悔して、すぐに近くの修道院に子供5人を渡しに行けば、拒否されて仕方なく大きな領か景気がいい場所ならと考えて、子供を捨てにきたんです」
これが全て本当かもわからないが、子供を捨てると言っていて気分が悪くなる。
「そうだったんですね。子供達は、その町で拐われたのかしら?」
感情が昂ぶるハンナさんを宥めるように、ゆっくり優しく言った。
「家の場所を聞いてもバラバラな場所を言ったから大きな教会ならなんとかしてくれると考えました」
同情するように哀れみながら
「そうですか…」
と決してハンナさんを責める言葉は言わない。
王都の時と一緒で、同じ盗賊団なのかもしれないし、子供の売買が違法でも常に行われているのかもしれない。
「こういうのが頻繁にあるのは辛いですね。お父様やお祖父様に相談しましょう。幌付きの荷馬車ですか。しかしハンナさん、その悪い人達によく見つかりませんでしたね」
と聞くと、
「すぐに体調が悪くなって、子供達を教会に連れて行けなくて、自宅で3.4日過ごすことになってしまい、その間に男たちがいなかったみたいなんです」
探しに出払ったのかしら?
「運が良いですね」
と言えば、ハンナさんは、
「運?最悪ですよ」
と言った。
事実かどうかは私にはわからないが、後は警備隊に任せようとシンに合図をおくり、
「本日は、ありがとうございました」
と作業場から出た

子供達は、いつの間にか戻っていて外で聞いていた。
「隣の公爵領には、教会も警務隊あるわ。明日にでも馬車を手配すれば、連れて行けます。どうしますか?」
と聞けば、赤茶の髪の子供の一人が、家に帰りたいと言い、もう一人が、おばさんをここに置いていけないと言った。あとの三人は黙っていた。 
私は、全員早く家に帰りたいと言うと思った。しかし一人だけ。子供達にも事情があるのか。家に帰れない事情…奉公に出されたとか口減らし…顔や身体を洗って来た子供達を見て、みんな見栄えのいい可愛いらしい顔立ちをしていることに驚いた。王都での振り向いた時の黄色の髪と可愛いらしい顔を思い出した。
シンも
「間違いなく顔立ちで狙いを定めて拐ってますね。一体どこに連れて行く予定だったんでしょう。我が国は、人身売買はしてはいけませんし。隣国だって、駄目ですよね」
と言った。
もちろん、やっていいわけはない。しかし盗賊だとしたら、何でもありなのではないか?
「でも需要があるから、拐うのでしょうね。そのあたりもお祖父様やお父様が考えられるでしょう。もう一つ質問ですが、こちらに残って、農作業や綿花作業で暮らしていきたい子はいますか?」
と聞けば、黙っていた三人の子供と目があった。
「では、少し話しましょう。希望する働き口と住む場所についてです」
「農作業の手伝いは、今収穫期で忙しいので募集しています。綿花作業は冬の作業になります」
と言えば、とうとう口を開いた。
「帰らなくていいの?仕事くれるの?」
と一人の子が聞いた。話しぶりを聞くと女の子みたいだ。顔立ちも可愛い、ただ髪の毛が短いだけで…この三人は華奢だ。残りの二人も痩せているが、なんか違う。
「あなた達女の子?」
と聞けば、顔色を悪くした。
「女の子は働けない?」
と聞かれ、
「まさか、大丈夫ですよ」
と言えば、ホッとしていた。
「私達は、男の子として商人に売られた、働き場所が決まるまで、声を出してはいけないと言われていたから」
「誰に?」
「父さん」

「そうだったの、ごめんなさい、辛い事を聞いてしまって。村長さんには伝えてありますから、明日から近くの村で手伝いをお願いしますね」
この三人は拐われたわけではなくて、本当に商人に売られたのか…
「ハンナさんを置いていけないって言うあなたは、ハンナさんの体調の回復を待って教会に行きますか?」
「助けてくれたおばさんを置いてはいけない」
と繰り返す一人。この子は、よほどハンナさんに恩があるようだ。シンさんが、
「まだ、動ける感じには思えないが、君にも待っている人はいるんじゃないか?」
と聞けば、
「俺を待っているわけがない。教会はどこも一緒だ。誰がいなくなっても関係ない」
この子は、教会という場所に希望を持ってなさそうだ。
「なら、明日から農作業の手伝いね。そしてあなたは、明日教会に行く馬車を手配しますね」
と言って、子供達とも別れ屋敷に戻る。

盗賊と商人は繋がっているのか、見栄えの良い男の子が集められている理由、何だか気持ち悪い話だ。
「シンさん、何故男の子ばかりなの?なんか気持ち悪いわ」
と言えば、シンは、
「働き手と聞けば確かに、農村から行商人に橋渡しのように奉公先が紹介されるというのは聞いたことがあります。しかし見栄えの良いとなると、また別のような気がします」

私の持っている紙には書いていない。夢も記憶はないということだろう。でも、何故この子達は我が領地に来たのかな、豊かって言ってもすぐ近くに公爵領があるのにと、偶然も重なると気味が悪くて、元国王夫妻やカイル王子様が来ることに不安になった。
拐われ事件に薄ら巻き込まれているのを感じていた。


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