【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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12収穫祭

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王宮に戻られるかと思っていた王家の皆様が、収穫祭を見学していくと聞いて、心から良かったと思った。
朝食にダイニングに集まれば、昨日の夕食を感謝された。
明るい朝だ。今日は収穫祭、明るく元気で楽しくなくちゃ困る。

ワイワイと朝食を食べていれば、この世の終わりのような闇をまとわりつけながら入って来たカイル王子様。
本来は、数ヶ月前に死ぬはずだった人。朝から真っ暗なオーラが出まくっている。このままなら、本当に死んでしまうのではないか?そんなことが頭をよぎった。

元国王が
「おはよう、カイル。今日は、収穫祭だぞ。出店で何を買おうか?」
「私は行きたくありません、人がいるところなんて」
カイル王子が小さい声で、元国王様に反論する。
困った顔をする元国王夫妻。その顔は、家族を心配している顔だった。王族だろうが身内が心配で可愛いのだなと思う一面だ。

確かに人が多ければ、また拐われる可能性はある。しかしずっと中にいるというのは、王族は、無理だろう。今回のように友達を訪ねたと言ったところで公務になる。今だって、男爵領は、元国王夫妻が来るとありがたがる者やいつも以上に盛り上がっている。
きっとこれは、使命であり仕事なのだ。これを放棄したら王族である資格がないのかもしれない。

「では、馬車から出ないというのは?」
と提案してみた。余計なことを言ってしまった。カイル王子がこちらを見ている。
凄い睨んでいる気がする。黒い邪気のようなものを感じる。目が合わせられない。
元国王様は笑って、
「そうだな、まず一歩は、外に出ること。外の空気を吸うこと、焦らないで行こう」
と言ったが、カイル王子は
「そういうことじゃないんだよ」
と小さく本当に消え入りそうな声で言う。
カイル王子の苦しみは私にはわからない。見た目からあの日とは変わってしまった。ほんの数ヶ月、人はこんなにも変わるのだと、全くカイル王子を知らない私でさえ思う。カイル王子の家族ならもっと苦しいんだろう。
顔に負った傷も心に負った傷もカイル王子を蝕んでいるのだろう。
私に口出しする権利はないのだが、
「お祖父様、お父様、カイル王子様に教えてあげた方がよろしいかもしれませんよ。男爵領に盗賊に拐われかけた子供が5人逃げてこの村に辿り着いたこと」
ガタガタ震え出したカイル王子。元国王妃が
「何て事をいうのですか?カイルが怖がっているじゃありませんか?」
と強い言葉がかえってくる。当たり前だ傷口に塩を塗っているのだから。
「でも生きている。カイル王子様と同じように生きなければならない」
カイルの肩がビクッと跳ねた。そのすぐ後、
「私は、こんな状態になるなら死にたかった!」
と言った。
部屋は静まり返る。

これも私の責任。
目が合ったと言っていたけど、ずっと気にして、あの日事件を自分で引き寄せたのかもしれない。
私が気づいたから。
私がストーリーを変えたから。
知った事に対しての私の傲慢さ。
カイル王子は苦しんでいる。

「ごめんなさいでは、収まりませんよね。なら、行きましょう」
とカイル王子の手首を掴み、私は、部屋から出る。ちょうど玄関には、エリオンが到着したようで、
「アーシャ、昨日の御礼を…」
馬車が一台止まっていた。
「乗ります。そして収穫祭にいきます」
とカイル王子を無理矢理乗せて、御者に男爵領を指示する。

「止めろ、私は、行きたくない」
私の真正面に座った王子は言った。
「ずっと逃げるんですか?傷ついた事を、自分の顔を見るたびに怖がって生きていくんですか?」
「お前に何がわかる?私は、あの日無理矢理フランツ兄様に誘われて付いて行っただけだったんだ。拐われた時兄様を守らなければと思って、一人に噛みついて兄様を逃そうと思ったら、錆びたナイフを振り回されて頬に当たった。見ろよ。この醜い傷、錆が皮膚に入り黒茶に変色した傷。気味が悪いだろう。包帯を変えるメイドも目を背ける。これを見るたび、なんでこうなったと恨まずにはいられない。眠ればあの日の悪夢が蘇る」
顔から悲痛さが出てた。

「痛みも傷もわかりません。それでもあなた様は、生きている。あの日、もし亡くなっていたなら、どうだと思いますか?」
「あの日死んだらだと…」
カイルは考えてなかった。今よりずっと幸せだと思う。
でも、あの日自分が死んだなら、フランツ兄様の責任はどうなっていたのだろう?今でさえ、会ったのは、二回だけ。あの明るかったフランツ兄様の声は聞こえない。会えば、謝罪のみ、謹慎をし王妃に叱られていると聞く。いやいや、私の方が実害の被害者だ…。
フランツ兄様は、叱られて当然だ…。あの日、兄様は、私に面白い遊びがあると言った。私にも教えてあげたいと、王宮の中じゃ身分だなんだと勉強ばかりで息が詰まると言ったのは…私だった。兄様は、馬車の外から見た景色が自由で楽しそうだったからと兄様だって無理して外に出たのではないか?

「カイル王子様着きましたよ」
収穫祭は、準備していた。だいぶ人は集まっている。子供も広場にいる。音楽隊はリハーサルか音を出している。
出店から芋の蒸した匂い。

窓から見れば、イノシシが丸焼きのように吊され火で炙られている。ジュージューと音がしながら体格のいい男が、ゆっくり回している。
「準備中ですね」
とカイル王子に言えば、馬車から出ようとしない。ハンカチを渡し、傷を押さえている間に無理矢理馬車から下ろした。
「何をする、貴様」
と大きな声が響いた。
「アーシャ様だ、アーシャ様!」
と村人達に気づかれた。慌て馬車に戻ろうとするカイル王子を、村人に向かって
「こちら第二王子のカイル殿下です。皆さんの準備を見に来ました」
と言った瞬間、カイルは私を凄い目で見た。
「ありがとうございます、カイル王子殿下」
と村人達は膝をつきありがたがる。その様子を見て驚くカイル王子。カイル王子だって子供だ。公務はあまり出た事ないだろう。ありがたがられることも初めてかもしれない。もちろん私だって王族に会うなんて昨日初めてだ。神々しいと思ったんだ。

子供の一人が、
「王子様って怖い」
と言った。カイルがまた震え始めた。
隣の親の顔色が真っ青になり、村人に動揺が走った。

私は、ゆっくり子供にもわかるように
「このカイル王子様、先月、鹿狩りに行って猪と鉢合わせしてしまって襲われたんです。その時顔に深手を負ってしまって、みんなに怖いって言われて傷ついているの。もう襲われた傷は治らないの」
と言えば、カイル王子は、
「何を言っているんだ!」
と言ったが、村人達が集まってきて、
「こんな子供がイノシシに襲われたのか、大変だったな。よく命があったもんだ」
「俺にも背中や肩、頬に傷がある。痛かったよな」
「王子様、ごめんなさい。みんなの食料を取ってくれているのに」

「いや、私は、食料を取りには…」
と困惑しながらカイル王子は目が泳いでいた。
「傷は、男の勲章だ。今は、痛いが、イノシシと戦って生きていると自慢してやれ」
「おい、王子様に言うことじゃないだろう」
「そうだな、ワハハッハハ」
音楽が鳴り始めた。唖然としいるカイル王子。
そして音楽が鳴れば、準備も中断して踊る村人。誰もカイル王子の顔に傷があることを気にしない。たいしたことじゃない。命があって生きている、村人達にはそれが全て。イノシシ狩は命がけ、みんなの食糧の確保で贅沢品。そんなの村では常識。毎年、何人か狩りで亡くなっている事は知っていた。
唖然としているカイルの手を引き、ハンカチを取り上げる。
「さぁ踊りましょう?カイル王子様」
「えっ?」
「ほら、傷を見ても誰も気にしないです、さぁ、私達も踊りましょう」
始め、怖々踊っていたカイル王子だったが、みんながお互いの手を叩き合わせたり、ぐるぐる回ったり、本来まだ子供だった事を思い出すかのように、自然と笑って踊っていた。

「信じられないわ。何がカイルに起こったの?顔に布も当てていないし、見て、笑っているわ。踊っている」
と元王妃、元国王も
「信じられない、輪の中に入っているぞ」
と感嘆の声をあげた。
ドミルトン家のみんなは、
「また、アーシャはどんな魔法を使ったんだろうね。男爵領の村人達と第二王子様が一緒に踊るなんて!」
「本当にあの子は、国を変えてしまうぐらいの娘かもしれませんね」
と驚きと誇らしさと凄さを言葉にしていた。

そして笑顔でみんなで参加し始めた。

男爵領のお祭り騒ぎに乗じて商人風の盗賊達は村を探索していた。子供を連れた女は来ていないか?と聞いたりしていた。ちょうど、村の門番や警備隊員達は、男爵様や護衛騎士のシンから話を聞いていた上での警備体制を強化していたので、各自に伝言が伝わった。
そしてそれぞれ後をつける事になり、祭どころではなく、深夜の男爵領総出の捕物が行われることになった。
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