迷い人になったネコ

栗菓子

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俗悪な女の生への渇望

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「嫌だ。嫌だ。嫌だ。殺さないで、あたし以上に美しく恵まれているやつが殺されればいい。」
女は醜悪な思考と心を持って、他者を何のためらいもなく犠牲にし、踏み台とし、高みへ昇っていた。
女は自己愛の塊で、他人は、石ころと都合に良い道具にしか見えなかった。
深く傷つけられた他者が憤怒の目で女を見ていることも気づかずに、彼女は栄華に酔いしれた。

女は全てが手に入ると疑わなかった。

それを冷厳と見下ろしている美しい女を激しく醜悪な女は憎んだ。

「あなたは、わかっているのか。あなたはなんのためにそうしているのか?」

醜い女は哄笑した。

「…ハハハハハハアアア…! 知ったことかい。あたしはあたしのために生きてきたよ。それを阻むものはあたしはどうしても許せなかったんだよ。何故あたしはあたしのままでいられないんだい。あたし以外の女たちは、社会或いは風習によってたわめられる。あたしはそれが我慢ならなかった。あたしの意思はあたしのものだ。だれであろうと干渉するのは許さない。」

傲慢で幼稚な醜い欲望の叫び。だがフウランシャは嫌悪しなかった。これも人間の生への渇望と欲望の吐露だ。

強烈な凄まじいまでの自我にフウランシャは胸を打たれた。

ワタルとは正反対の女。しかし生に対する貪欲な思いは通じる。
「…あなたは、自分より美しく恵まれている者を許せなかった。あなたの心には嫉妬や憎悪や人を貶めようとする悪意に満ちている。何故あなたはそういう精神と自我をもってしまったのか?」
「…あなたは、容姿は美しいが、心の醜さが顔に歪みとして現れている。」

「ふふっ。さいねえ。ただ、あたしはだれよりも己に正直でいただけさ。どいつもこいつも羊のように従順に従う家畜のようだ。あたしは家畜の道は歩まない。略奪者としての道を歩んだだけだ。
所詮、だれもが綺麗ごとを言っては奪い合っている。あたしはだれよりもその道に忠実でいただけさ。」

「…ふふっあたしは美しい女の顔を焼いたり、綺麗な肌を醜い痣に染めた。澄ました顔がぐちゃぐちゃに鼻水を垂らして泣き喚くのは心地よかったよ。最後には美しい頭を潰してやったけどね。
ああああなんと気持ちが良かったことか!」

「でもあいつら美しい女に惑わされた奴らはあたしのことをこの世で最も醜い女と罵った。許せない。あいつらがどれほど自分を美しいと思っているのか?あたしは全てが許せなかった。あたしはあいつらを殺そうと戦った。」
こどものように自慢げに彼女は胸をはった。
「あいつらは豚のように泣き喚いた。でも目に激しい衝撃を受けた。それ以降の記憶がない。」
きょとんと醜い女はおかしげに頭を撫でた。

「…人を傷つける者は必ず仕返しされる。君は多くの傷ついた人から殺されたんだよ。
 その人は 醜い女を倒した英雄と謳われるだろう。」

「なんだ。それは?」

「…君の重大な欠陥は他人にも心を持つものであり、生きることに懸命である者であることを知らぬことだった。君の世界は君だけで、あとは利用しやすい人形で埋め尽くされている。
なんという無機質でエゴに満ちた世界であることか。もっと恐ろしいのは、君のような精神構造を持つ者がいっぱい居るということだ。」
「…人間は度し難い滅びを精神にはらんでいるな。」

「冗談じゃない。冗談じゃない。あたしは悪くない。あいつらのせいだ。それでいいんだ。」

「あたしをここから出せ。ここはどこだ。どうしてあたしはここにいる。」

「また気付いていないのか。君はもう死んでいるんだよ。君は同じことを繰り返して生きていると思っているに過ぎない。」

「嘘だ嘘だ嘘だ。だってあたしは誰よりも素晴らしい女なんだ。あたしを苦しめる奴はいらない。」

彼女は、自我が肥大して、自己愛に固まっていた。そのためどうしても彼女にはとるにたらない存在に殺されたことが耐えがたいようだ。あたしを出せと俗悪な女は醜い生への渇望を叫んだ。
あまりにも醜悪でフウランシャは目を伏せた。

「君ほど醜悪な穢れた魂はいない。私でさえも食らいきれない。浄化できない。」

大神フウランシャはふっと溜息をついて、醜く歪み切った魂を神力で消滅させた。

「君は二度と、人間にはなれないだろう。それが君に相応しい末路だ。」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…嫌だああああ!」
彼女は醜い顔で醜い声で絶叫した。

『なぜこれほどまでに穢れた魂が多いのか?人間はそこまで劣悪になってしまったのか?光り輝く魂もあるのに…。』

大神フウランシャは魂について思考し始めた。



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