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38落とし穴2

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フランツ王子は、毎日学園に来るようになった。そして、お願いした件を実行してもらっている。かなり面倒くさがっているかもしれないが、なるべく多くの学生に挨拶をする。これが、挨拶運動期間だ。現在、氷の王子の名を覆すくらいスムーズにこなしてくれている。
問題なのが、ルイーゼだ。しつこいくらい付き纏っている。そしてフランツ王子が他の学生と話すことに嫉妬している。私は、エリオンにある事をお願いをした。
私の意図をエリオンに話した。やってくれるかどうかは、エリオンの判断に任せた。どう転んでも公爵家には傷がつくが、落とし穴が深くならない内の策だと話した。ルイーゼが毎日、評判、評価という落とし穴を掘っているからだ。エリオンだってそれはわかってくれているはずだ。今しかないと私は思っている。
きっと一年たてば、落とし穴の底が見えないのではないか?

私は、ローズリーさんと連絡を取る事ができた。これも王妃様のおかげ、処分は、伯爵から子爵への降格、領地はそのまま、理由は、学園内で騒ぎを起こした。予定よりも軽い事に驚いただろう。まだ公表されてない。そのかわり、証言をしてもらう約束をした。後悔をしていたローズリーさん。あの時、刃物も持っていなかった。文句を言うつもりだったそうだ。私設警備隊も様子がわからず戸惑っていたところ取り押さえられたらしい。
なら、私の勘違いでもある。襲うではなく文句を言うなのだから。
「リア王女は、あの日、立って見ていたんです。あの光景を。すでに知っていたように見えました。生徒会の皆さんも立って見てました」
と言えば、
「はい」
と答えた。

そしてローズリーさんは話してくれた。

私がお願いしたかったのは、計画を誰が言い出したか、リア王女と打ち合わせをした内容、最後にローズリーさんの思いを言って欲しいと言った。

寄宿舎に戻れば、カイル王子から手紙と荷物が届いていた。
手紙によれば、ストック国の騎士見習いで害獣駆除の任務をしたことや勉強も頑張っていること。フランツ王子に手紙を書いたが返事がないのが気がかりなこと、そして
「アーシャ、誕生日おめでとう」
と薄い黄色のハイヒールが届いた。ミリーが
「美しい色ですね。サイズは少し大きいようですが、調整も出来ますし、アーシャ様もまだ成長期ですから、こちらに合わせたドレス作りも楽しみですね」
と言い、前回の大きい琥珀は、イヤリングとネックレスに加工したし、カイル王子は必ずプレゼントが届く。手紙だけでいいと言っているのに。
「アーシャ様、嬉しそうですね!」
とミリーに言われ、ハッとした。
「そんなことより、落とし穴よ」
とミリーを部屋から追い出し、作戦を立てると言って、カイル王子宛に手紙を書いた。もちろん、イラストを何枚か入れた。マリーさんのクッキー屋や挨拶運動中のフランツ王子、そして私が考えているこれからルイーゼにすることとドミルトン家が嵌められてしまったこと、計画の全てを書いた。
軽い傷で済むようにカイル王子も祈ってと最後に付け加えた。

言葉にするとルイーゼだけじゃなく、関わってしまった令嬢に申し訳なく思う。私は、自分勝手だ。
結局ドミルトン伯爵領を守るためとは知らずに、みんなに協力させている。
息が白くなり、冬休みが目前に迫った日、とうとう、ルイーゼが動いた。我慢の限界だったようだ。

「あなた、何か勘違いなさってないかしら?フランツ王子様は、特にあなただけに挨拶をしているわけではないでしょうに!何故クッキーやケーキを差し入れようとするんです。調子に乗らないで!」
とルイーゼが、マリーゴールドさんの差し入れたクッキーを彼女に向けて投げた。
「そんな、私、こちらのクッキーもケーキも、王都で評判なので、是非フランツ王子様にも召し上がって頂きたかっただけです」
さすが、マリーさん、くじけない。反論する。期待通りだ。
自分の言葉に反論されたルイーゼは、また鬼の形相になって、
「この生意気な子爵令嬢風情が!」
とマリーさんだけでなく、最近フランツ王子が多くの令嬢に挨拶をしているので、話しかけてくる令嬢や差し入れする令嬢、待ち伏せする令嬢が増えてイライラしていた。
こうなる事はわかっていた。
ルイーゼは広げていた扇子をパンと閉じ、マリーさんに投げつけたが、間に入った方にぶつかった。

全く笑わず、振り返って、
「ルイーゼ嬢、これはどういうことだ。わざと私に扇子をぶつけにきたのか?婚約者と言いながら、私に手を上げるんだな。これは計画的なのか?」

たかが、扇子。女同士の諍い。だけど、手を出しては駄目よ、ルイーゼ。あなた昔から頭に血が昇ると扇子を投げるのよね。

「違います。このマリーゴールドさんが、婚約者の私の前でフランツ王子を誑かすから、私は忠告しただけです」
とルイーゼがマリーさんを指で指しながらフランツ王子に訴える。フランツ王子は、
「私に扇子を投げつけておいて謝りもしないのか?ドミルトン公爵家には、厳重に注意する。ルイーゼ、そなたとの婚約も考えることにする」

そう宣言したフランツ王子。
沸く学生、生徒会のメンバーもいた。難しい顔をしている。
そうだ、もしルイーゼと婚約破棄になれば、自分達の身内から婚約者が出るかもしれない。だってまだ内定してないものね。
エリオンに頼んだことは、何人かの令嬢にフランツ王子が流行りのお菓子を食べでみたいと話していると言ってもらうこととルイーゼが裏庭や人の目に届かない場所で令嬢に会わないように誘導してもらうこと、こんな風に晒された時、直ちに馬車にいれ、公爵邸で軟禁する。
ドミルトン家は落とし穴に落ちた。

フランツ王子に頼んだことは、多くの学生に挨拶することとルイーゼが揉めた際、扇子を投げるから自ら当たりに行って、ルイーゼにキツく処分を言って欲しい。最後に婚約を考えると宣言して欲しいと伝えていた。

サラもリリアンも居心地が悪そうだ。でも常に評判を落としていたルイーゼに対して、フランツ王子様は、正当な判断を下してくれたと他の学生は大喜びだ。
だってたかが挨拶しただけ、食べるかどうかはわからないけどクッキーを差し入れただけですから。それなのに、王子に扇子を投げたルイーゼが処分されるのは、当たり前と思ったのだろう。

これでルイーゼを何ヶ月間か足止め出来た。早い時期に悪役令嬢を隠す事が出来た。
そして生徒会メンバーも先が見えなくなっていた。
「アーシャ嬢、エリオン君はどうした?」
会長のサミエルに聞かれ、
「公爵様に呼び出されています。フランツ王子様と一緒に説明に王宮に上がったそうです」
「そ、そうかい」

会長が何か考えているようだ。どうなるか早く聞きたいのかな。落ち度は、ルイーゼでドミルトン公爵家が笑い者、でももっとこんな風に馬鹿にした笑いじゃなく、深い傷にしたかったのでは?こんな学園内の令嬢の争いにフランツ王子が間に入って、たまたまルイーゼが投げた扇子に当たる、暴力だが、そんなの公爵家というよりルイーゼ一人が悪いに止まる。そして、今回の裁きでは、フランツ王子の評価が偶然にも上がった。挨拶運動も令嬢達から評判が良い。ただ一方でフランツ王子が令嬢を誑かしているという噂も出た。今、その噂の出どころを探している。意外に身近にいる気がする。
何かおかしい、もし我が家に白羽の矢が立ってしまったらと思わせられただけで、今はいい。動いてくれれば尚良い。

寄宿舎に帰りながら、卒業パーティー、ルイーゼという悪役令嬢がいなくて誰が困るのかなぁと意地悪気に笑った。
ガレットさんに、
「悪い企みでもしているんですか?」
と聞かれ、顔を振り、
「いえ」
と答えれば、
「そう言えば、来年からストック国から留学生がきます。生徒会では、準備案内をお願いします。残念ながら、こちらの寄宿舎ではありませんが。争いなく楽しい学園生活を送って頂きたいですね」

はあ!?また王族か?

年が明ければ、卒業パーティーの準備だ。王妃様から、リア王女はこちらに来れないと言われた。残念だ。情報が漏れたかしら。もしくは、感がいい。

しかし、まさかの証拠がでた。これは学生だから油断なのか、生徒会室の庶務の記録にまさか閉じてあるとは、思わなかった。それとも誰か…?

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