浮生夢の如し

栗菓子

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第1話 出来損ないの子ども

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とある田舎で、ありふれた夫婦に子どもが天より授かった。
夫婦ははじめは喜んだ。 ただ、長じるにつれて子どもはいくつになっても話さなかった。
親の声に反応しなかった。両親はだんだんこどもが何か欠けていることに気づいた。
まるで閉ざされた世界に生きている子どもだった。

はじめは愛しく思ったが、なにも反応しない子どもになんだか無性に苛立ち、くやしさ、無念があった。
食べ物や、これはなにかと話しかけても子どもは石のように反応しなかった。

だんだん両親は子どもをできそこないと見なすようになった。

こどものころ、何度も両親、特に母親は愛が伝わらないことに絶望し、何度も自分の子どもの首を絞めた。

でもできなかった。なぜか途端場でためらってしまう。

こどもは、無感動に両親を見つめた。

母親はぞっとした。私の子どもなのに、なぜ思いが伝わらないのか。まるで人形ではないか。

母親は泣きながら父親に縋り付いた。

あの子をなんとかしたい。普通にしたいと嘆いた。

父親も苦渋の顔をした。 どうも心が育っていないようだ。 耳や頭のどこかがかけているのかもしれないと

父親は推察をした。

試しに父親はドンドンと棍棒で大きい音を立てた。

子どもはびっくりしたように周りを見た。

何が起きたのかわからないようだった。

両親はその顔を見て自分たちの手には負えないと医者に頼むことにした。

幸いにも両親にはお金はあった。

実は父親は、下人だが後ろ暗い商売を請け負って、危険と代償に多くのお金を持っていた。

母親も、孤児で、親切な村人に拾われて養子にならなければ行き倒れになるところだった。

孤児だから、母親は懸命に村人に尽くした。そうしなければ生き抜けないから。

共に、父親も母親ももたざる者でかろうじて生き延びている境遇だった。

そんな両親がお互いを見初めて、慰めあうようになったのも自然であった。

彼らははじめて幸福になりたいと思った。

やがて彼らはこどもを授かった。 天は私たちを見放していなかったと喜んだ。

しかし子どもがおかしいと知るや、その絶望と落胆は計り知れなかった。

人形みたいな子ども。愛も情も伝わらない。

こんな不毛なことがあるだろうか。

幾度も殺意にかられた。 しかしまるで神が駄目だというように殺せなかった。

もう医者しか縋れなかった。

藁をもすがる思いで、彼らは名医を探した。

やっと隣の村で名医と呼ばれる者がいたときは涙を流した。

彼らは土下座をしてお金ならいっぱいあるから子どもを普通にしてほしいと。

名医は困惑しながらも、正義感を持っていたため、その子供を診ることにした。

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