【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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13シンの捕物帖

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収穫祭の夜

「男爵様には、連絡済みだ」
とシンは警備隊員に言った。祭りの後の静けさだ。村で情報収集してた男達が祭りが終わった後の酒場に入っていると連絡を受けた。

「村の門番達は、昨日警備隊員が見たという幌馬車を見つけ、誰もいないようだったら逃走経路を立つ為、馬を確保するように、見張りがいる場合、その者を確保出来そうなら取り抑えろ。そして逃走を断とう。無理はしなくていい。こちらは人数がいる。応援が来るから」
と言えば、門番達は
「はい」
と緊張感を感じながらも5人で動ける安心もあった。

「申し訳ありませんでした。商人風な盗賊と聞いていたのに」
と警備隊の男は謝った。
「いや、私もアステリア王国とは言わなかった。情報の共有をしていなかった」
と言い、警備隊員が7名に町の自衛隊の者が5名、来賓を守る騎士が5名だ。

「数では勝てる」
そう言い切れた。ライル男爵様と元国王様の護衛騎士が3名到着した。
今の配置と門番達が逃走経路を断つように動いていることを伝えた。
「よくやってくれているね、助かるよ」
と男爵様に言われた。私だってアーシャ様の側にいて学ばせてもらっている。よくアーシャ様は、万が一とか終わりから逆算してどう動くか決めると言っていた。
だから私は、全員確保が終わりと考えた。そこから動き出した。

「いかがいたしますか?」
と聞けば、
「門番達が帰ってきていないのが、気になるな」
と男爵様が言った。そろそろ、酒場も閉まる頃だ。
「現在、裏口に3名おります」
と言えば、男爵様は、
「ここから商人風な輩はどこに行くのか?本当にこれで全員なのか?」
と言った。
確かに警備隊の男は、一人の商人と会話した。村に聞き歩いた商人風な男は、二人組が二ヶ所だ。見てない者もいるのか?

男爵様が手を上げ、集合がかかった。
町の入り口に警備隊員二人を酒場に二人を配置し、警備隊室で作戦を練り直した。すると、村の門番達が帰ってきた。幌馬車の周りで火を囲む者が3名いたと報告を受けた。

良かった。数では有利だが、場数が違う。無理せず帰ってきてくれて良かった。
私は、全体の把握さえ出来てなかったのだ。気ばかり焦って、危うく領民を傷つけるところだった。
「すまん。危険なところに行かせてしまったな。無理せず帰ってきてくれて本当に良かった」
と言えば、門番達が、
「いつもシンさんが、人をよく見ろと言っているじゃないですか。そのおかげで相手が俺達より強そうだとわかりました。報告することに切り替えたんですよ」
と言った。男爵様も頷き、
「幌馬車の場所がわかった。ではどうしようか」
と投げかけた。
「泳がせますか?」
と騎士が言えば、私は、やはり数では有利だと思っていた。
騎士学校で奇襲よりも確実な正攻法は、数の有利と地形の把握と習った。
「その場所は、開けている場所です。たいして木もないので見晴らしがいい、まずは、その3名を確実に押さえましょう。そして縛って幌馬車に我々の何名かも隠れませんか?」
と提案した。全員確保が理想だが、確かに相手の人数がわからない。

男爵様は、
「シンの作戦で!」
と言った。ここに残るのは、男爵様と自衛隊員のみ。自衛隊員は、町の各場所に行き、逃げ出す者を見かけたら、音を鳴らす約束をした。
酒場はまだ開いているらしく、警備隊員は戻ってこない。今いる人数で幌馬車の方の3名を確保しに行く。

暗いが、何もないため、焚き火まで近づけない。大きく五角形をつくり、配置をする。
騎士の一人が馬で近づき、
「盗賊を探している。幌馬車の中を見せて欲しい」
と商人風の三人に声をかけた。
三人は、ぺこぺこしているようだ。騎士が馬から降りて、馬の横腹を叩き、勢いよく馬だけが走った。

それが合図だ。大きな五角形は中央に走り込む。こちらは12名だ。どこにも逃げ場はない。商人風の男達は、刃物を出した。門番は引いて逃げ道を塞ぎ、騎士や警備隊員、私で戦ってすぐに決着はついた。縛り上げ服を脱がして、警備隊員と私が服を着て、火を囲む。
その他の者は、幌馬車に待機した。

酔っぱらった商人風な盗賊達が戻ってきた。手には何か持っているようだ。名前を言っている。仕方がない。
軽く手を上げた。
近づく盗賊達を感じながら、焚き火に木を数本一気に入れ明るくする。
「何だよ、火の勢いが強すぎるぞ。交代に遅れたのはすまねぇな、イノシシ肉が上手くて土産だぞ」
と言うなり、私は、振り返り鞘つきのまま、男の腹に一撃を入れた。疼くまる男を残して逃げようとした3名。
そして一斉に馬車からみんなが降りて、残り3名の確保をした。

「7名確保です」

警備隊の男が7名の顔を見る。
「はじめに話しかけてきた商人がいません」
と言った。ここで幌馬車を移動することに決めた。
「7名確保で幌馬車ごと移動しましょう騎士の方は盗賊と一緒にその他はもう一台に乗って、町の入り口付近に行きましょう。警備隊や門番は、町の出入り口を確認」
逃げ出す男がいれば、幌馬車を必ず見るだろう。近づかなくても、こちらを見たら捕まえようと言ってある。

町の中で木を叩く音がした。町の入り口の警備隊員も何事かと見ている。

入り口ではない場所から男が出てきた。
そしてこちらを一瞬見て、一歩踏み出そうとして逃げた。

「確保しろ!」

ここから走る競争だ。
相手も捕まってたまるかと必死になっている。中々距離が縮まらない。
「くそっ」

騎士団員が幌馬車の馬を外し、馬で追いかけてきてくれた。
さすがだ。
前を防いでくれた。

「くそっこんなに走らせやがって!」
と刃物を出した男の手に鞘つきの剣で思いっきり叩き込んだ。
これは、イライラを当たった結果だ。

騎士も呆れていたようだ。元国王様をお守りするような礼儀も出来、頭もいい騎士様には出来ないだろうな。

まだまだ俺は、甘い。王都の方が賑やかで給料だっていい。騎士学校の成績だってそんなに悪くない。でも俺は騎士団には入れなかった。

「アーシャ様になんて言おうかな」

アーシャ様のような一撃必殺で決めたかったな。男爵様がやって来て、
「手首折れているよ、シン」
と言ったら、警備隊員が、ご丁寧に俺が走らされて、ブチ切れしたところまで話していた。

「まぁ、事情聴取は取れるから良しとしようね」
と言った。

事情聴取は、その日の夜から警備隊の建物で行われた。
私と男爵様は、屋敷に戻り元国王様達の指示を受けることにした。

深夜に屋敷に戻れば、執務室で話し合うことになった。
「間違いなくアステリア王国のカイタル商会の商人だと警備隊員は聞いたそうです。男爵領の通商書きがなかったため、祭りには参加させなかったと申しております」
「側妃の出入り商人の一人かもしれないな。カイタル商会は登録している」
と元公爵が言えば、
「ここにはカイルがいる。拐われた子供もいるのだろう。ここでは話さないようにしよう。移送手段も考えなければならないな」
「こちらでは取調べをしないということですか?」
と聞けば、
「いいや、必要最低限のことは聞き出してから、王宮に連れ帰る。必ず側妃との関係を認めさせなければいけない」
と元国王は言った。

「取調べはどうだ?」
と聞くと、警備隊員が聴取の紙を取り出し読み上げた。
「主犯格は、タン カイタル商会の商人です。商会とは関係なしに農民から子供の奉公先を探して欲しいと頼まれ、預かっていた子供5人を炊事を頼んでいた女に拐われたと言ってます」
「それで、探しにきたと言い訳しているのか、ならあの盗賊は?」
「護衛兼人探しの為に雇った酒場にいた輩だと言ってます」
「誤魔化すつもりか!」
「盗賊達も酒場で雇われたと金をくれるから人探しを手伝っただけと言ってます」

1日経っても平行線のままだった。この報告は、男爵様達に渡している。
「せめて、子供達の行方がわかれば!」
私達は、王宮内のゴタゴタなどは騎士団に任せても、拐われた子供達、他領の行方不明な子供達の事を重点的に聞いた。男爵様もそれでいいと言ってくれた。

「あの馬車でどこに連れて行く予定だった」
「俺らは、場所なんて指示されてない。馬車を用意しろと言われているだけだ」
「タンに仕事をもらったのはどこだ?」
「王都」
「カイタル商会の店があるところには、出入りしているのか?」
「さぁ、商会なんていちいち気にしちゃいない」

三日目、ハンナを連れてきた。これは、強硬手段だ。昼過ぎには騎士団が到着するらしい。

震えているハンナに
「大丈夫だ、知り合いかどうかの面通しで、対面では会わせない。独房で覗き、話せそうだと思う奴を指名して欲しい」
とお願いした。子供を助けた事を最悪と言った女を信用はしていないが、時間がない。
震えながら、拒否するハンナにだいぶ時間を取られた。
こちらも引き下がらないとわかると仕方なさそうに一人の男を指した。

「お前は、あの女性を知っているか?」
と盗賊の男に聞いた。ガタッと勢いよく立ち上がり、
「あの女!逃げやがって!マチルダ様に殺されろ!」
その声は、ガラス窓一枚隔てた廊下に響いた。ハンナは震えながら、
「あんたが金を持って消えなければ、私だって仕事を辞めずに済んだのよ、全部あんたのせいよ」
ハンナは、廊下に座り込んだ。
結局、二人は口を閉ざした。

夕方、騎士団が盗賊達の移送として王宮から密かに派遣された。
やはり、子供の行方よりも城内のゴタゴタを優先するのか!
ここにいるみんな思っていたが、男爵様も見送り、納得しているのだ。

「男爵様、最後にマチルダという名前が出ました。ハンナも知っているようです。盗賊の男がマチルダ様に殺されろと言ったのでハンナから聞き出していきます」

毎日続く取調べにハンナは、マチルダという者が、オルビア国とアステリア王国を繋ぐ港で、盗賊の長をしながらカイタル商会の幹部だとわかった。
「カイタル商会だ!」
みんな確保したいと思っていた。

そして、

王宮に移送された日、城の独房に入れられた盗賊と商人は、出された食事に毒を盛られた。

その連絡が来たのが一ヵ月後だった。

カイタル商会を調べましょうと王宮に協力要請をしたが、王宮はカイタル商会とは取引無し、知り合いはいないと連絡が来たのは、更に1週間後。

そして、男爵様は、伯爵様になり、領地が広くなった。これで終わりですと通告された気がした。
誰もが、納得がいかなかった。

そして、アーシャ様がバカンスをしたいと言い出したのが、収穫祭から半年後。
魚釣りをしましょうと言って、港町に行った。ハンナや警備隊員や村の門番を根こそぎ連れて行ったバカンスは、偶然カイタル商会があって、たまたまマチルダがいて、一網打尽にして潰してきたのは、ドミルトン伯爵家では、禁句な話。
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