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10死神に取り憑かれた王子
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朝から、屋敷は慌しかった。使用人達も準備していたが、それでも再び掃除をし、確認していた。お祖父様がいたので、
「お祖母様の体調はいかがですか?」
と聞けば、少し苦笑いをして、
「大丈夫さ、出来るだけは手を打ったよ。あの子を放置した私達の責任も感じてはいるんだ。逆にあの子の先行きを心配しているよ」
と悲しそうに話すお祖父様を見て、ますますルイーゼは途中で離脱します、リリアンにサラも取り巻きをやっていれば消えますとは言えない。本当にドミルトン家は大丈夫なのだろうか?エリオンは舞踏会に現れているのだろうか?
私は、どうなっているのだろうか?
今書き残っている紙には、書いていない、夢も見ない私には、ドミルトン家の先行きがわからなかった。
「ハッピーエンドとは書いているけど、その定義はなんだろう。当時の私に聞きたいわ。そもそも悪役令嬢がいるドミルトン家にとってハッピーエンドなのかしら?」
と私は、今初めて自身の問題点に当たった気がした。
ぶつぶつ言いながら、絵本を仕上げていく。
「アーシャ様、ご到着されますよ」
とマリアからの連絡に、出迎えの準備をする。
お祖父様、お祖母様、父様母様が並び私とマークも並ぶ。
扉が開けば、警護の騎士達、メイド達が並び、元国王様が降りた。
なんだかピカっと光ったような神々しいものが見えた気がした。夫妻の後にカイル王子様が降りた。黄色の髪がまた眩しい。しかし、顔半分に布を当てて、あの時振り返った時の眼ではなかった。くりっとした可愛らしいという印象があった私には、誰、この人?と思えるほど、瞼は重く、クマが出来て、眼が強調されるほど重苦しい。
数ヶ月で別人じゃないかとの変貌ぶりに呆然とし、頭を下げるのを忘れてしまった。
「アーシャ!」
とお母様に注意をされ、慌て貴族の礼をする。
「堅苦しい挨拶は、やめてほしいよ、レーリー。私は視察ではなく友人宅に遊びに来たんだ」
とおどける元国王。お祖父様も
「では、お言葉に甘えよう」
と二人で握手をしていた。
一通り挨拶を済ませれば、カイル王子様が、
「申し訳ありません、疲れましたので、部屋で休ませてください」
とボソボソと平坦な口調で言った。視線は、床。
やばいわこの子、なんか怖い。
ふと頭の中には、黒い何かで覆われているようなカイル王子が見えた気がした。不気味な澱みを感じたが、まぁ、事件の当時者なんだから、恐怖体験がまだ抜けてないのだろうと思った。
私は、助けてあげたという自己満足を勝手にしていただけでカイル王子を見ていなかった。
バタバタまた騒がしくなった。部屋にマリアも来ない。気になるので、廊下に出れば、あのキンキンな棘のある声で、
「私は、公爵令嬢よ、早く案内しなさい」
と響く声がした。今の時間は、お祖父様達は4人でお茶会をしているはずだ。私の足は止まった。耳を澄ませば、お父様とお母様が玄関に入ったようだ。ここで私が出れば、また面倒になるだろう。盗み聞きを決め込んだ。
「叔父様。私公爵令嬢ですのよ、王家の皆様に挨拶をお母様から頼まれておりますの。お兄様やお祖父様達が何を言ったとしても、私、未来の王妃として礼儀は欠かせませんの。分かりますか、私にはこれからのドミルトン家がかかっております。だから案内して下さい!」
と強い口調で言った。
少し感心したのは、敬語が使えるようになった事、周りに止められても自分は、未来の王妃と信じ疑わないところ。
お父様もお母様も挨拶ならエリオンと一緒にどうですかと言っているが、ルイーゼは聞かない。観念したのか、お父様は、どこかに通すらしい。
「うわー、押し切ったわ」
確かに玄関で揉められても困るけど、通してしまったよ。取り扱い注意の悪役令嬢だよ。巻き込まれたくないので、ゆっくり私は、来た道を戻った。大きな溜息を吐きながら。
賑やかな夕食になるまで、怖くて一歩も部屋から出ずにいた。夕食のテーブルは、鮮やかでパーティーが始まるかのように花の飾りや美しい皿が用意されていた。そこに元国王夫妻が入ってくれば、更に華やいだ。楽しい談笑の中、食事が始まった。カイル王子は、右側に大きな布を当てていてずっと下を向いているが。少し安心したのは、ルイーゼが帰ったのかと思ったからだ。
マリアの声がして、言い争う声の後、扉が開いた。
「私、ルイーゼ・ドミルトンでございます。元国王様、公爵の娘でございます」
まさか来客より遅れて登場するなんて考えもしなかった。エリオンが、ルイーゼの腕を引っ張るが、払い落とす。
「遅れましたのは、こちらの愚兄と叔父のドミルトン男爵夫妻の嫌がらせを受けたからですわ。この事は、父様や母様にも報告いたしますからね」
とこちらを睨みつける。
うわー、なんか凄い事になっている。元国王夫妻は呆れているし、お祖父様やお祖母様は、怒りで震えている。とんでもない娘だ、ルイーゼは。
私の中で、劇を観ている感覚だった。
スタスタ歩いて、カイル王子様の前に出たルイーゼは、
「フランツ王子様は、お越しになっていないのですか?こちらにお見えになるか聞いていますか?」
と聞けば、カイル王子は、
「知らない」
と一言。ルイーゼは、
「私、来月に盛大なお茶会を開きますの。是非カイル王子様もフランツ王子様を誘って来ていただきたいのですわ。こちらの料理と違って、王都の最新作を食べさせてあげれますわ」
と自慢気に語る。
「行かない」
と一言。ルイーゼは、カチンときたのか、
「あら、第二王子は、田舎料理の方がお好きですか?なら、こちらの料理人を呼び寄せますけど」
「やめないか、ルイーゼ。先程から、みっともない。断られているんだ」
とエリオンが間に入る。そして、カイル王子に妹の無礼を謝った。『みっともない』と言われて、真っ赤な顔したルイーゼは、
「何言っているのお兄様は!本当に最近のお兄様は変です。公爵家の誇りはありますか?私達は、上位貴族ですよ。私達が王家を支えていますのよ。カイル王子様だって後ろ盾がなければ困りますでしょうに、断われる立場ではありませんのよ!」
と言い切った。
言い切ってしまったと言うべきだ。これは、不敬だ。こんな事をいうルイーゼは処分されてもおかしくない。
お祖母様がガタと椅子から立ち上がったと同時にカイル王子も立ち上がり、目の前の水差しをルイーゼとエリオンに向かってぶち撒けた。
「お前うるさいよ」
そう、呟いて。
「キャアー!冷たい!何、これ、恐ろしい獣みたいな目で見ないでよ!」
と叫びあげるルイーゼ。エリオンも手が震えている。カイル王子を見れば、当てていた布がずれたのか隙間から頬に茶色っぽい傷が見えた。白い肌に茶色の傷は隙間から見るだけでも目立つ。カイル王子は立ち上がり、部屋から出て行く際にもパリンと何かが割れたような音がした。
まるで後ろ姿は、暗く、彼が通る道に不吉さが増すかのように、ガラスが割れた音に誰もが息を飲み黙って見送った。
「化け物よ、化け物、第二王子は化け物!」
と叫ぶルイーゼをお祖母様の手がルイーゼの頬を叩いた。
パチーン
と響く音は、驚きと痛みを伴う罰だった。これで済むのは、子供という認識だからなのか。
泣きながら、帰るルイーゼ。エリオンとお祖父様達は、ひたすら、元国王夫妻に謝る。お祖母様もお部屋に戻り、お祖父様も困った顔した。お母様は、マークを連れて部屋に行き、お父様も感情を表に出し、私に
「アーシャ、部屋に戻りなさい」
と厳しい口調で言われた。お祖父様とお父様で後の始末をするのだろう。
「おやすみなさい、お父様」
と言うとエリオンが頭を下げているのが横目で見えた。そして、私は部屋を出た。
「お祖母様の体調はいかがですか?」
と聞けば、少し苦笑いをして、
「大丈夫さ、出来るだけは手を打ったよ。あの子を放置した私達の責任も感じてはいるんだ。逆にあの子の先行きを心配しているよ」
と悲しそうに話すお祖父様を見て、ますますルイーゼは途中で離脱します、リリアンにサラも取り巻きをやっていれば消えますとは言えない。本当にドミルトン家は大丈夫なのだろうか?エリオンは舞踏会に現れているのだろうか?
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「ハッピーエンドとは書いているけど、その定義はなんだろう。当時の私に聞きたいわ。そもそも悪役令嬢がいるドミルトン家にとってハッピーエンドなのかしら?」
と私は、今初めて自身の問題点に当たった気がした。
ぶつぶつ言いながら、絵本を仕上げていく。
「アーシャ様、ご到着されますよ」
とマリアからの連絡に、出迎えの準備をする。
お祖父様、お祖母様、父様母様が並び私とマークも並ぶ。
扉が開けば、警護の騎士達、メイド達が並び、元国王様が降りた。
なんだかピカっと光ったような神々しいものが見えた気がした。夫妻の後にカイル王子様が降りた。黄色の髪がまた眩しい。しかし、顔半分に布を当てて、あの時振り返った時の眼ではなかった。くりっとした可愛らしいという印象があった私には、誰、この人?と思えるほど、瞼は重く、クマが出来て、眼が強調されるほど重苦しい。
数ヶ月で別人じゃないかとの変貌ぶりに呆然とし、頭を下げるのを忘れてしまった。
「アーシャ!」
とお母様に注意をされ、慌て貴族の礼をする。
「堅苦しい挨拶は、やめてほしいよ、レーリー。私は視察ではなく友人宅に遊びに来たんだ」
とおどける元国王。お祖父様も
「では、お言葉に甘えよう」
と二人で握手をしていた。
一通り挨拶を済ませれば、カイル王子様が、
「申し訳ありません、疲れましたので、部屋で休ませてください」
とボソボソと平坦な口調で言った。視線は、床。
やばいわこの子、なんか怖い。
ふと頭の中には、黒い何かで覆われているようなカイル王子が見えた気がした。不気味な澱みを感じたが、まぁ、事件の当時者なんだから、恐怖体験がまだ抜けてないのだろうと思った。
私は、助けてあげたという自己満足を勝手にしていただけでカイル王子を見ていなかった。
バタバタまた騒がしくなった。部屋にマリアも来ない。気になるので、廊下に出れば、あのキンキンな棘のある声で、
「私は、公爵令嬢よ、早く案内しなさい」
と響く声がした。今の時間は、お祖父様達は4人でお茶会をしているはずだ。私の足は止まった。耳を澄ませば、お父様とお母様が玄関に入ったようだ。ここで私が出れば、また面倒になるだろう。盗み聞きを決め込んだ。
「叔父様。私公爵令嬢ですのよ、王家の皆様に挨拶をお母様から頼まれておりますの。お兄様やお祖父様達が何を言ったとしても、私、未来の王妃として礼儀は欠かせませんの。分かりますか、私にはこれからのドミルトン家がかかっております。だから案内して下さい!」
と強い口調で言った。
少し感心したのは、敬語が使えるようになった事、周りに止められても自分は、未来の王妃と信じ疑わないところ。
お父様もお母様も挨拶ならエリオンと一緒にどうですかと言っているが、ルイーゼは聞かない。観念したのか、お父様は、どこかに通すらしい。
「うわー、押し切ったわ」
確かに玄関で揉められても困るけど、通してしまったよ。取り扱い注意の悪役令嬢だよ。巻き込まれたくないので、ゆっくり私は、来た道を戻った。大きな溜息を吐きながら。
賑やかな夕食になるまで、怖くて一歩も部屋から出ずにいた。夕食のテーブルは、鮮やかでパーティーが始まるかのように花の飾りや美しい皿が用意されていた。そこに元国王夫妻が入ってくれば、更に華やいだ。楽しい談笑の中、食事が始まった。カイル王子は、右側に大きな布を当てていてずっと下を向いているが。少し安心したのは、ルイーゼが帰ったのかと思ったからだ。
マリアの声がして、言い争う声の後、扉が開いた。
「私、ルイーゼ・ドミルトンでございます。元国王様、公爵の娘でございます」
まさか来客より遅れて登場するなんて考えもしなかった。エリオンが、ルイーゼの腕を引っ張るが、払い落とす。
「遅れましたのは、こちらの愚兄と叔父のドミルトン男爵夫妻の嫌がらせを受けたからですわ。この事は、父様や母様にも報告いたしますからね」
とこちらを睨みつける。
うわー、なんか凄い事になっている。元国王夫妻は呆れているし、お祖父様やお祖母様は、怒りで震えている。とんでもない娘だ、ルイーゼは。
私の中で、劇を観ている感覚だった。
スタスタ歩いて、カイル王子様の前に出たルイーゼは、
「フランツ王子様は、お越しになっていないのですか?こちらにお見えになるか聞いていますか?」
と聞けば、カイル王子は、
「知らない」
と一言。ルイーゼは、
「私、来月に盛大なお茶会を開きますの。是非カイル王子様もフランツ王子様を誘って来ていただきたいのですわ。こちらの料理と違って、王都の最新作を食べさせてあげれますわ」
と自慢気に語る。
「行かない」
と一言。ルイーゼは、カチンときたのか、
「あら、第二王子は、田舎料理の方がお好きですか?なら、こちらの料理人を呼び寄せますけど」
「やめないか、ルイーゼ。先程から、みっともない。断られているんだ」
とエリオンが間に入る。そして、カイル王子に妹の無礼を謝った。『みっともない』と言われて、真っ赤な顔したルイーゼは、
「何言っているのお兄様は!本当に最近のお兄様は変です。公爵家の誇りはありますか?私達は、上位貴族ですよ。私達が王家を支えていますのよ。カイル王子様だって後ろ盾がなければ困りますでしょうに、断われる立場ではありませんのよ!」
と言い切った。
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お祖母様がガタと椅子から立ち上がったと同時にカイル王子も立ち上がり、目の前の水差しをルイーゼとエリオンに向かってぶち撒けた。
「お前うるさいよ」
そう、呟いて。
「キャアー!冷たい!何、これ、恐ろしい獣みたいな目で見ないでよ!」
と叫びあげるルイーゼ。エリオンも手が震えている。カイル王子を見れば、当てていた布がずれたのか隙間から頬に茶色っぽい傷が見えた。白い肌に茶色の傷は隙間から見るだけでも目立つ。カイル王子は立ち上がり、部屋から出て行く際にもパリンと何かが割れたような音がした。
まるで後ろ姿は、暗く、彼が通る道に不吉さが増すかのように、ガラスが割れた音に誰もが息を飲み黙って見送った。
「化け物よ、化け物、第二王子は化け物!」
と叫ぶルイーゼをお祖母様の手がルイーゼの頬を叩いた。
パチーン
と響く音は、驚きと痛みを伴う罰だった。これで済むのは、子供という認識だからなのか。
泣きながら、帰るルイーゼ。エリオンとお祖父様達は、ひたすら、元国王夫妻に謝る。お祖母様もお部屋に戻り、お祖父様も困った顔した。お母様は、マークを連れて部屋に行き、お父様も感情を表に出し、私に
「アーシャ、部屋に戻りなさい」
と厳しい口調で言われた。お祖父様とお父様で後の始末をするのだろう。
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