【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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9収穫祭の準備

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状況報告は、シンさんに任せて私は、礼儀作法のレッスン。さすがに元国王様達が来るから、先生の気合いの入れ方も違う。今までは見過ごしてくれていた少しの動きにさえ注意が入る。
ハァー。
厳しい、動き一つ一つ細やかなチェックが入る。
そしてダンス練習が始まるらしい。一体いつお披露目するの?と聞いたら、13歳の時に成人の儀があり、同学年の子が集まる会があるそうだ。そこからは、夜会やパーティーに参加するようになると。
そしてお祖母様が、
「中央で踊るかもしれないし」
と言った。
どういうことだろう?男爵令嬢が中央で踊るわけがない。お姫様じゃあるまいし、私なんかはカーテンの影か人の影だよ、お祖母様。
それでも、お祖母様が一体何を考えているのか不安になる一言だった。
お母様に聞いても、
「万一のためよ、準備は万全の方がいいし、男爵と言っても令嬢ですから、礼儀を知る事は良いことでしょう!」
と笑って誤魔化す。

ダンスも気になるが、収穫祭が間近で、拐われた子供達、気になる事が盛り沢山で、お祖母様の台詞もその時だけで気にしなくなっていた。

そう、私は、10年後ダンスを中央で踊ることになる。お祖母様の予言だ。


「マーク、私達は収穫祭のお祝いは、歌の発表をしましょうか?あと収益目的で輪投げや的当てなんてどうかしら?」
と弟のマークに言えば、
「やだよ、姉様」
「え~!」
マークなのにそんな事言うなんて、と驚けば、マリアが笑っていた。
「マリアまで笑って、つまらないかしら?」
と言えば、
「普通に出店でありますし、歌も二人で歌うというのは寂しくありませんか?」
「言われてみれば、お手軽なものを選びましたけど」
と困っていれば、父様や母様も笑って近づいてきた。
「適当だったら領民も喜ばないよ。アーシャに領民への感謝の気持ちとか喜ばせてあげたいって気持ちが無ければ、祭が楽しくならないかな」
二人の言うことは正論だ。今考えてすぐに出来そうなことを言っただけ。
「ごめんなさい」
「謝る必要はないさ、何かしたいと思う気持ちは、嬉しいよ」
「はい」
心が痛かった。適当とか図星だった。私のしたい事、絵を描きたい。と思った時に、
「この領地の文字の普及率ってどのくらいなんですか?」
と父様に聞いた。
「村には学校がないから、村長や商人、一部の村人かな」
「絵本はどうかしら、今まで書いたスケッチに単語を書いたり、農作物や日用品の絵を描いて横に単語を書いたりするの。勉強したい人は嬉しいかな、どうかしら父様、母様」
「そうだね、とてもいいね。楽しく学べたら嬉しい事だ」
「僕もやるよ、字を書けるようになる」
とマークも言って母様も
「あら、マークも積極的に勉強したいなんて嬉しいわね」
と笑った。
絵本を作ることが決まった。

「ますます、忙しくなるわ」
でも私がやりたい事だから、ワクワクしていた。頭の中は、絵本ばかりで拐われた子供達のことは、すっかり抜け落ちた。

執務室

「ライル、拐われた子供達を連れてきた女性の取り調べは順調か?」
「父様、中々全ては吐き出してくれてないですね。盗賊の全貌が見えません。目的も少年達をどこに連れていくのかも、知らない、助けただけとのことです。しかし仕事をクビになった後、その盗賊と子供達に料理を作っていたことは、わかりました」
「王都の方も手詰まりだな。確かにあの事件があった日のフランツ王子様達の警備は必要以上に薄い配置だった。そして何名か責任を取るとかで、取り調べもないまま勝手に自害したらしい」
「怪しいじゃないですか?」
「これ以上は入り込めない、アステリア王国が絡んでいる証拠はない。ただ知らない商人を招き入れている事だけはわかった。その商人は、アステリア王国の物を側妃に頼まれているだけらしい。商人としてカイタル商会で組合に属しているから身元保証は確認済みだ。カイタル商会は、側妃の侍女やメイドが婚姻を結んだ領地に出向いてる。側妃からの指示の伝達屋かもしれない」
「商人なんですよね?盗賊とは関係ないのでしょうか?その商人を取り調べることは出来ないのですか?」
「身元保証がある側妃の商人だ。手出しは出来ない」
「やはり、ハンナという女性にアステリア王国とのつながりを探るべきでしょうね。こちらに身元を移すべきでしょうか?」
「もうじき、元国王夫妻が来る。知らない者を屋敷に入れるわけにはいかない」
「しかし、盗賊が探している可能性があります。どこか安全な場所で体調を回復するべきだと思います」
「そうだなぁ、前にこの屋敷の増築する時の作業人達が住んでいた小屋は、どうした?」
「あそこは、庭師達の倉庫と休憩所になっているはずです。ハンナと子供4人暮らせますね。すぐに移します」

いつの間にか拐われた子供達が庭木の仕事や洗濯や調理場にいて驚いた。ハンナさんまで洗濯場にいた。シンさんに聞いたら、盗賊が探しに来たら危ないからと言われ納得だ。
「みんな、よろしくお願いしますね」
と挨拶して、私はまた家庭教師の先生の授業を受けて、絵を描き、忙しい中でも楽しかった。
元国王夫妻がお見えになる前日、まさかあの方達が来るとは思っても見なかった。

馬の鳴き声と使用人達の慌しさに、嫌な感じしかしない。

「ハァ~疲れたわ。お風呂をちょうだい」
馬車から降りた第一声がこれだ。ここにはお祖父様もお祖母様もいる。まずは挨拶だろうに、信じられない。お祖母様の額の筋は扇子じゃ隠しきれておらず、お祖父様も
「エリオン、突然どうした?」
とルイーゼには触れず、何故来た?と遠回しに言っていた。エリオンは、
「お祖父様、お祖母様、突然すいません。母様が、王族の方達が我が領地にお越しになるなら家人の者が居ないとおかしいだろうと私が案内役を承りました。ルイーゼは、聞きつけて自分もお世話をすると言い出しついて来てしまって」
と遠慮がちに言った。
「何言っているの兄様。王族なんです、お祖父様方、公爵令嬢の私がお世話しなければいけません。ふふっ男爵令嬢には、恥ずかしくて身分不相応ですわ。アーシャ、あなたは、部屋から一歩も出るんじゃないわよ。ドミルトン家の恥になるわ」
と扇子で私を指すルイーゼ。
さすがだわ、悪役令嬢!
慌てエリオンが間に入ろうとしたが、すでに遅かった。お祖母様が、きれた。
「何を言っているんですかルイーゼ!ここはあなたの家ではありません。私達は領主館に住んでいるわけじゃないわ。ここは、別館。あなたはまず挨拶からやり直しなさい。領主館に行きなさい」
「お、お祖母様!」
「エリオン、あなたもです。こちらは、友人として元国王夫妻を招くだけ、政治的意味はありません。そのようにドミルトン夫人に言いなさい」
「はい、お祖母様」
「兄様、何納得しているの。私達、公爵家としてと言われているでしょう」
「やめろ、ルイーゼ」
「だって、お母様がお祖母様は下位貴族出身だからって」
「やめろ、ルイーゼ!本当に失礼しました。お祖父様、お祖母様、すぐに連れて帰ります」
「なんでよ」
と納得しない顔をした後、私を睨みつけた。馬車の扉か何かで叩いた音が残った。私は、一言も発していませんよと心の中で訴えた。

お祖父様がお祖母様の背中を摩りなだめている。お祖母様は怒りがはち切れそうだ。やっぱりルイーゼの母が上位だ下位だと貴族を分け、そんな考えしか出来ないでいるんだとわかった。エドワード叔父様もそんな考え方なのかな?
宰相の就任パーティーの時から寡黙で、何を考えているかわからなかった。
とりあえず、領主館の方に行ってくれて良かった。あんな調子でまた屋敷の中をウロウロされたら、収穫祭まで数日しか無いのに、絵本も完成しないわ。

夕食には、お祖母様は現れなかった。やはりショックだったんだろう。身内にそんな事言われるなんて悔しいだろうな。私は本当に男爵令嬢だから、良いけどお祖母様だって、公爵夫人をやりきった人だ、イザベラ夫人と同等なはずなのに、家系図を言い始めるあたり、性悪だと感じた。
貴族は血筋だの血を重んじるが、その血筋、本当ですか?と疑いたくなるのは、私の悪い勘繰りだ。

今日の夕食は、暗い。明日から元国王夫妻達がお見えになるから、ルイーゼが諦めたとは考えにくい。また来るだろうと思えば、心が少しも休まらなかった。
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