迷い人になったネコ

傭兵の自由

ゴルデアは、国に虐待され、搾取されるだけの運の悪い民や弱者を見てきた。
はじめはこれが普通と思って何とも思っていなかったが、時折我慢ならずに逃走したり、虐待した主人を殺す犯罪人を見る度に、嗚呼・・弱い者にも意志や心があるんだなと分かった。

傭兵は或る意味、契約と金銭関係で雇い主と結ばれた自由な立場だ。危うい身分だが、その分自由も莫大なお金も手に入る。

ゴルデアは、傭兵団を創る時、教団のシズナとダリアの温情で、多額の資金をくれた。
いつかゴルデアは大成して、何倍にも恩返しをしようと思っていた。


自由にも責任と義務がある。　どんな弱者でもいわれもなく殺されたりしたら、深い恨みや怨嗟を抱くということをゴルデアは既に知っていた。いつかは復讐者も現れるだろう。

現に、今遥か遠くの西の国サイカでも暴君が討伐され、多くの戦が起きた様だ。
その火種は、周辺近諸国にも広がり、不満と抑圧された奴らの感情が爆発したのだ。

それはゴルデア自身が、邪悪な嫌いな大人たちを殺した経験で分かっていた。理屈ではないのだ。唯どうしようもない嫌悪と怒りと憎悪に憑かれることがあるのだ。

ダリアはきっと今も復讐の道を歩みつづけるのだろうな。
女は特に嫌な記憶を忘れられないらしい。どうも子どもを産むために嫌な人とか記憶が長い間保存されるらしい。哀れな事だ。女は何かに囚われて生きる。

ゴルデアは男で、純粋だから嫌な記憶はすぐに忘れ、割り切ることができる脳を持っていた。生きるための知恵にゴルデアは長けていた。

彼は生きるために必要な人才を集めるのに長けていた。　そして適材適所に分けるのも上手くできていた。

ゴルデアは決して、万能でも、とびぬけた才能を持ったわけでもない。
唯、正解を見つけるのに長けているのだ。

それは上に立つのにふさわしい才能だった。

ゴルデアは、仲間の生存率を上げるにはやはり金貨や資金は必要と分かった。
心臓を守る防具や、人体の急所を防備する防具を創るにはかなりの金を費やした。
剣や、弓や　ナイフなど様々な武器も金が必要だ。


その点、ゴルデアは運が良かった。
シズナやダリアの援助と、教団の縁で、有力な貴族や豪族と契約を結び、穢い仕事も、暗殺の仕事も当初は請け負った。

傭兵は決して楽な仕事ではない。何も知らぬ民からは戦争屋とか忌み嫌われたり、疫病神のように扱われたりすることもある。

しかしゴルデアは傭兵は必要な仕事と分かっていた。搾取されるだけの人生よりは、自由と危険を選ぶ蛮勇の者もいるのだ。生きるためにだ。

汚物や、唾を吐きかけられたこともある。ゴルデアにとってはどうでもいい事だった。愚劣な奴に何をされても彼はもう動じなかった。

その不快なことをしたならず者は、ゴルデアのあずかり知らぬところで処分された。
主に、あの3人が関わっていることを、臆病者の団員は情報通のため知っていた。
しかし彼は黙っていた。　沈黙は金ということもある。口は災いの元にもなる。　亡くなった祖父に生きるための知恵を教わっていた。
彼はチキンハートとあだ名で言われていた。　小心者と言う意味だ。まさにその通りだ。

いつのまにかゴルデアは信頼される傭兵団の長として、多くの団員に慕われていた。彼はいつも最善の道を考え、最悪の道を辿った場合、どうやって回避や、退避をするか正しい判断力を窮地において優れた才能を発揮する指導者になっていた。

それは大きな影響をミネルバにも与えた。
上に立つ者としての器量と辣腕を無意識にも意図的にも模倣するほどゴルデアは一際輝いていた。