糟糠の妻

栗菓子

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第4章 戦乱の民

第5話 流浪

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ある村娘は、今どこかもしれない道をさ迷っていた。

あの後、聡明な村長たちに、異変の報告をした後は、軽いパニック状態に陥った村人達だったが、緊急事態だ。
多少の暴力で従順な草食獣の群れのように大人しくなった。

憎まれ役をあえて負って、多少の荒事に慣れている猟師のウイルだ。彼を憎々し気に睨みつける男らには殴られた痣が目立ったが、村娘は冷静に、その程度で済んでよかった・・と思った。

だってこれから本当に悲惨な末路が待っているかもしれない・・。頭が足りない者は騒々しくなるが、狂乱状態になると危険だ。 処分される可能性があった。

何故彼らは命拾いしたとは思わないのだろうか?あまりにも浅はかで甘い幼稚な子どもみたいな精神をもった男たちがウイルの思惑を見抜けなくて失望もあった。

村娘だってわかるぐらいだ。これからどうなるのかという不安も増した。

数日間、村長たちはずっと会議をして、その間、村人にはできる限り、食料と水を集め、荷物をまとめ、いつでも村を出る準備をしておくことに決めた。

ある手先が器用な村人たちは、木を切って、その木片で荷車を作り、荷物を載せて運ぶことができるように何台も造った。 村娘たちはできる限り布や、服を作った。何かあるか分からないから非常用の服や、温かい物など、動物の柔らかな毛を入れた布で寒さをしのげるように工夫したりした。

それぞれが思いつく限りの出来ることをした。

だが地鳴りがまだあって今度はいつもより強かった。遠くの森で一気に鳥の群れが飛び去ったのには驚愕した。

止んだ後、村娘は、急いで仲間と確認しに行った。木や地熱はどうなっているのか?

森の奥を覗いたら、枯れている木が多かった。植物も地熱で焦げていた。

危険だ。本能で村娘は悟って、仲間に戻ろうと叫んだ。その光景を見た仲間も同様に頷いて村へと戻った。

息も荒く、森の変貌を伝えると、村長は蒼白になって、「すぐに村をでるぞ。」と冷たい声で告げた。


これがずっとここにいると思い込んでいた故郷の村の永遠の別れとなった。

村長の判断は正しかった。地下の異変で、熱は増している。村にも飛び火するかもしれない・・。

村人たちが、慌ただしく、荷台に荷物をありったけ積み込み、脱出した後、数日も経たずに、地割れから、灼熱の液体が流れ出て、異臭とともに、村に流れ込んだらしい。

あっという間に、村は焼き滅ぼされた。森もほとんど全滅したらしい。


村長はひとまず懇意にしている遠くの村に伝言の鳥にこの惨状の様子を見慣れぬ文字で綴っていた布を巻き付け、
「行け、お前だけが頼りだ・・。兄弟にこの事を知らせてくれ。」

鳥はクルルと鳴いて遥か遠くへ飛び去った。無事に着くといいのだが・・。

とりあえず、懇意にしていた村へ避難をお願いしたようだ。受け入れてくれるといいのだが・・。

村娘は不安と焦燥と共に、仲間と励ましあって、日が昇っているうちは、歩き続けた。

しかし、深夜は動けなかった。猟師たちのウイルたち、屈強な男と、力が強い女達が交代で見張りをしたのだ。

慣れない道の旅だ。盗賊や、獣が襲うかもしれない。毒性がある植物や獣もいる。

蚊や虫やぬるぬるした変な物体も動いていた。

あまりにも危険な旅だった。彼らは十分に思い知っていた。


既に毒にかかった村人は数人亡くなっていた。あっという間の死だった。

親しい友人は信じらないという顔でずっと遺体を見ていた。


こんなにも日常は壊れるのだ。 村娘はその光景をずっと覚えていた。なのに、沈む夕日は変わらず美しく夜空を赤く染め上げて闇へ還るのだ。

村娘は、文盲だったため、晩年 過去の凄惨な事を思い出しては、狂ったように絵を描き続けた。

その絵は、災害の貴重な資料として、或る貴族や、研究者に買われるようになった。

その金で、村娘や、仲間はささやかな恩恵を得て、新しい住処でゆっくりと余生を過ごした。

その時まで、村娘は彷徨い続けていた。

世界の民も混乱状態であった。 村娘のように流浪しなければならなかった民は多かった。



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