ゴミの金継ぎ師

栗菓子

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第36話 或る幸運な子どもの話 サイド

子どもは、物心ついたごろから、野良猫や野良犬のように、仲間と共に残版を漁ったり、時には大人に邪魔だと殺されながらも、なんとかして生き延びていた。

臭い匂いをした下層階級でも、浮浪児は見放されたものだ。そういう奴らは大抵仲間と共に集って、盗みや、売春など、悪い大人の手伝いなどしては生き延びている。

実の両親は居ない。唯、子どもは仲間と必死でその日その日を生き延びているだけだ。

その間、偶々母親みたいな女と弟みたいな子どもと巡り会って自然に助け合って生きてきた。

でもその母親も弟も病気で長くないだろう。 好きな人はみんな早く死ぬ。

子どもはなんだか悲しくて走り回った。

子どもが走っても、優しい大人は居ない者のように扱う。無関心な世界に子どもは慣れていた。

ある日、突然、邪魔と思われて多くの子どもたちが殴られて殺された事がある。そのせいで子どもはより大人に対して怯え、警戒していた。

そんな日常は、ある大人に捕らわれて子どもの運命はその時から徐々に変わっていく。良き方向へ。

大人の名前はアクタと言った。
アクタはとてもおかしな仕事を依頼した。 嘘の噂を流せ。広めろというのだ。

だって嘘は本当はいけないことなんじゃないのか? わからなくなるし、良いんだろうか?

子どもは迷った。こんな人生でも少しは学んでいることがある。悪い大人は嘘をついて子どもや弱い者を騙して食いものにする。
だから嘘はあまり好きじゃなかった。 

嘘は本当はいけないことなんじゃないか?と何故そんなことをと思わず大人に尋ねてしまった。

アクタという男は目を見開いて、へえと感嘆したように、子どもを見直したように見た。

しっかりしているねと言われた。なんだか褒められていると解った。

嗚呼・・この大人はアクタという男は悪い男ではなさそうだ。でも依頼がおかしい。

このちぐはぐさに子どもは混乱した。

アクタはついてもいい嘘はあるんだよと子供に諭した。

その男は証拠はないけど女の人にとても酷い事をした悪人だ。でも、だれもまだ気づいていない。気づいている人もいるけど、証拠も何もないし、とても偉い家の人だから迂闊に暴くことができない。


その男が女の人に酷い事をしたのを見たとか。何かを運んでいたとか怪しい噂を流してくれとアクタは頼んだ。

男を追い詰めたいのだとアクタは言った。 本当は嘘はいけない事だけどね。それであいつの悪事があばかれるかもしれないんだ。新しい犠牲者も出ないかもしれない。

お金はたんとはずむよ。とアクタは子どもに真剣な顔をして言った。

お金。お金さえあれば母親と弟に家族に医者を診せられる。治してくれるかもしれない。

子どもはびくりと目を見上げた。アクタの言っていることは本当かもしれない。

ついてもいい嘘ってあるんだろうか?

子どもはお金の魔力とアクタの話に魅入られて、その変な仕事を請け負った。

子どもは仲間で一番頭が良い子どものところへ走った。そしてその仕事の話について相談した。

どうすればいい?

頭が良い子どもはしばし思案していた。もしその話が嘘でも、嘘の噂を流しても無実だったら、流された張本人がやっきになって弁解したり打ち消すだろう。

その位大人にはできるだろう。

その話が真実だったら、悪人も暴かれるし、犠牲者もでないんじゃないか?

試しについてもいい嘘もあるんじゃないか?

お金ももらえるんだろ? お前の家族の病気も治せるかもしれない。

頭が良い子どもはやってみる価値は或ると言い切った。


子どもは仲間と一緒に嘘の噂を広めた。不安はあったがお金と、本当についてもいい嘘はあるのかどうか知りたかった。

お金はたんまりともらった。こんなにたくさんと子供は怖気ついたが、アクタという男は色々と面倒見がいい男だった。

仲間にはちゃんとわけろ。母親と弟の病気代はちゃんと別にとっとけ。 争いにならないよう気を付けろ。

色々とアクタは、子どものために忠告をしていた。それは本当に人生にためになる話ばかりだった。


嗚呼・・この人は優しくていい大人だ。子どもは確信した。

でなきゃ色々子どものために忠告とかしたりしない。確かにアクタの話は色々とうなずけるものばかりだった。

その通りに子どもは公平にお金を仲間たちに分けた。

そして家族を医者に見せた。体も洗い流せるように清流の流れる小さな家に移り住むことができた。


しばらくして、嘘の噂によって、男の本性が暴かれた。やはりその男は自分の妻を殺していた。
男は殺された。きっとアクタが復讐でやったんだ。 子どもは敏感に悟ったが黙っていた。
弱い者はあまり大切なことを言わない方が良い。これもアクタの忠告だ。

可哀相に。その女の人は騙されて殺され川の下に沈められたらしい。両親が探し回っていたそうだ。

女は悪い男を夫にもっちゃいけないんだ。子どもはじみじみと実感した。


アクタの話は本当だった。ついてもいい嘘ってあるんだ。そのおかげで、悪い奴の犯罪は暴かれたし、新しい犠牲者もでなくなった。

そういうこともあるのだと子どもは色々と人生の不可思議さに理解し始めた。

きっとアクタは許せない悪人を追い詰めたかったんだ。

孤立させ、最後には殺す。それぐらい憎かったんだ。


アクタも悪い奴らに苦しめられていたんだろうか・・。

それ以来、子どもは真剣に人生について考え始めた。 何でもいいから学ぼう。子どもは片っ端から働かせて下さい
と学べそうなところを選んではお願いをした。

けんもほろろに邪険にされたり、お前みたいな汚い餓鬼が来るところじゃねえと暴言を吐かれたり、唾を吐かれたりもした。 それでも子どもは諦めなかった。 もう嫌だったからだ。
何もしらないで惨めに死ぬのは嫌だった。母親と弟は幸いにも助かって、まだお金は残っているが、このままじゃいつかは悪い奴らに食い物にされるとは限らない。

そんな切迫感があって、なんとかまっとうな世界に行って、働きたかった。

諦めかかった頃、やっと働かせてやるといってくれたところがあった。

そこは、まじめで厳格なおじいさんがやっている宿だった。

子どもはそこで下働きや、金の計算や、掃除の仕方や、部屋の模様替えや修理などなんでもやらされた。
しかし子どもは何も学ばないよりましだとずっとはいと言って先輩の手順や、やり方を学んでいった。


子どもは随分と頭の回転が良くなっていた。 夜分に宿の余り飯をくれるからだ。
その宿の飯は大層旨くて料理人も一流といわれるほどの腕だった。
栄養価の高い野菜と肉の味噌汁とおにぎりなどで子どもの身体は随分と良くなっていった。

今まで栄養失調で、頭も鈍かったのだ。

子どもは決して悪事は働かなかった。これが初めてで最後の真っ当な世界で生きていける機会なのだ。

勿論、意地の悪い先輩の嫌がらせはあった。虐めもあった。しかしここを出たら、まともには生きられない。
そんな予感が子どもにはあった。子どもは耐えた。根性がついたと思う。忍耐力を子どもは身に付けた。


数年後、子どもは成長して先輩よりも上達して、何でもできるようになっていた。

それをずっと見ていたおじいさんは子どもを見て「よくやったな。」と労った。

てっきり、もう駄目だと逃げ出すと思っていた。でもお前は厳しい世界に耐えたな。なんでもやれるようになった。

これならどこにいっても働けるよ。お前は。


おじいさんはそういって珍しく微笑んだ。


その言葉に子どもは恐怖に震えた。追い出されるのか?

子どもは土下座をした。「お願いします。ずっとここで働かせてください。真っ当な世界で生きたいんです。
悪い奴らに食い物にされたくないんです。」

どうぞここにずっと置かせてください。学ばせてくださいと懇願した。

子どもの切なる懇願に、おじいさんは哀れみの目をみせた。よほど酷い世界に生きてきたらしい。
悪い奴らに食い物にされると子どもは怯えていた。


おじいさんもそれなりに人生の荒波を渡ってきたが、子どもが怯えるほどひどい世界はあまり見たことが無かった。

おじいさんは決心した。この子供に何でも学ばせよう。どこに行っても生きられるように。料理も金の計算もなんでもより上達させよう。その度に賃金は上げようと決めた。


それ以来、おじいさんはこどもに徹底的に修行をさせた。

お陰で子どもはどんどん優秀になって世界の事もわかるようになった。料理の腕も上がり、一流ともいわれるようになった。金銭の管理も学んだ。食べ物の流通経路もわかるようになった。

母親と弟もだんだん良くなって、おじいさんの配慮で、内職や、仕事を斡旋してくれた。

少しずつ、彼らの人生は良くなっていった。


昔の仲間を探したがもういなくなっていた。いつしか消えたのだ。どうして?子どもは不思議がっていたが、頭のいい子どもが頭となって、偶に子どもが厳しい仕事に耐えながらもやっている姿を見て、あいつは真っ当な世界で生きていけると思い、俺たちのような昔の仲間は離れた方が良いと考え、別れたのだ。


とても頭が良く情に厚い頭だった。

子どもは、昔の仲間にも恵まれていたのだ。

子どもはいつの間にか青年になり、おじいさんの宿を継ぐほどの後継者になっていた。

母親も弟も働いて真っ当に生きていた。 前よりずっと良い生活をしていた。
誰にも怯えずに済む安心な家族と世界に彼らは安堵していた。


それでも子どもは時折過去を振り返る。あの時の汚い餓鬼がここまでくるとは世の中わからないことばかりだ。

嗚呼・・あの大人に出会えたから俺の運命は変わったんだ。良い方向へ・・。

アクタ・・子どもは一生自分の運命を変えた人の名前を忘れることは無かった。





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