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30話が違う

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気づいてしまうと、いきなり芝居を見せられているような感じになって、つまらなくなりもう私は、隠れたりしていない。マリーゴールドさんの奇行の横を通り過ぎている。
マリーゴールドさんは、よく廊下で転んでいる。そりゃわざとらしいほどに。何故そうなったかと想像するに、婚約候補者が5人もいるせいだと思う。5人の婚約候補者の一人が近くにいれば転んでいる。同学年なので遭遇する率は高いのだろう、ひどい時は、3メートル先々で3回も転んでいた。
周りもそれを天然とは受け取らず、奇行として捉えている。
私の予告書に動物と話せると書いてあったが、本当に話せるのかも確かめていない。それも鳥に餌を撒く人として奇行だと言われている。

「マリーさん、気づいているのかしら?」


おかしいって!何故、ルイーゼ様は、私をいじめてこないの?
フランツ王子様の前に出た時、私は、ちゃんと決め台詞を言ったはずよ。
あの冷ややかな目は、氷の王子そのもの。もちろん出会いなのだから、心が動かなくて当然だけど、ちゃんとあの後、悪役令嬢が出てきた。凄い迫力だったけど私は、反論した。鳥のフンも落ちてきた。
きちんと進んでいるわ。
間違ってない。
出会いは少し遅かったけど、入学式のトラブルあれのせい。
婚約候補が5人もいるからよ。それがそもそも話が違う。氷の王子は、誰にも心を許してなさそうだったのが安心したわ。商会の情報網で王子がどこかの令嬢に花を送ったなんて聞いたから、私が知っている漫画と違うんじゃないかとも思ったし、転生者がいるんじゃないかと用心して始まりを遅らせてしまった。でもそのせいか何も展開がなくつまらなすぎて、イベントの小鳥の怪我を実行したわ。
でも何故か怪我した小鳥が見つからない。朝から探しても見つからない。でも剣術帰りの王子を捕まえて名前の交換をしなければ…。私は、餌を撒き呼び寄せても撒いた時だけ鳥は来た。でも、すぐいなくなる。いつ通るかわからないから、現場待機して何度も台詞をいう。
間違ってはいけない。あれが会話の掴みなのだから、小鳥がいようがいなかろうが関係ない。
「どうしたの?小鳥さん」
あー何回言っただろう。鳥に話しかけるとかどんなメンヘラだよ。
音がした。誰かが来ている。
これは!
「どうしたの?小鳥さん」
会心の言い方が出来たわ。赤茶の髪、背が高い体格もいい。爽やかイケメン。誰だっけこの人?
「ゼノン・アキュア」
騎士のゼノンか、胸キュンしたよ。口からどんどん台詞が出てくる。
練習したかいがあったわ。
用事があると別れは呆気なかった。ところで王子どうした?爽やかイケメンにコロッと騙されて、台詞全部言っちゃったけど、この後王子来るのかしら?
「どうしましょう?」

結局私は、待った。ちゃんとイベントは行われるわけだとわかったから。王子と名前の交換しないと始まらない。
しかし王子は来なかった。
「何故?」
翌日とうとう、フランツ王子様の登校シーンと出会えた。こんなチャンス逃すわけにはいかない。
「確か遠足でも人集りが出来て、私は、押し出されるシーンがあったわ」
あの時フランツは、大丈夫かマリー?と心配そうな表情をしたのよ。護衛騎士や周りの生徒にはいつもの冷たい言動で、その人集りの生徒達を諌めるの。その後ピリついた空気の中の遠足だったから、マリーは、王子にアドバイスをするの、決め台詞で。
出来るわ。私は、ヒロインやれば出来る。
「中に入れて」
と無理やり肩から人の集まった最前列に向かって押し入れた。貴族学校は、育ちがいい。押したり、まして足を引っかけたりしない。簡単に前の位置どりが成功した。次はタイミング。王子の目の前で事件は起きなきゃいけない。
責任を感じてもらわなきゃね。

膝をついて転んだ。痛いって大袈裟じゃなく本当に外で転ぶのは痛い。押されてないけどね。
決め台詞も言ったのに、手を貸したのは後ろの護衛騎士。
違うわ。何故?
でも悪役令嬢ルイーゼが登場した。
いいわ。やっと登場よ。彼女の前に数日前から出現したけど、言葉もかけられなかった。認識されていないとわかったから、やはり私自身が動かなければ駄目なのよ。
ヒロインVS悪役令嬢よ
思った通り、身分だの上位貴族だの、悪役令嬢ぽい台詞、鬼のような迫力はあったけど、鳥のフンは、哀れよね。
やっぱり私はラッキーだわ。
このラッキーで平民から子爵令嬢まできた私の力は衰えてないわ。

漫画通りの順番は無理かも知れないか。そうよね本来なら、今年の夏休み明けに子爵令嬢になっているんだから。私がお義母様の子爵家に五年前にお父さんと縁を繋いでまさかトントンと結婚しちゃうなんてね。
爵位に令嬢の茶会情報が手に入って、商会も大きくなったけど、私が変えたことに漫画との相違が出来るに決まっていた。
「平民だからいじめられるんだしな」

入学してから別に元平民だからって、みんないじめない。みんなと仲良しだったらまずいかもと思ってお昼は、鳥からの情報をもらうという設定の庭園に一人で行く。鳥と話せるわけない。だいぶ無茶苦茶なキャラ設定に怒りながら餌を撒いていた。
でもおかげでルイーゼに鳥のフンが落ちたけど。
でもルイーゼは私をいじめない。もちろん他の婚約候補者達も。
「なんでよ、私、王子と会話していたじゃない!?」
何で?平民じゃないから?
「どうしよう?」
これは自分から仕掛けるしかないか。フランツ王子の前に転んだ時上手くいったわけだし、婚約候補者達が近くにいたら転ぼう!

この行動、身体張ってるし、とにかく痛い。転ぶ演技も上手くなった、その分私に手を差し出す人もいない。
悪役令嬢達はというと、無視。上から虫を見るかのような目をされたりした。その馬鹿にした目はいいんじゃないかしら。もっとちょうだい。後その現場を見ている令嬢や令息、証言取りに役にたちそうな者を覚えておかないと!

「身体張ってるわ、私」
これが数日、一週間と続いた。
そして私の中で私が壊れていった。
何故?悪役令嬢が乗り込んできたりしないの?普通に話かけてくれていたクラスメートまで、今や目も合わせてくれない。
「これは、違う、絶対に違う!」


「アーシャ様、あの令嬢」
とクラスメートが指を指す。これははしたない行為だ。
しかし、廊下で叫ぶ令嬢をみんな見て、
「あの奇行を繰り返していた令嬢だろう。怖かったなぁ」
「いつ見ても転んでいる方ね。普通に歩けないのかしら?」
冷ややか目で見る生徒達。
「行きましょう、アーシャ様」
私も横を通り過ぎる。

私のペンはゆっくり走る。
『転ぶ令嬢事件』

マリーさんは婚約候補者達の前で転ぶ、周りを確認してからまた転ぶ、悪役令嬢の虫でも見るかの目、最後…奇声をあげる

描いていて夢中にならなかった。
もっと哀れで残念で道化にみえて、描くのを躊躇う。

「漫画って何だったんだろうな」
と描いたイラストを見てつぶやいた。
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