浮生夢の如し

栗菓子

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第2話 子ども視点

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子どもは、耳と頭のどこかの神経が死んでいた。
現世に生まれてきたのが不思議だった。

かすかに、母親という女が愛という思いを子どもに伝えようとしていたのが感じた。
父親の思いとためらい、疑惑 僅かな情が伝わってきた。

子どもはそれに答えようとした。でも駄目だった。まるでなにかに縛られたように話せなかった。
反応できなかった。

子どもはごめんよと思った。
私はどこか死んでいる。 生まれてきてはいけないこどもだったのかもしれない。

母親の無念さと父親のやるせなさ、怒り、当惑が伝わった。

何回も両親はできそこないと罵って殺そうとした。

愛しかったから、出来損ないと分かった途端余計憎いのだろう。

こどもは両親よりはるかに年老いた魂を持っていた。

両親の思いが手に取るように分かった。哀れだった。

私が普通だったら、貴方たちを幸福にできただろうに。

人形のように反応のないが、こどもには何もかも伝わっていた。

神様あんまりです。 私も両親を慕っているのにそれが伝わらないなんで。

貴方は最も残酷な仕打ちを家族になさる。 何故です。

神様神様とこどもは魂で呼び続けた。

疲れ果てた両親は、ある日医者を呼んだ。 無駄なことを。半分死んでいるわたしをどうやって普通にするのだ。
そんなこと人間にはできない。私は黄泉へ還らなければ。

医者は正義感をもった男だった。 こどもをみて可哀相にと哀れんだ。

私を診察して、医者は驚いた。頭と耳の神経が死んでいることがわかったからだ。

なのに生きている。 医者にとっても初めての患者だった。

まさかそんなと何回も医者は私を調べた。

信じられないことが目の前にあるのだ。

医者はためらいがちに目に決意を秘めて、両親に子どもは半分死んでいる。 神経が死んでいる
生きているのが不思議な状態だ。

とても珍しい症状だ。と両親に言った。

両親は呆然と医者を見つめた。

母親は医者に言った。「じゃああの子は半分死んでいるんですか?」

医者は頷いて「そうです。あの子は半死人です。」

「生きているのか死んでいるのかわからない状態です。」

母親は震え声で「じゃあじゃあどうすればいいんですか。この子に心はあるのですか?」

医者は首を振ってわかりませんと呟いた。

医者は長い間両親と話しあって「この子は私が稀な患者とし引き取りますか?」と提案した。

両親は動揺したが、疲れ切っていたので「先生。お願いします。もし普通になれるのなら。話せるようになれるのなら。先生に任せます。」

母親は先生に土下座した。そこまで追い詰められていたのね。可哀そうに。
父親もしかしとためらいながらも先生に任せた。

かくして私は先生の稀な患者。いいえ珍しい実験体となったわけだ。

私を抱えて去っていく先生をいつまでも眺めている両親の姿が忘れられなかった。

ごめんね。さよなら。私が苦しめた親。 私が慕った親。いつか伝わってほしい。

私は神様に祈った。
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