いかでか

栗菓子

文字の大きさ
6 / 34
掃き溜めに鶴

第6話 カリンの秘密

しおりを挟む
かくしてカリンは娼館街でも有名な高級娼婦となった。
かつての高級娼婦アイラは引退して、小さいが豪奢な館を買って悠々自適な毎日を送っている。
使用人を雇い、ちょっとした貴族並みの生活をしているそうだ。顧客が高位貴族もいて、アイラは幸運にも時折愛人のような交際をすることで、余生を幸福に過ごしている。
高位貴族はかなりの年配であったが、アイラの顔と気立ての良さと技量をいたく寵愛し、今も続いている。
アイラのような人生は娼婦にしてはかなり珍しい事であった。

カリンは、アイラは恩師と思っている。感謝を込めて、アイラに流行の首飾りや香水など希少なものを1年に1回贈っている。勿論アイラの嗜好に合わせた品物だ。アイラはカリンの贈り物が来るたびに子どものように目を輝かせて今回は何かしらと待ちわびているそうだ。
カリンはそれを聞いて安堵した。

カリンがここまで上り詰めたのは、アイラのお陰でもある。しかしカリンにはふとある疑惑があった。
あの麗しき女と絶世の美猫の幻を見なかったら、ここまでこなかっただろう。
あの集落で死んでいたかもしれない。あれは何だったのか?
そしてカリンはいつの間にか、真実と嘘を見分ける力を身につけていた。
そして顔のない人と顔のある人が見えるようになった。どうしてとカリンは当惑したが、色々考えてある結論に達した。
カリンを道具や玩具としてしかみない人は顔がないのだ。僅かでも情や、心をカリンに向けた人は顔がはっきりと見えるのだ。
カリンの処女を奪った男は、カリンを高級娼婦という玩具としてしか見ていなかった。そこにカリンという人間はいない。だから顔がなかったのだ。
アイラや、先輩の娼婦、娼館の主人は僅かでも情をカリンに抱いていた。だから顔が見えるのだ。シンも情けない子どもだなとカリンを見ていたから顔が見えるのだ。
カリンはこの結論を確かなものとするために、あえて顔のない男や女達とまぐわったり、寝台で戯れにお話を聞かせてと言ってみた。
結果は、無惨だった。
彼らの心は冷たく、「娼婦が何を言っているんだ。金を払ったからちゃんと働け」と殴られたこともあった。
彼らはカリンを性戯の遊具としかみなかった。壊してもいい存在としか見ていなかった。
この結論は確信に変わった。どうしていやそんなはずはない。なぜこんな能力をもったのかと必死に打ち消そうとしても、顔のない人のカリンに対する扱いは無機質で無惨で残酷だった。
カリンは己の能力を黙っていることにした。
二つの能力は生き延びるには重要な能力であることにカリンは気づいた。
その能力をうまく使えば、生き延びることができる。
カリンは、嘘ばかりついて、顔がない人を上手く避けた。特に、黒い靄が纏いついている人は怖かった。
後に、カリンはその人が、娼婦ばかりを狙って玩具のようにバラバラにして殺しては埋めている殺人鬼だと分かった。最後にはエスカレートして、貴族の娘も狙ったから、貴族の衛兵に捕縛された。しかもその人は貴族だったと判明した。
娼館街の人たちは、恐怖とやるせない思いを抱いてやっと犯人が捕まって安堵した。
娼館の主人はカリンを見て言った。
「良かったな。カリン。お前も指名されてたんだよ。あの男に。でも、お前、あの男と出会ったら具合が悪くなったし、なんか変だなと思って、俺もあの男の指名を止めたんだよ。やっぱりおかしな人だったんだな。お前は妙に敏感なところがあったから。」
カリンはびっくりした。娼館の主人も侮れない。カリンの心中を悟っていたのかもしれない。
カリンには少し罪悪感があった。もし、カリンがこの能力を言っていたら、他の犠牲者は救えたかもしれない。
でもいかれた娼婦と思われるのは怖い。
怖くてカリンはもう少し強くなったら、この秘密をアイラに打ち明けようと思った。
いつかはこの秘密を信頼できる人に話そう。カリンは決心した。
ごめんなさい。怖くて。カリンは犠牲になった人達に心の中で謝った。
暖かいところへ行ってください。誰も傷つけられないところへ行ってください。天国。本当にあるかどうかはわからないが、とても怖い目にあって殺された人達が可哀相だった。神様は残酷なことをなさる。
カリンのような無力な女にこのような能力を与えるなんてと嘆いたが、もう少し強くならなきゃとも思った。
あの麗しき女と絶世の美猫の幻は神様の幻影だったのかもしれない。
カリンはあの幻に触れた。
だからこの能力をもってしまったのだ。カリンは真実に気付いた。秘密は重い。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...