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46ハッピーエンド【完】
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キラキラ輝く真っ白な世界。
ここは現実ではないのだろうな。
こんな綺麗で何もない世界を知らないもの。
アシスタントをやれて楽しかったし後悔はないかな?でも私の話もいつか世に出たら嬉しかったな。
エキストラか、私の人生はきっと他の誰かの物語ではエキストラだけど、私の物語は、ずっと主役。
涙が出ていた。なんの夢かもわからないけど、胸が締め付けられるような切なくて、手を伸ばしたら届きそうなキラキラ。
「何を言っているのかしら?」
頬が濡れていた。
「アーシャ様起きて下さいまし。今日は、一世一代の大舞台ですよ」
まだ朝焼けの空にミリーの声が響く。マリアが、
「お風呂の準備出来ました、移動願います」
と言い、自分のメイド服の袖口を捲り上げていた。
私は、ゴシゴシと擦られ、花のオイルとともにマッサージとは思えない力強さと時間のかけられ方をし、そしてなによりもメイクに時間をかけられた。
「安心してください。アーシャ様、今日、この日は、誰もアーシャ様が印象に残らないなんてことは、絶対にありえません。最新の技術を学び最高の道具そして化粧品を揃えました。全ては、タイカ商会が全面的に協力を申し出てくれまして。マリーゴールド様は、アーシャ様と同級生だからと全て無料です」
と胸を張って言うミリーに、私は、呆れた。タイカ商会は、ケーキから化粧品まで本当に女性達から大人気の商会だ。マリーさんは、商才があったのだろう。次から次に売れる商品を出していく。
今や、流行はタイカ商会が作っている。
「ミリー、いつも印象に残らないとは?」
「いや~、カイル王子様と並ばれるとやはりその艶やかさとか色気とか美しさ的なもので、どうしても王子様ばかりに目がいってしまって、アーシャ様を見てるはずなのに、覚えてないという現象が起きるので」
「ひどいわ、ミリー。そんな直属のメイドに言われるなんて、私泣いてしまうわ」
とわざと悲しいふりをした。
「いや、いやその、申し訳ありません」
少し言いすぎたかなと反省するミリーを見ながら、
「嘘よ。そうね、本当に私じゃないみたいに綺麗ね。ありがとうございます、皆さん」
と御礼を言った。今日は、私自身ピカピカだ。髪の毛にも散りばめられた宝石のように光っている。
真っ白なドレスに、ティアラ、ネックレス、宝石だらけだ。
「今日は、こちらは外しますね」
とマリアが私の大事な琥珀のネックレスを取った。
「ありがとう、マリア」
と言えば、マリアが泣き出してしまった。上げている髪の毛に白髪が数本混ざっているマリア、泣き虫になったものだ。
ここにいる使用人達は、教会には入れない。だから、移動するギリギリまでみんなと部屋にいて話をする。
私の幼き頃の思い出話ばかりだ。
聞いていると随分と生意気で大人ぶる子供だ。でもみんなが笑って話している。印象に残らない顔立ちだけど、思い出に残ったのなら嬉しい。
ティアラをつけた後、みんなに御礼を言ってから私は、控室に入った。そして最後ベールをつける。予行で体験はしているがかなり重い。
私は、今日、カイル王子と結婚する。
カイル王子と初めて会ったのは、7歳。そして11年経つ。
恋話がわからなかったし、苦手だった。今だってわからない。
『これが恋?』
大切な人、会いたくなる人、隣に並びたい人、話をしやすい人、助けたい人。
結婚式で最初に会ったら、なんて伝えようかしら?
私と結婚してくれてありがとうかしら?
今日も素敵です?
好きです?
皆さんはなんて言っているのかしら?
カタッと窓に鳩が止まった。
懐かしい。白い鳩に手紙がついている。
フランツ王子だ。
『学友へ
結婚おめでとう お幸せに』
手紙を受け取ると、鳩は、私の返信も待たずに飛び立った。
「今日は、真っ青な青空ですね。どこまでも広くて、綺麗です。王子様の髪と同じ色です。いつもありがとうございます」
白い鳩は、遠く、高く、手の届かない場所へ飛んで行く。私の声なんて聞こえないだろう。
もうすぐ鐘が鳴る。
結婚式5時間前 王宮
「朝早くから執務か、兄様」
と言えば、目の前のフランツ王子は、ペンを止めずに、
「何だ、今日の主役が準備しなくて良いのか?アーシャ嬢は、今頃大変じゃないのか」
と淡々と言った。私は、兄様に直接確認はしたことはなかったが、兄様の思いも知っている。知っていて私は、自分の欲しい、いや一番大事なものを囲った。
『私の学友は、アーシャ一人でいい』
いつか、違う、きっとアーシャの事を知ったら、兄様は絶対に興味を持つことをわかっていた。だから、まだ会わないうちに、アーシャは私の唯一だと強調していた。言い訳かもしれないが、当初はそれを本能でやっていた。戦略とか出し抜こうとかではなくて、純粋に私のだという誇示していた。
「兄様、私は兄様に謝らないといけない」
「何だ、カイルいきなり」
「私には母様がいない分、いろんな人に甘えてきた。自覚しているんだよ。アーシャの事も。王妃様は兄様の相手に相応しいと思っていることも私だって本当は思っている。この国のことを思えば、アーシャが兄様と二人でこの国を繁栄させれるって。兄様は一言も私に言わなかったね。兄様も私が可哀想だから言うのを躊躇ったか?」
と自虐気味な言葉が出た。本当は、兄様もアーシャが好きなんだろう、何も言わないで我慢ばかりしていいのかって言いたかっただけだった。
「カイル、それだけ?」
とペンを置いた、兄様は、
「最初に出会ったのが、いや、会話をしたのが、私だったらとは、考えたことはあるよ。私が知り合いになる前にもう二人には関係が出来上がっていたじゃないか。最初、それは恋愛ではなかったかもしれない。でも二人を最初に見て、仲間に入れてもらえても、二人の間に割り込むことは出来ないと思ったよ。だから、私がアーシャを好きだったとしても、どうしてもアーシャが欲しいとは思わなかった。いいなと羨んだとしてもね。二人が同じくらい大事なんだよ学友としてね」
「兄様」
「カイル、私は二人がいるから今がある」
また兄様はペンを走らせた。
「兄様、忙しい中、邪魔してすまなかった。私も少しナーバスになっていたのかもな。また後で」
と言って執務室を出た。今日は、真っ青な空だ。今さら聞いたところで謝ったところで、誰の思いも変わらない。
わかっていたのに。
でも何故か急にアーシャの手を取って抱きしめたら、みんなからお前には相応しくない、フランツ王子に譲れと言われるんじゃないかと思った。
怖かった。
たとえ王子の立場や国と引き換えにアーシャを引き出せと言われた所で、私は応じない。
きっとこの国を捨ててアーシャを連れて他国に行っただろう。
死にたかった絶望の中、私を生かしてくれたあの光が、全てで唯一だから。こんな重い愛を、アーシャには気づいて欲しくなくて必死に隠していた。
「いつかアーシャに言えるかな」
鐘が鳴った。教会に集まっている人々の声が聞こえる。
こんなに注目されてしまうなんて予想外、だけど面倒くさいなんてもう言わない。心から、ありがとうが届きますように。
「アーシャ様、お時間ですよ」
護衛騎士のシンさんから、声がかかった。
「はい」
思えば、あの日シンさんじゃなかったら、カイル王子は助からなかったかもしれない。他の護衛騎士なら私の案なんて駄目だと言って、先に進ませてくれなかったかもしれない。
「では、扉を開けます」
「シンさん、あの時、私のめちゃくちゃな指示を子供だからって馬鹿にせずに向きあってくれて、ありがとうございました。私は、あの事件のおかげで今日を迎えられます」
と言うと、シンさんは、少し目を細めて笑顔で敬礼して見送ってくれた。
私は、一歩ずつ進みます。
教会内には、コルンさんやクラスメート、サラ、リリアン、、ハイド、ルイーゼ、エリオン、ローズリーさんまで。貴賓席には、国王夫妻にフランツ王子、元国王夫妻にガレットさん。親族は、全員来てくれた。マリーさんとゼノンさんも壁にはユイナさん。
王宮では、いつもユイナさんが控えてくれていた。今日は、ドレスを着てくれている。
お祝いしてくれる為に集まった人達に感謝しかないです。
「やぁ、アーシャ、とても綺麗だよ」
と照れながら言う王子様。なんというか今日はより一層艶やかで色気というか美しさ爆発しておりませんか、カイル王子?本当に頬の傷が気にならないほど、真っ直ぐな笑顔が眩しい。
「カイル様、私、あなたに出会えて、あなたが生きていてくれて本当に良かった!」
考えていた台詞じゃなかった。でもこれが心からの言葉です。
「こら、カイル王子、まだ誓いも何もしていないのに、花嫁を抱きしめないで下さい」
教会長の声と同時に笑い声があがる。
私を抱きしめ抱き上げ、クルクル回られて、
「カイル様、いい加減にしなさい」
と私が言えば、突然、カイル王子は、跪き、
「私が、あなたを守る盾になります。そして剣になります。一生の忠誠をあなたに」
と言った。
その瞬間、令嬢達からの黄色の歓声が教会を揺らがし、国王が、おでこに手を当てて、ガレットさんが、口元を手で押さえて笑い、フランツ王子様は、何を思ったか立ち上がり、人一倍拍手をしていた。
そんな私達の結婚式。
式が終わった後、教会長には散々愚痴を言われ、そしてこの教会の結婚式は、演劇に取り上げられた。
流行りの舞台になった時は、お茶会でもパーティーでも必ず話題に上がって恥ずかしかった。
私は、この犯人は、コルンさんだと思っている。
「ねぇ、カイル様、何故、屋敷の近くに、人工的に作られた川があるのですか」
「あぁ、アーシャは魚釣りが好きだろう。ずっと出来てなかっただろう」
「そうですね、準備が忙しかったですし、王妃様から横や縦の繋がりの婦人会やらチェスやら、内政についてやらで大変でしたから。なら明日は、魚釣りしましょうか?それとも乗馬で果物狩り?」
と聞くと、カイル様は私の手を引き上げ、私を誘う。
「いやいや、私達は、新婚ですよ。アーシャ嬢、兄上もいつご成婚されるかわかりません。子供は沢山の方が良いと思いませんか?」
「あら、さすが未来の王弟ですね。まさか忠誠を誓っておきながら、第二夫人か妾の申し入れかしら?」
「何故、そんな風に言葉尻をとるのさ」
「照れ隠しぐらいさせてくださいまし」
…
…
私達は、幸せです。
たまに喧嘩をします。
そんな時は、花を買ってきたり、魚釣りをしたりします。絵も描きます。怒りの絵です。
だけど、一度も明日が来て欲しくないと思った事はありません。
今日が最高だったから明日もなんて思ってないです。
魚が釣れる日も釣れない日もある事を学びました。
それでも、手を伸ばしたらあなたは、手を取ってくれます。
笑ってくれます。私達は、笑い合い、困った時は、相談し合います。
子供が出来、家族が増え、毎日が忙しいです。
だんだんと欲しい言葉を言ってくれなくなりました。騎士団長ともなると部下も大事でしょう。家族との時間が取れないですか?それは、私達も面白くありません。そんな時は、カイル様抜きで遊びに行きます。美味しい物だって食べます。
そして、少し後悔します。
本当は、カイル様も魚釣りをしたり、遠出をしたり…
なんてする時間も今はないでしょう。
だから、
「カイル様、行ってらっしゃい。そしておかえりなさい」
家族であなたを迎えます。
そしてちょっとした出来事を一枚の紙に紙芝居のように描いてお知らせします。
私にはかけがえのない宝物をくれたあなたに感謝を込めて。
事件や争いもなく、子供達や家族の日々を絵に描くことが出来る日常、そしてその絵を見て笑うあなたがいる毎日、これが、私のハッピーエンドです。
ここは現実ではないのだろうな。
こんな綺麗で何もない世界を知らないもの。
アシスタントをやれて楽しかったし後悔はないかな?でも私の話もいつか世に出たら嬉しかったな。
エキストラか、私の人生はきっと他の誰かの物語ではエキストラだけど、私の物語は、ずっと主役。
涙が出ていた。なんの夢かもわからないけど、胸が締め付けられるような切なくて、手を伸ばしたら届きそうなキラキラ。
「何を言っているのかしら?」
頬が濡れていた。
「アーシャ様起きて下さいまし。今日は、一世一代の大舞台ですよ」
まだ朝焼けの空にミリーの声が響く。マリアが、
「お風呂の準備出来ました、移動願います」
と言い、自分のメイド服の袖口を捲り上げていた。
私は、ゴシゴシと擦られ、花のオイルとともにマッサージとは思えない力強さと時間のかけられ方をし、そしてなによりもメイクに時間をかけられた。
「安心してください。アーシャ様、今日、この日は、誰もアーシャ様が印象に残らないなんてことは、絶対にありえません。最新の技術を学び最高の道具そして化粧品を揃えました。全ては、タイカ商会が全面的に協力を申し出てくれまして。マリーゴールド様は、アーシャ様と同級生だからと全て無料です」
と胸を張って言うミリーに、私は、呆れた。タイカ商会は、ケーキから化粧品まで本当に女性達から大人気の商会だ。マリーさんは、商才があったのだろう。次から次に売れる商品を出していく。
今や、流行はタイカ商会が作っている。
「ミリー、いつも印象に残らないとは?」
「いや~、カイル王子様と並ばれるとやはりその艶やかさとか色気とか美しさ的なもので、どうしても王子様ばかりに目がいってしまって、アーシャ様を見てるはずなのに、覚えてないという現象が起きるので」
「ひどいわ、ミリー。そんな直属のメイドに言われるなんて、私泣いてしまうわ」
とわざと悲しいふりをした。
「いや、いやその、申し訳ありません」
少し言いすぎたかなと反省するミリーを見ながら、
「嘘よ。そうね、本当に私じゃないみたいに綺麗ね。ありがとうございます、皆さん」
と御礼を言った。今日は、私自身ピカピカだ。髪の毛にも散りばめられた宝石のように光っている。
真っ白なドレスに、ティアラ、ネックレス、宝石だらけだ。
「今日は、こちらは外しますね」
とマリアが私の大事な琥珀のネックレスを取った。
「ありがとう、マリア」
と言えば、マリアが泣き出してしまった。上げている髪の毛に白髪が数本混ざっているマリア、泣き虫になったものだ。
ここにいる使用人達は、教会には入れない。だから、移動するギリギリまでみんなと部屋にいて話をする。
私の幼き頃の思い出話ばかりだ。
聞いていると随分と生意気で大人ぶる子供だ。でもみんなが笑って話している。印象に残らない顔立ちだけど、思い出に残ったのなら嬉しい。
ティアラをつけた後、みんなに御礼を言ってから私は、控室に入った。そして最後ベールをつける。予行で体験はしているがかなり重い。
私は、今日、カイル王子と結婚する。
カイル王子と初めて会ったのは、7歳。そして11年経つ。
恋話がわからなかったし、苦手だった。今だってわからない。
『これが恋?』
大切な人、会いたくなる人、隣に並びたい人、話をしやすい人、助けたい人。
結婚式で最初に会ったら、なんて伝えようかしら?
私と結婚してくれてありがとうかしら?
今日も素敵です?
好きです?
皆さんはなんて言っているのかしら?
カタッと窓に鳩が止まった。
懐かしい。白い鳩に手紙がついている。
フランツ王子だ。
『学友へ
結婚おめでとう お幸せに』
手紙を受け取ると、鳩は、私の返信も待たずに飛び立った。
「今日は、真っ青な青空ですね。どこまでも広くて、綺麗です。王子様の髪と同じ色です。いつもありがとうございます」
白い鳩は、遠く、高く、手の届かない場所へ飛んで行く。私の声なんて聞こえないだろう。
もうすぐ鐘が鳴る。
結婚式5時間前 王宮
「朝早くから執務か、兄様」
と言えば、目の前のフランツ王子は、ペンを止めずに、
「何だ、今日の主役が準備しなくて良いのか?アーシャ嬢は、今頃大変じゃないのか」
と淡々と言った。私は、兄様に直接確認はしたことはなかったが、兄様の思いも知っている。知っていて私は、自分の欲しい、いや一番大事なものを囲った。
『私の学友は、アーシャ一人でいい』
いつか、違う、きっとアーシャの事を知ったら、兄様は絶対に興味を持つことをわかっていた。だから、まだ会わないうちに、アーシャは私の唯一だと強調していた。言い訳かもしれないが、当初はそれを本能でやっていた。戦略とか出し抜こうとかではなくて、純粋に私のだという誇示していた。
「兄様、私は兄様に謝らないといけない」
「何だ、カイルいきなり」
「私には母様がいない分、いろんな人に甘えてきた。自覚しているんだよ。アーシャの事も。王妃様は兄様の相手に相応しいと思っていることも私だって本当は思っている。この国のことを思えば、アーシャが兄様と二人でこの国を繁栄させれるって。兄様は一言も私に言わなかったね。兄様も私が可哀想だから言うのを躊躇ったか?」
と自虐気味な言葉が出た。本当は、兄様もアーシャが好きなんだろう、何も言わないで我慢ばかりしていいのかって言いたかっただけだった。
「カイル、それだけ?」
とペンを置いた、兄様は、
「最初に出会ったのが、いや、会話をしたのが、私だったらとは、考えたことはあるよ。私が知り合いになる前にもう二人には関係が出来上がっていたじゃないか。最初、それは恋愛ではなかったかもしれない。でも二人を最初に見て、仲間に入れてもらえても、二人の間に割り込むことは出来ないと思ったよ。だから、私がアーシャを好きだったとしても、どうしてもアーシャが欲しいとは思わなかった。いいなと羨んだとしてもね。二人が同じくらい大事なんだよ学友としてね」
「兄様」
「カイル、私は二人がいるから今がある」
また兄様はペンを走らせた。
「兄様、忙しい中、邪魔してすまなかった。私も少しナーバスになっていたのかもな。また後で」
と言って執務室を出た。今日は、真っ青な空だ。今さら聞いたところで謝ったところで、誰の思いも変わらない。
わかっていたのに。
でも何故か急にアーシャの手を取って抱きしめたら、みんなからお前には相応しくない、フランツ王子に譲れと言われるんじゃないかと思った。
怖かった。
たとえ王子の立場や国と引き換えにアーシャを引き出せと言われた所で、私は応じない。
きっとこの国を捨ててアーシャを連れて他国に行っただろう。
死にたかった絶望の中、私を生かしてくれたあの光が、全てで唯一だから。こんな重い愛を、アーシャには気づいて欲しくなくて必死に隠していた。
「いつかアーシャに言えるかな」
鐘が鳴った。教会に集まっている人々の声が聞こえる。
こんなに注目されてしまうなんて予想外、だけど面倒くさいなんてもう言わない。心から、ありがとうが届きますように。
「アーシャ様、お時間ですよ」
護衛騎士のシンさんから、声がかかった。
「はい」
思えば、あの日シンさんじゃなかったら、カイル王子は助からなかったかもしれない。他の護衛騎士なら私の案なんて駄目だと言って、先に進ませてくれなかったかもしれない。
「では、扉を開けます」
「シンさん、あの時、私のめちゃくちゃな指示を子供だからって馬鹿にせずに向きあってくれて、ありがとうございました。私は、あの事件のおかげで今日を迎えられます」
と言うと、シンさんは、少し目を細めて笑顔で敬礼して見送ってくれた。
私は、一歩ずつ進みます。
教会内には、コルンさんやクラスメート、サラ、リリアン、、ハイド、ルイーゼ、エリオン、ローズリーさんまで。貴賓席には、国王夫妻にフランツ王子、元国王夫妻にガレットさん。親族は、全員来てくれた。マリーさんとゼノンさんも壁にはユイナさん。
王宮では、いつもユイナさんが控えてくれていた。今日は、ドレスを着てくれている。
お祝いしてくれる為に集まった人達に感謝しかないです。
「やぁ、アーシャ、とても綺麗だよ」
と照れながら言う王子様。なんというか今日はより一層艶やかで色気というか美しさ爆発しておりませんか、カイル王子?本当に頬の傷が気にならないほど、真っ直ぐな笑顔が眩しい。
「カイル様、私、あなたに出会えて、あなたが生きていてくれて本当に良かった!」
考えていた台詞じゃなかった。でもこれが心からの言葉です。
「こら、カイル王子、まだ誓いも何もしていないのに、花嫁を抱きしめないで下さい」
教会長の声と同時に笑い声があがる。
私を抱きしめ抱き上げ、クルクル回られて、
「カイル様、いい加減にしなさい」
と私が言えば、突然、カイル王子は、跪き、
「私が、あなたを守る盾になります。そして剣になります。一生の忠誠をあなたに」
と言った。
その瞬間、令嬢達からの黄色の歓声が教会を揺らがし、国王が、おでこに手を当てて、ガレットさんが、口元を手で押さえて笑い、フランツ王子様は、何を思ったか立ち上がり、人一倍拍手をしていた。
そんな私達の結婚式。
式が終わった後、教会長には散々愚痴を言われ、そしてこの教会の結婚式は、演劇に取り上げられた。
流行りの舞台になった時は、お茶会でもパーティーでも必ず話題に上がって恥ずかしかった。
私は、この犯人は、コルンさんだと思っている。
「ねぇ、カイル様、何故、屋敷の近くに、人工的に作られた川があるのですか」
「あぁ、アーシャは魚釣りが好きだろう。ずっと出来てなかっただろう」
「そうですね、準備が忙しかったですし、王妃様から横や縦の繋がりの婦人会やらチェスやら、内政についてやらで大変でしたから。なら明日は、魚釣りしましょうか?それとも乗馬で果物狩り?」
と聞くと、カイル様は私の手を引き上げ、私を誘う。
「いやいや、私達は、新婚ですよ。アーシャ嬢、兄上もいつご成婚されるかわかりません。子供は沢山の方が良いと思いませんか?」
「あら、さすが未来の王弟ですね。まさか忠誠を誓っておきながら、第二夫人か妾の申し入れかしら?」
「何故、そんな風に言葉尻をとるのさ」
「照れ隠しぐらいさせてくださいまし」
…
…
私達は、幸せです。
たまに喧嘩をします。
そんな時は、花を買ってきたり、魚釣りをしたりします。絵も描きます。怒りの絵です。
だけど、一度も明日が来て欲しくないと思った事はありません。
今日が最高だったから明日もなんて思ってないです。
魚が釣れる日も釣れない日もある事を学びました。
それでも、手を伸ばしたらあなたは、手を取ってくれます。
笑ってくれます。私達は、笑い合い、困った時は、相談し合います。
子供が出来、家族が増え、毎日が忙しいです。
だんだんと欲しい言葉を言ってくれなくなりました。騎士団長ともなると部下も大事でしょう。家族との時間が取れないですか?それは、私達も面白くありません。そんな時は、カイル様抜きで遊びに行きます。美味しい物だって食べます。
そして、少し後悔します。
本当は、カイル様も魚釣りをしたり、遠出をしたり…
なんてする時間も今はないでしょう。
だから、
「カイル様、行ってらっしゃい。そしておかえりなさい」
家族であなたを迎えます。
そしてちょっとした出来事を一枚の紙に紙芝居のように描いてお知らせします。
私にはかけがえのない宝物をくれたあなたに感謝を込めて。
事件や争いもなく、子供達や家族の日々を絵に描くことが出来る日常、そしてその絵を見て笑うあなたがいる毎日、これが、私のハッピーエンドです。
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※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
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2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
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ごめんなさい、気になって仕方ないので。
「アーシャの感」ではなく「勘」ですよね。
1箇所ではなく何回も出てきてるので…。
承認しなくていいので,誤字の訂正お願いします。
お話はとても楽しく読んでいます(^^)
ルイーゼの終盤のセリフを読んで彼女が他国で幸せを掴んで欲しいと思いました。
同世代の親戚で、チートな従姉妹と比較され親・兄弟の関心もと考えると不憫な気持ちです。
え、これは最終的にどちらとくっつくんだろう…最悪、お兄ちゃんの略奪もあるのではと思いましたが、理性が勝ちましたね!王妃様が結構粘ってましたが、国のためとはいえ、しこりを残しそうな真似をするなよとは思ってましたが、治まるとこに治まって良かったです。ラスト辺りのルイーゼならアリかも、とも思いましたが、アーシャが王弟妃に治まりましたからね。理性が勝ったお兄ちゃんならいつか素敵な伴侶が出来るよ、と願うばかりです。あと、数年かけて用意したシナリオが木っ端微塵になってぐぎぎとなる側妃は私も見たかったです(笑)