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序章 激愛と惑乱
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「私の愛しい猛毒の王よ。」
「我らを愛してください。我らから離れないで目を離さないでください。」
「我らをみてください。我らを求めてください。」
「なぜ見てくださらぬのですか?」
『猛毒の王』は惑う。惑乱する。『王』と謳われて、猛毒の美花達に醜悪なまでに求められる。
お前たちこそ、私を食いつくす獣たちではないのかと呟きながらも、彼らは理性も本能も超えた愛を構築する。
「美しき花よ。お前の愛は分からぬが、私を裏切るな。」
「王よ。仰せのままに。」
にこりあどけなく嫣然と矛盾した微笑を浮かべた美しき花は、永遠の忠誠を王に誓った。
それは古い古い約束であった。
「私の愛しい猛毒の王よ」
青白き頬を紅潮して、目じりに艶を帯びて、熱を帯びて美しい顔をうっとりと蕩けそうに見上げる貴人アデル・ユージンは、彼その者が、王らしく艶やかに猛毒の色香を放っていた。
美しい。それに尽きた。高貴な者達が品種改良を重ねた最高傑作ユージュネイアの一柱、アデル・ユージンは、生まれながらの勝者として、この身分差が激しい世界、皇国で君臨していた。
その一柱があられもなく欲情と愛を露わにする求婚にイツキ・クランは戸惑っていた。
機嫌を損なえば、首が胴体から切り離されるかもしれる危うさにイツキは内心ぞっとしたが、半ば、壮絶な美貌と色香と品格に見惚れていた。
イツキが当惑するのももっともだ。イツキとアデルが出会ったのはたった一回でしかない。
それも、高級売春宿での一夜の遊びでしかない。
「お戯れはお止めください。私は一介の穢れた者です。とるに足らぬ男娼に過ぎない。
幸運にも格上の者達から寵愛を賜ったにすぎません。貴方様は既に定められた番、兄君ユデル・ユージンがいらっしゃいますよ。」
やんわりとイツキは宥めた。この身に余る求愛はイツキの身も危うい。
淡々とイツキは求愛を拒絶した。
「そなたは冷たいのだな。だが、あの一夜で私は悟ったのだ。そなたこそ『猛毒の王』と謳われる者よ。運命の番以上の存在であることに気づいたのだ。」
「『猛毒の王』……?なんでしょうかそれは?」
「王よ。私はもはや離れたくない。そなたに支配され、愉悦を味わいたいのだ。そなたから滴るような蜜より甘く苦い味からは逃がられぬ。」
アデルは凄艶に微笑んでイツキの頬を掴み、荒々しく接吻した。
ぬるりと、思わぬほど長い舌に舌を絡みとられ、イツキはくらりと眩暈がしそうだった。
その時、かすかに理性を奪うような芳香が辺り一面に漂った。
「……この匂いは?」
「気づいたか。この匂いはオメガがアルファを誘惑するための発情性を催す催淫物よ。そなたの身体は、そなた自身より正直だ。いや、オメガよりも強烈な匂いだ。その匂いは王の証。」
「……まさかそんな……王?」
イツキには初めて聞く話ばかりで分からなかった。
これがイツキ・クランの愛憎渦巻く物語の始まりだった。
イツキは知らぬ間に『猛毒の王』として猛毒のような愛に翻弄される運命に遭遇していた。
イツキは、アデルとの時は辛うじて理性が持ち、身の保身のためにも求愛を拒絶した。
だが、愛欲に酔いしれたアデルは、幾度もイツキの住まう高級宿に逢瀬した。
幾度の夜ごとの求愛と拒絶の果てに、イツキは段々と絆されていき、求愛を受け入れた。
「私の愛しい猛毒の王よ」
そういわれるたびにイツキの深い深い奥底から海のように細胞が泡だって歓喜の声を上げる。
イツキの何かが変容する。細胞そのものが貪欲に活性化し、海のように月のように満たされるのを待っている。いや飢えてさえいる。
イツキは、本能のままに貴人の愛を貪った。
この世界は身分差が激しい世界である。
時の帝を頂点に、貴族たちは支配種として君臨し、そのほかは普通人、従属種として仕えることで成立していた。
皇国ユージュネイアは、女神ユージュネイアが建立したと言われる国だった。
ユージュネイアは、万物を理解し全てを司る女神とも崇拝される。
敵対した弟、スレン。
万物を破壊する者とも呼ばれた主は、一時はユージュネイアの治める世界を滅ぼした。
しかし、生きのびたユージュネイアは聖剣とともに、スレンを切り伏せその肢体を八つ裂きにし、封印した。
スレンもまた神だったため、完全に消滅することは叶わなかった。
復興した皇国は、更なる無限の繁栄をした。
【支配種】
貴族の中でもアルファというカリスマや、人々を支配する能力に溢れていた超常種族。
【従属種】
アルファの番いとも言われるオメガ。
オメガは両性具有であり、アルファの力を増す子どもを宿す種族でもある。
【普通人】
ベータとも呼ばれ、主にアルファに支配される平民であるが、オメガほど強力な支配はされていない。
【運命の番】
アルファとオメガの中でも特に相性と運が良い番であり、彼らは強い吸引力があり、一生を共に生きる。
【禁忌の種】【規定外の種】
オメガの中の王とも謳われ、アルファを破滅へと導く『猛毒の王』とも謳われる特殊な種族。
神スレンの血と肉を宿した者とも伝われている幻の種族。
オメガ以上に迫害にもあい、今はもう絶滅されたと見られている。
真実は、遠い過去に刻まれ、今はこの極僅かな情報で残されている。
「我らを愛してください。我らから離れないで目を離さないでください。」
「我らをみてください。我らを求めてください。」
「なぜ見てくださらぬのですか?」
『猛毒の王』は惑う。惑乱する。『王』と謳われて、猛毒の美花達に醜悪なまでに求められる。
お前たちこそ、私を食いつくす獣たちではないのかと呟きながらも、彼らは理性も本能も超えた愛を構築する。
「美しき花よ。お前の愛は分からぬが、私を裏切るな。」
「王よ。仰せのままに。」
にこりあどけなく嫣然と矛盾した微笑を浮かべた美しき花は、永遠の忠誠を王に誓った。
それは古い古い約束であった。
「私の愛しい猛毒の王よ」
青白き頬を紅潮して、目じりに艶を帯びて、熱を帯びて美しい顔をうっとりと蕩けそうに見上げる貴人アデル・ユージンは、彼その者が、王らしく艶やかに猛毒の色香を放っていた。
美しい。それに尽きた。高貴な者達が品種改良を重ねた最高傑作ユージュネイアの一柱、アデル・ユージンは、生まれながらの勝者として、この身分差が激しい世界、皇国で君臨していた。
その一柱があられもなく欲情と愛を露わにする求婚にイツキ・クランは戸惑っていた。
機嫌を損なえば、首が胴体から切り離されるかもしれる危うさにイツキは内心ぞっとしたが、半ば、壮絶な美貌と色香と品格に見惚れていた。
イツキが当惑するのももっともだ。イツキとアデルが出会ったのはたった一回でしかない。
それも、高級売春宿での一夜の遊びでしかない。
「お戯れはお止めください。私は一介の穢れた者です。とるに足らぬ男娼に過ぎない。
幸運にも格上の者達から寵愛を賜ったにすぎません。貴方様は既に定められた番、兄君ユデル・ユージンがいらっしゃいますよ。」
やんわりとイツキは宥めた。この身に余る求愛はイツキの身も危うい。
淡々とイツキは求愛を拒絶した。
「そなたは冷たいのだな。だが、あの一夜で私は悟ったのだ。そなたこそ『猛毒の王』と謳われる者よ。運命の番以上の存在であることに気づいたのだ。」
「『猛毒の王』……?なんでしょうかそれは?」
「王よ。私はもはや離れたくない。そなたに支配され、愉悦を味わいたいのだ。そなたから滴るような蜜より甘く苦い味からは逃がられぬ。」
アデルは凄艶に微笑んでイツキの頬を掴み、荒々しく接吻した。
ぬるりと、思わぬほど長い舌に舌を絡みとられ、イツキはくらりと眩暈がしそうだった。
その時、かすかに理性を奪うような芳香が辺り一面に漂った。
「……この匂いは?」
「気づいたか。この匂いはオメガがアルファを誘惑するための発情性を催す催淫物よ。そなたの身体は、そなた自身より正直だ。いや、オメガよりも強烈な匂いだ。その匂いは王の証。」
「……まさかそんな……王?」
イツキには初めて聞く話ばかりで分からなかった。
これがイツキ・クランの愛憎渦巻く物語の始まりだった。
イツキは知らぬ間に『猛毒の王』として猛毒のような愛に翻弄される運命に遭遇していた。
イツキは、アデルとの時は辛うじて理性が持ち、身の保身のためにも求愛を拒絶した。
だが、愛欲に酔いしれたアデルは、幾度もイツキの住まう高級宿に逢瀬した。
幾度の夜ごとの求愛と拒絶の果てに、イツキは段々と絆されていき、求愛を受け入れた。
「私の愛しい猛毒の王よ」
そういわれるたびにイツキの深い深い奥底から海のように細胞が泡だって歓喜の声を上げる。
イツキの何かが変容する。細胞そのものが貪欲に活性化し、海のように月のように満たされるのを待っている。いや飢えてさえいる。
イツキは、本能のままに貴人の愛を貪った。
この世界は身分差が激しい世界である。
時の帝を頂点に、貴族たちは支配種として君臨し、そのほかは普通人、従属種として仕えることで成立していた。
皇国ユージュネイアは、女神ユージュネイアが建立したと言われる国だった。
ユージュネイアは、万物を理解し全てを司る女神とも崇拝される。
敵対した弟、スレン。
万物を破壊する者とも呼ばれた主は、一時はユージュネイアの治める世界を滅ぼした。
しかし、生きのびたユージュネイアは聖剣とともに、スレンを切り伏せその肢体を八つ裂きにし、封印した。
スレンもまた神だったため、完全に消滅することは叶わなかった。
復興した皇国は、更なる無限の繁栄をした。
【支配種】
貴族の中でもアルファというカリスマや、人々を支配する能力に溢れていた超常種族。
【従属種】
アルファの番いとも言われるオメガ。
オメガは両性具有であり、アルファの力を増す子どもを宿す種族でもある。
【普通人】
ベータとも呼ばれ、主にアルファに支配される平民であるが、オメガほど強力な支配はされていない。
【運命の番】
アルファとオメガの中でも特に相性と運が良い番であり、彼らは強い吸引力があり、一生を共に生きる。
【禁忌の種】【規定外の種】
オメガの中の王とも謳われ、アルファを破滅へと導く『猛毒の王』とも謳われる特殊な種族。
神スレンの血と肉を宿した者とも伝われている幻の種族。
オメガ以上に迫害にもあい、今はもう絶滅されたと見られている。
真実は、遠い過去に刻まれ、今はこの極僅かな情報で残されている。
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