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25成人の儀
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「お金がかかっておりますね、白いドレスなのに」
お祖母様とお母様が並んで、私のドレス選びをしている。頷いたり、否定をしたり、この時間、何回か体験しているが全く慣れない。
はっきり言ってどれでもいい。私は伯爵令嬢ですし、婚約者いないですし、誰かに見せたい、というものがないのです。そしてこれは、絶対言ってはいけないらしい。
令嬢として花であれ、これはお祖母様が幼少期の教育して下さった時の言葉。ずっとこの教えである。
しかし私の花は枯れているのです。
いくら豪華な花瓶でも枯れた花じゃ駄目でしょう。私は、何故この年頃の令嬢が、好きだの側にいたいだの言っているのかわからない。一度正直に茶会で言ってみたところ、
「変な令嬢、おかしな令嬢」
と言われてしまった。他の令嬢が
「フランツ王子様が素敵」
と言った。でもマリーさんがいて、ルイーゼがいて、あなたはいないんですとは言えなかった。
やっぱり、私がおかしいのかな?
それ以来、恋話は笑って流して何も残ってない。
そんな理由でおしゃれにも目覚めておらず、ただ言われるままの着せ替え人形をしている。
辛い、苦痛。
「では、これらにしましょう」
やっと決まり部屋につけば、窓縁に鳩が止まっていた。相変わらず、何もつけていない。私に報告する事がないというのは、順調な証拠。
「今日は、着せ替え人形の絵を描きましょう」
夢中になって描いた。動きをつけていかにドレスの着脱が面倒くさいかをイラストにして、フランツ王子に送った。
夜、ガタッ
「大丈夫だ、フェルナンド。伝書鳩だ」
括られている紙を取る。
令嬢が、ドレスを何着も脱いでは着てを繰り返し汗をかきながら、最後は、泣いている。
「アーシャ様は、何と?」
「今日は、ドレス選びが苦痛で泣くほど嫌だったそうだ」
「えっ、ドレス選びは令嬢が一番好きな事じゃないのですか?」
「アーシャは、手押し相撲に腕相撲を考えた令嬢だぞ。ドレスより兵法の話を好む」
「殿下は、何をお伝えしたんですか?そろそろ婚約候補者を白紙にしたいと告げましたか?」
「何も送っていない…」
「えっ!?」
これは、私の…
「何でもない、何かあった時のために、定期連絡を伝書鳩が道順を忘れないようにするため」
カイルが何かあった時のため。
フランツは、今日の絵手紙をしまうため、引き出しを開ける。随分と溜まった箱の中、全て折り目がついていて綺麗に管理が出来ないが、今回の手紙も綺麗に伸ばす。前回のマークとカトリーナの抱き抱えの絵、腕相撲大会の絵、茶会のケーキの絵、ただの日常。また繰り返し見た後、鍵をかけた。
「ストック国のカイル王子様から届きましたよ」
お母様からの連絡で見にいってみると、木箱の中に大きな琥珀と手紙が入っていた。
「凄い!」
と感嘆な言葉を言えば、お母様も
「こちらは上物よ、素晴らしいわ。美しい琥珀、これどのように加工しましょうか?お祖母様にも相談しなければならないわね。大変」
と慌て部屋から出ていった。私も手紙を持って自部屋に入る。
ゆっくり、丁寧に封筒を切る。
紙を取り出す時、異国の匂いがした気がする。幼い時住んでいたストック国、もう記憶はないが、かろうじて、庭がとても可愛かった気がする。
カイル王子の字は、少し硬い。
寄宿舎生活は、楽しいらしい、そして騎士科に進み、半年前から騎士団の練習生にもなっていた。
山の遠征練習で琥珀を見つけたから、遅くなったが誕生日の贈り物だと書いてあった。
あんな綺麗な琥珀、遠征練習でたまたま見つけられるのかしら?
何となく、半年以上前の手紙を思い出す。最近忙しくなったこと、授業で凄い事を教わったこと、誕生日の贈り物は驚くと思うとよくわからない期待を煽っていた事。
「一年近くあの琥珀を探していたんですねカイル王子」
突然、走って行ってしまったんじゃないかしら?なんて馬鹿な想像をしてしまった。あのカイル王子襲撃の時、私がカイル王子のフリをした。説明したのに、最後まで反対された。あまりにも言う事を聞かないから、マリアに頼んで眠り薬を嗅いでもらった。気づいた時、護衛も関係なしに宿場町から走って馬車を追いかけたと聞いた時には、驚いたし、申し訳ない気持ちになった。
あの後、話す時間はあまりなかったけど、私の気持ちは伝えた。
「生きているのだから、幸せになってほしい」
とカイル王子はなんとも言えない表情をしていた。
「私は、負けない。学友であるアーシャを超えてみせるから」
と言ったのが最後の挨拶。王宮から預かっていた元国王夫妻の騎士とメイドをつけ再びストック国に出発した。
無茶したのではないかなぁと思ったが、まずは御礼状を書くべきだろう。
そして、最近、紙を4等分に分けて、日常の絵日記みたいなのを書いている。一言入れて。結構、笑える自信作を数枚入れてカイル王子様に送ろう。
「刺繍のハンカチにしなさい」
「令嬢ですからね」
と、刺繍のハンカチも送る。最近王家の紋章をずっと練習させられていたのでまさか役に立つ時がくるなんて思いもしなかった。お祖母様こそ予知の力があるのではないかしら?
成人の儀
13歳の令息令嬢が王宮の王の間に挨拶に行く。
これで私も貴族名が載る事になる。
「アーシャ・ドミルトンと申します」
「楽にして良い。初めて会うなアーシャ嬢。息子達が世話になった」
私は姿勢を崩さず、
「全ては、偶然。王子様達の持っている運でございます」
と答えた。
「何か褒美を与えようか?」
「いえ、何もいりません。偶然居合わせたに者に褒美なんて恐れ多いです」
「そうか」
「はい、失礼します」
再度、厳しい特訓をさせられたカーテーシーをして退出した。
中々の出来栄えだったはず、ふふんと少し胸を張ってお父様の元に向かえば、ルイーゼがいた。いつの間にその巻き巻きの縦ロールにしたの?前回のエリオン様の誕生日会ではあんな縦ロールではなかった。巻き巻きの巻き巻きで通り過ぎた。フンと聞こえるような勢いで顔横に向かれ、イヤリングやリボンが青く、白いドレスよりも髪や顔に目がいく。
礼をしたが返ってはこない。
別に、いいけど。
「お父様、帰りましょう?」
と言えば、
「少し、読みたい本があるのだけど、図書館に付き合ってくれないか?」
と言われ、図書館に入る。沢山の本、これ全部読んだら賢者だわ。
目的もない私には、図書館のどの本を取っていいかわからない。
ただ、本の題名を読んで本には触らない。堅苦しい題名ばかり、流行りの本はないのね。
「アーシャ?」
とふと声をかけられた。振り向くと、フランツ王子がいた。
「あら、フランツ王子様、お勉強中ですか?」
と聞けば、
「何故ここに?」
質問で返ってきた。
「今日は、成人の儀ですよ、今終わって父様が調べ物でお付き合いさせていただいております」
相変わらず陶器みたいな肌に冷ややかな切れ長の目、真っ赤な唇、絵になる。スケッチブックがあったなら、すぐに写生させてもらいたかった。
しかし目の下のクマが気になる。
黙っているフランツ王子に構わず、
「この間のドレス選びは大変の巻、どうでしたか?面白く仕上がってませんでしたか、あそこらへんにお祖母様の表情とか入ったら、もっと辛さとか面白さが伝わりましたかね」
と前回のイラストについて話した。
「なんで?」
「はい!?だからイラストです。見ませんでしたか?」
「見た」
フランツ王子は難しそうな顔をしたから、絵なんて受け取り方や上手い下手だってそれぞれだ。あまり面白くなかったかな。押し付けは良くないな。
「ごめんなさい、フランツ王子様、評価を押し付けるような真似しちゃって。こっそり描いているものだから、誰かにも見せてないので、共通認識してしまったんです。気にしないでください」
と素直に言った。
「いや、面白かった。表情が豊かで、その場面を見ているようだった。言葉がなくて絵だけで伝わるのが凄いと思った」
「本当に嬉しいです。ありがとうございます、フランツ王子様、お父様が見ているわ、行かないと。目の下のクマ結構凄いわよ、しっかり寝てください、またねフランツ王子様」
と別れた。
フランツは、驚いた。何故アーシャがいる?真っ白なドレス、成人の儀、私も終えたから、もちろん知っている。会えるとは思わなかった。婚約者候補がうるさく煩わしいから、フェルナンドに言って図書館で隠れていた。フェルナンドが入り口を固めていたはずだ。
アーシャが何か言っているのに、驚き過ぎて入ってこない。
「イラスト」
あれ、アーシャが困った顔した。何だ、どうした?
ドレス選びの絵か、
「見た」
何故、面白かったと言わなかったんだ。アーシャが謝る、いや違う、上手く言葉が出てこなくて、最近心からの言葉を言ってなかったから、上辺ばかりで、だから、かろうじて、面白かったと言えた。伯爵が呼んでいるのか。
いや、手紙を書かない理由を言わなくては、いけない。
「しっかり寝てください、またね、フランツ王子様」
とアーシャは言った。ご機嫌ようとかお会いしたく存じますとかじゃなくて、普通に、またねって。
昔からアーシャはそうだ。いつでも欲しい言葉をくれる。カイルは、学友は、アーシャ一人でいいと言った、羨ましかった。あの収穫祭の時、私も学友だと言ってくれた。だからカイルも私も救いたいと言った。
またね…か。
学園に行けば、会える、またねだな。
「殿下、楽しそうですね」
何かこいつにしてやられた気持ちになるのは何故だろう。思いっきりフェルナンドの腹に拳を入れた。
本当は、フェルナンドが、シン宛に手紙を書いた。フランツ王子が最近執務の勉強が忙しく、寝る時間も割いているのを知っていたから、気晴らしに学友と話をさせたい、協力して欲しいと頼んだ。
きっと今日は、ゆっくり寝れるだろう。久しぶりの笑顔だから。
お祖母様とお母様が並んで、私のドレス選びをしている。頷いたり、否定をしたり、この時間、何回か体験しているが全く慣れない。
はっきり言ってどれでもいい。私は伯爵令嬢ですし、婚約者いないですし、誰かに見せたい、というものがないのです。そしてこれは、絶対言ってはいけないらしい。
令嬢として花であれ、これはお祖母様が幼少期の教育して下さった時の言葉。ずっとこの教えである。
しかし私の花は枯れているのです。
いくら豪華な花瓶でも枯れた花じゃ駄目でしょう。私は、何故この年頃の令嬢が、好きだの側にいたいだの言っているのかわからない。一度正直に茶会で言ってみたところ、
「変な令嬢、おかしな令嬢」
と言われてしまった。他の令嬢が
「フランツ王子様が素敵」
と言った。でもマリーさんがいて、ルイーゼがいて、あなたはいないんですとは言えなかった。
やっぱり、私がおかしいのかな?
それ以来、恋話は笑って流して何も残ってない。
そんな理由でおしゃれにも目覚めておらず、ただ言われるままの着せ替え人形をしている。
辛い、苦痛。
「では、これらにしましょう」
やっと決まり部屋につけば、窓縁に鳩が止まっていた。相変わらず、何もつけていない。私に報告する事がないというのは、順調な証拠。
「今日は、着せ替え人形の絵を描きましょう」
夢中になって描いた。動きをつけていかにドレスの着脱が面倒くさいかをイラストにして、フランツ王子に送った。
夜、ガタッ
「大丈夫だ、フェルナンド。伝書鳩だ」
括られている紙を取る。
令嬢が、ドレスを何着も脱いでは着てを繰り返し汗をかきながら、最後は、泣いている。
「アーシャ様は、何と?」
「今日は、ドレス選びが苦痛で泣くほど嫌だったそうだ」
「えっ、ドレス選びは令嬢が一番好きな事じゃないのですか?」
「アーシャは、手押し相撲に腕相撲を考えた令嬢だぞ。ドレスより兵法の話を好む」
「殿下は、何をお伝えしたんですか?そろそろ婚約候補者を白紙にしたいと告げましたか?」
「何も送っていない…」
「えっ!?」
これは、私の…
「何でもない、何かあった時のために、定期連絡を伝書鳩が道順を忘れないようにするため」
カイルが何かあった時のため。
フランツは、今日の絵手紙をしまうため、引き出しを開ける。随分と溜まった箱の中、全て折り目がついていて綺麗に管理が出来ないが、今回の手紙も綺麗に伸ばす。前回のマークとカトリーナの抱き抱えの絵、腕相撲大会の絵、茶会のケーキの絵、ただの日常。また繰り返し見た後、鍵をかけた。
「ストック国のカイル王子様から届きましたよ」
お母様からの連絡で見にいってみると、木箱の中に大きな琥珀と手紙が入っていた。
「凄い!」
と感嘆な言葉を言えば、お母様も
「こちらは上物よ、素晴らしいわ。美しい琥珀、これどのように加工しましょうか?お祖母様にも相談しなければならないわね。大変」
と慌て部屋から出ていった。私も手紙を持って自部屋に入る。
ゆっくり、丁寧に封筒を切る。
紙を取り出す時、異国の匂いがした気がする。幼い時住んでいたストック国、もう記憶はないが、かろうじて、庭がとても可愛かった気がする。
カイル王子の字は、少し硬い。
寄宿舎生活は、楽しいらしい、そして騎士科に進み、半年前から騎士団の練習生にもなっていた。
山の遠征練習で琥珀を見つけたから、遅くなったが誕生日の贈り物だと書いてあった。
あんな綺麗な琥珀、遠征練習でたまたま見つけられるのかしら?
何となく、半年以上前の手紙を思い出す。最近忙しくなったこと、授業で凄い事を教わったこと、誕生日の贈り物は驚くと思うとよくわからない期待を煽っていた事。
「一年近くあの琥珀を探していたんですねカイル王子」
突然、走って行ってしまったんじゃないかしら?なんて馬鹿な想像をしてしまった。あのカイル王子襲撃の時、私がカイル王子のフリをした。説明したのに、最後まで反対された。あまりにも言う事を聞かないから、マリアに頼んで眠り薬を嗅いでもらった。気づいた時、護衛も関係なしに宿場町から走って馬車を追いかけたと聞いた時には、驚いたし、申し訳ない気持ちになった。
あの後、話す時間はあまりなかったけど、私の気持ちは伝えた。
「生きているのだから、幸せになってほしい」
とカイル王子はなんとも言えない表情をしていた。
「私は、負けない。学友であるアーシャを超えてみせるから」
と言ったのが最後の挨拶。王宮から預かっていた元国王夫妻の騎士とメイドをつけ再びストック国に出発した。
無茶したのではないかなぁと思ったが、まずは御礼状を書くべきだろう。
そして、最近、紙を4等分に分けて、日常の絵日記みたいなのを書いている。一言入れて。結構、笑える自信作を数枚入れてカイル王子様に送ろう。
「刺繍のハンカチにしなさい」
「令嬢ですからね」
と、刺繍のハンカチも送る。最近王家の紋章をずっと練習させられていたのでまさか役に立つ時がくるなんて思いもしなかった。お祖母様こそ予知の力があるのではないかしら?
成人の儀
13歳の令息令嬢が王宮の王の間に挨拶に行く。
これで私も貴族名が載る事になる。
「アーシャ・ドミルトンと申します」
「楽にして良い。初めて会うなアーシャ嬢。息子達が世話になった」
私は姿勢を崩さず、
「全ては、偶然。王子様達の持っている運でございます」
と答えた。
「何か褒美を与えようか?」
「いえ、何もいりません。偶然居合わせたに者に褒美なんて恐れ多いです」
「そうか」
「はい、失礼します」
再度、厳しい特訓をさせられたカーテーシーをして退出した。
中々の出来栄えだったはず、ふふんと少し胸を張ってお父様の元に向かえば、ルイーゼがいた。いつの間にその巻き巻きの縦ロールにしたの?前回のエリオン様の誕生日会ではあんな縦ロールではなかった。巻き巻きの巻き巻きで通り過ぎた。フンと聞こえるような勢いで顔横に向かれ、イヤリングやリボンが青く、白いドレスよりも髪や顔に目がいく。
礼をしたが返ってはこない。
別に、いいけど。
「お父様、帰りましょう?」
と言えば、
「少し、読みたい本があるのだけど、図書館に付き合ってくれないか?」
と言われ、図書館に入る。沢山の本、これ全部読んだら賢者だわ。
目的もない私には、図書館のどの本を取っていいかわからない。
ただ、本の題名を読んで本には触らない。堅苦しい題名ばかり、流行りの本はないのね。
「アーシャ?」
とふと声をかけられた。振り向くと、フランツ王子がいた。
「あら、フランツ王子様、お勉強中ですか?」
と聞けば、
「何故ここに?」
質問で返ってきた。
「今日は、成人の儀ですよ、今終わって父様が調べ物でお付き合いさせていただいております」
相変わらず陶器みたいな肌に冷ややかな切れ長の目、真っ赤な唇、絵になる。スケッチブックがあったなら、すぐに写生させてもらいたかった。
しかし目の下のクマが気になる。
黙っているフランツ王子に構わず、
「この間のドレス選びは大変の巻、どうでしたか?面白く仕上がってませんでしたか、あそこらへんにお祖母様の表情とか入ったら、もっと辛さとか面白さが伝わりましたかね」
と前回のイラストについて話した。
「なんで?」
「はい!?だからイラストです。見ませんでしたか?」
「見た」
フランツ王子は難しそうな顔をしたから、絵なんて受け取り方や上手い下手だってそれぞれだ。あまり面白くなかったかな。押し付けは良くないな。
「ごめんなさい、フランツ王子様、評価を押し付けるような真似しちゃって。こっそり描いているものだから、誰かにも見せてないので、共通認識してしまったんです。気にしないでください」
と素直に言った。
「いや、面白かった。表情が豊かで、その場面を見ているようだった。言葉がなくて絵だけで伝わるのが凄いと思った」
「本当に嬉しいです。ありがとうございます、フランツ王子様、お父様が見ているわ、行かないと。目の下のクマ結構凄いわよ、しっかり寝てください、またねフランツ王子様」
と別れた。
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アーシャが何か言っているのに、驚き過ぎて入ってこない。
「イラスト」
あれ、アーシャが困った顔した。何だ、どうした?
ドレス選びの絵か、
「見た」
何故、面白かったと言わなかったんだ。アーシャが謝る、いや違う、上手く言葉が出てこなくて、最近心からの言葉を言ってなかったから、上辺ばかりで、だから、かろうじて、面白かったと言えた。伯爵が呼んでいるのか。
いや、手紙を書かない理由を言わなくては、いけない。
「しっかり寝てください、またね、フランツ王子様」
とアーシャは言った。ご機嫌ようとかお会いしたく存じますとかじゃなくて、普通に、またねって。
昔からアーシャはそうだ。いつでも欲しい言葉をくれる。カイルは、学友は、アーシャ一人でいいと言った、羨ましかった。あの収穫祭の時、私も学友だと言ってくれた。だからカイルも私も救いたいと言った。
またね…か。
学園に行けば、会える、またねだな。
「殿下、楽しそうですね」
何かこいつにしてやられた気持ちになるのは何故だろう。思いっきりフェルナンドの腹に拳を入れた。
本当は、フェルナンドが、シン宛に手紙を書いた。フランツ王子が最近執務の勉強が忙しく、寝る時間も割いているのを知っていたから、気晴らしに学友と話をさせたい、協力して欲しいと頼んだ。
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