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第29話 アグライアと弟妹たち

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アグライアは、父ドールに似て、残虐性をもっている支配者の資質を秘めていた。

アグライアは生まれながらに、父親と同じ気質を持ち、支配欲と征服欲が強く、その器量も十分にあった。

普段は他者など、アグライアを楽しませる玩具に過ぎないが、例外がある。

上位者ドールと、アグライアを産んだ実母 パスカだ。彼女は凡庸だが、とても美しい宝石のような瞳をしていた。

アグライアは実母だけには普通の子どものように甘えていた。
天使の笑顔を見せるアグライアは本当に美しく、パスカも母性本能で愛おしく可愛がった。勿論、他の子らにも等しく可愛がったが、やはり、長女アグライアはどこか特別であった。

やはりアグライアは父によく似たらしい。好みの嗜好も似ている。

パスカはアグライアが唯一愛した女であった。

その他の女は玩具や敵に等しいものであった。

妹もいたが、どこか貴族らしく冷淡な面があり、同族嫌悪もあってか、お互いによそよそしい関係であった。
アグライアとその弟妹たちは、ドール一族の誉れとよばれるほど能力や魅力に満ち溢れていた。

だが実質的には、ほんのわずかな情をもっているが基本的には必要な時に利用しあう関係でもあった。

父によく似た気狂いの伯父もアグライアにとっては珍しい気になるモノに過ぎなかった。


父にはアンジェルという実の妹が居たそうだ。父なりに情をかけていたようだが、アンジェルは修道院に入って結婚していた夫を不慮の事故で喪い、失意の元で、赤ん坊を産み、慎ましく神に仕えることにした様だ。

その赤子は男性で修道士になっているらしい。
アグライアには到底理解できない事であった。どうしてこの地位、名誉、財産 全て手中に入る椅子を退き、姿もしれぬ見えぬ神を信仰する気になったのか?


余程の事があったなとアグライアは聡明な頭脳で漠然と、父親ドールが関連していると分かったが、あえて黙った。
過去の事はあまりアグライアにとって興味ない事であった。

アグライアは光り輝く女神の名前の如く、傲慢で孤高でもあった。
アグライアは支配者になるべく育てられ、一族の女長のように成長していった。

だが、父ドールと母パスカには手出しできなかった。

彼らは歪だが確かに深く愛し合っている夫婦であった。

アグライアは自分もあんなに深く愛し合える相手が見つかるだろうかと思ったが想像がつかなかった。

どこかで羨望もあったが、アグライアの女神としての冷徹な面がそれを赦さなかった。

彼女は僅かな孤独を抱いて孤高に咲く大輪の花の支配者であった。

後に、アグライアは実母パスカの仲間であったアールの子であるアルマという少女を侍女とした。

アルマはアグライアにとって、亡き母パスカに代わって唯一心許せる相手でもあった。

アルマはパスカ同様に、寵愛される侍女であった。

アールによく似たとても頭の良い彼女は、アグライアの心を満たすために、侍女以上に奉仕をした。

そこには性的な奉仕も含まれていた。

アグライアはドールと同じように快楽の女神に奉仕されたのだ。
その時、最高の快楽と安らぎをアグライアは得た。 

男性的なアグライアにとってこの満たしてくれる存在を手放すわけもなかった。


アルマは死ぬまで生涯寵愛され続けた。
それは卑しい奴隷に等しいスラム育ちの父親アールを持った女にとっては最高の成り上がりであった。

勿論、嫉妬や下らぬマウンテイングをする貴族の女たちや男もいた。
敵には容赦ないアルマは類まれな頭脳で巧妙に敵を罠にかけ、自滅させていった。

それを面白げに余興をみるように楽しむアグライア様の輝く笑顔を見て、アルマは昏く微笑んだ。



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