猛毒の花と愛

栗菓子

文字の大きさ
1 / 22

序章 激愛と惑乱

しおりを挟む
「私の愛しい猛毒の王よ。」
「我らを愛してください。我らから離れないで目を離さないでください。」
「我らをみてください。我らを求めてください。」
「なぜ見てくださらぬのですか?」

『猛毒の王』は惑う。惑乱する。『王』と謳われて、猛毒の美花達に醜悪なまでに求められる。

お前たちこそ、私を食いつくす獣たちではないのかと呟きながらも、彼らは理性も本能も超えた愛を構築する。

「美しき花よ。お前の愛は分からぬが、私を裏切るな。」

「王よ。仰せのままに。」

にこりあどけなく嫣然と矛盾した微笑を浮かべた美しき花は、永遠の忠誠を王に誓った。

それは古い古い約束であった。



「私の愛しい猛毒の王よ」

青白き頬を紅潮して、目じりに艶を帯びて、熱を帯びて美しい顔をうっとりと蕩けそうに見上げる貴人アデル・ユージンは、彼その者が、王らしく艶やかに猛毒の色香を放っていた。

美しい。それに尽きた。高貴な者達が品種改良を重ねた最高傑作ユージュネイアの一柱、アデル・ユージンは、生まれながらの勝者として、この身分差が激しい世界、皇国で君臨していた。

その一柱があられもなく欲情と愛を露わにする求婚にイツキ・クランは戸惑っていた。

機嫌を損なえば、首が胴体から切り離されるかもしれる危うさにイツキは内心ぞっとしたが、半ば、壮絶な美貌と色香と品格に見惚れていた。

イツキが当惑するのももっともだ。イツキとアデルが出会ったのはたった一回でしかない。

それも、高級売春宿での一夜の遊びでしかない。

「お戯れはお止めください。私は一介の穢れた者です。とるに足らぬ男娼に過ぎない。 
幸運にも格上の者達から寵愛を賜ったにすぎません。貴方様は既に定められた番、兄君ユデル・ユージンがいらっしゃいますよ。」

やんわりとイツキは宥めた。この身に余る求愛はイツキの身も危うい。
淡々とイツキは求愛を拒絶した。

「そなたは冷たいのだな。だが、あの一夜で私は悟ったのだ。そなたこそ『猛毒の王』と謳われる者よ。運命の番以上の存在であることに気づいたのだ。」
「『猛毒の王』……?なんでしょうかそれは?」

「王よ。私はもはや離れたくない。そなたに支配され、愉悦を味わいたいのだ。そなたから滴るような蜜より甘く苦い味からは逃がられぬ。」
アデルは凄艶に微笑んでイツキの頬を掴み、荒々しく接吻した。
ぬるりと、思わぬほど長い舌に舌を絡みとられ、イツキはくらりと眩暈がしそうだった。
その時、かすかに理性を奪うような芳香が辺り一面に漂った。
「……この匂いは?」
「気づいたか。この匂いはオメガがアルファを誘惑するための発情性を催す催淫物よ。そなたの身体は、そなた自身より正直だ。いや、オメガよりも強烈な匂いだ。その匂いは王の証。」
「……まさかそんな……王?」
イツキには初めて聞く話ばかりで分からなかった。

これがイツキ・クランの愛憎渦巻く物語の始まりだった。
イツキは知らぬ間に『猛毒の王』として猛毒のような愛に翻弄される運命に遭遇していた。

イツキは、アデルとの時は辛うじて理性が持ち、身の保身のためにも求愛を拒絶した。
だが、愛欲に酔いしれたアデルは、幾度もイツキの住まう高級宿に逢瀬した。
幾度の夜ごとの求愛と拒絶の果てに、イツキは段々と絆されていき、求愛を受け入れた。

「私の愛しい猛毒の王よ」

そういわれるたびにイツキの深い深い奥底から海のように細胞が泡だって歓喜の声を上げる。
イツキの何かが変容する。細胞そのものが貪欲に活性化し、海のように月のように満たされるのを待っている。いや飢えてさえいる。
イツキは、本能のままに貴人の愛を貪った。

この世界は身分差が激しい世界である。 

時の帝を頂点に、貴族たちは支配種として君臨し、そのほかは普通人、従属種として仕えることで成立していた。

皇国ユージュネイアは、女神ユージュネイアが建立したと言われる国だった。

ユージュネイアは、万物を理解し全てを司る女神とも崇拝される。

敵対した弟、スレン。
万物を破壊する者とも呼ばれた主は、一時はユージュネイアの治める世界を滅ぼした。

しかし、生きのびたユージュネイアは聖剣とともに、スレンを切り伏せその肢体を八つ裂きにし、封印した。

スレンもまた神だったため、完全に消滅することは叶わなかった。

復興した皇国は、更なる無限の繁栄をした。


【支配種】
 貴族の中でもアルファというカリスマや、人々を支配する能力に溢れていた超常種族。

【従属種】
 アルファの番いとも言われるオメガ。 
 オメガは両性具有であり、アルファの力を増す子どもを宿す種族でもある。

【普通人】 
 ベータとも呼ばれ、主にアルファに支配される平民であるが、オメガほど強力な支配はされていない。

【運命の番】
アルファとオメガの中でも特に相性と運が良い番であり、彼らは強い吸引力があり、一生を共に生きる。

【禁忌の種】【規定外の種】
オメガの中の王とも謳われ、アルファを破滅へと導く『猛毒の王』とも謳われる特殊な種族。
神スレンの血と肉を宿した者とも伝われている幻の種族。
オメガ以上に迫害にもあい、今はもう絶滅されたと見られている。


真実は、遠い過去に刻まれ、今はこの極僅かな情報で残されている。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy
BL
前世の記憶を持つ転生者な僕、オリヴィエは、使用人も母親も逃げ出す没落までカウントダウンの子爵家をなんとか維持しようと毎日頭を悩ませていた。 そんな時山で拾ったのは現世で落雷に合って異世界へ転移してしまった日本の青年安藤改めアンディ。 頼りがいのある彼アンディの力を借りて子爵家を立て直そうと思ったんだけど… 彼が言うにはこの世界、彼のやってたゲームの世界なんだって! そんな時王様によって発布されたのが、第一第二第三王子の婚約者を選ぶ大選定会を開催するという知らせ。 手っ取り早く〝玉の輿”を狙う彼のプロデュースで僕はどんどん磨かれていって… え?これ空前のモテ期? しばらくはじれったいのが続く予定です。

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

牙を以て牙を制す

makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――

処理中です...