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第9話 或る女 サイド
最近、上の方たちがおかしい。なにかがきな臭くなっている。 下女である或る女でも、弱い代わりに並外れた嗅覚を神様に与えられたらしい。
上の方で、良からぬ陰謀や計画が着実に進行している気配がする。 その余波は、勿論下っ端である或る女にまで影響を受けるだろう。下手したら巻き込まれて死ぬかもしれない。
下っ端のほうが、いつも死と紙一重で生きている。或る女はその嗅覚で、すぐに転職したり、鼠のように逃亡して辛うじて事件や、なにかに巻き込まれるのを阻止した。
そうやって、辛うじて或る女は生き延びてきたのだ。
しかし今回は逃れ得ない大きな大きな何かが波のように、多くの民を押し流す気配がする。
何処に逃げればいいか分からない。もう逃げるのにも疲れた。誰に密告したら、女にとって有利になるかもわからない。
全てが闇の中だ。
或る女は覚悟を決めた。もう逃げない。ここで淡々と何が起きようと働こう。
殺されても仕方がない。もう女は老女だ。逃げるのもしんどい。生きるのもしんどい。なのに事件や、異変に対する嗅覚は年とることに高まっている。
嗚呼・・はじめは幼い頃、可愛い弟を連れて、食べ物を買いに商店までいったごろ、胸騒ぎがした。 なんだかすれ違った男たちが嫌な目で、あたしたちを、特に弟を見たような気がしたのだ。 厭な匂いもした。どくんどくんと女は鼓動が速まって、過呼吸を起こしそうになった。
なんだろう。これは。すぐに女は小さな弟の手を掴んで、逃げるように行きつけの商店のおばさんに助けを求めようと一目散に走った。
すると、あとを追いかける汚い浮浪者のような男が、見えた。内心悲鳴を上げながら、それでも弟の手は離さなかった。必死で、「おばさんおばさん助けてえ!」と大きな悲鳴を上げながら走った。
あと少しで、汚い男の手が、弟を捕えようとした。もう駄目だ。女は最悪の事態を予想して目を閉じた。
その時、奇跡が起きた。「●●ちゃん。△△坊! 大丈夫かい!どうしたんだい!?」
金切り声で、何があったと叫んで旦那さんらしき人と駆け寄ってくるおばさんたちが見えた。
女の大きい悲鳴がおばさんのところまでかすかに届いたから、何事かと旦那さんを連れて悲鳴があがったところまで
駆け寄ったのだ。唯事じゃないと思ったからだ。
すると、おかしな男たちが、子どもたちを追いかけて捕えようとしているではないか。まるで鬼のようだった。
おばさんは人さらい、誘拐と瞬間に悟った。
「その子たちに何をするんだい!」 おばさんは怒鳴って駆け寄った。男たちに怒号を上げた。
男たちはしぶしぶ諦めたように引き下がって、あと少しで弟に手が届くところで引き返し、逃げていった。
嗚呼、その時は、女にとっておばさんが救い主そのものだった。
女は弟と一緒に、おばさんに縋って泣き叫んだ。おばさんはよしよしもう大丈夫だよと幼子をあやすように、女と弟を慰めた。
両親には事の事態をおばさんから直接言ってもらった。
「なんてこったい・・。」両親はこの界隈で子どもを攫う事件があったと聞いていたが、まさかうちの子が攫われそうになるとは夢にも思わなかったのだ。
人間は、自分だけは大丈夫だと不思議な心理が働く。そこが大きな落とし穴らしい。
しばらく両親も、親戚も神経をすり減らして、家や、近所を怪しい男たちが通らなかったか警備をした。
数か月後、やっと男たちが捕まったと聞いたときは、みんな心底ほっとしたものだ。
あれが一番幸福な時だった。
それからは大変だった。 流行り病で一番頼りになる祖母や、父は亡くなった。
母は、頼りなく己の手だけでは子どもたちを育てきれず、親戚に養子に出した。 姉も弟もその時、永遠に離れ離れになった。もう会えないなと女は泣きながらさよならと言った。
弟も泣いていた。母親もごめんねと泣いていた。あれが家族の最後だったんだ。
その後、女は親戚の元で働いていた。旅館みたいなところで下女みたいなことをずっとやっていた。
時折、親戚が、女衒紛いのことをやっていることに気づいても、女は黙っていた。
ある時、親戚が、なにかおおきな投資をして、旅館を大きくして商売を増やそうと考えていることを知った。
大丈夫だろうか?見たところ、トントン拍子に出世していくようにみえたが、時折、きな臭い匂いと、嫌な感じが纏いつく。
嗚呼・・危険だ。
女はなんとかして仮病を詐病して、お暇を親戚からもらおうとした。実際、蒼白だったのだ。食べ物もろくに食べられない。どんどん厭な匂いで一気に痩せたのだ。
女をほとんど唯でこき使っていた強欲な親戚も、流石に病人をこき使うことはできなかったらしい。
女の思惑通り、雀の涙ほどの退職金で、女は田舎へ療養しろと半ば追い出された。
この大事な時に病気になった女が疎ましかったのだろう。
女には相手の思惑が透けて見えた。浅ましく浅はかで強欲だ。こんな人たちが出世しても長く持つまい。
なにか不祥事とか起こすだろう・・。
女はそう予測して、田舎へ帰った。しばらく療養のため安い温泉へいこう。自炊できるところだ。
実際、女はずっと働いて、身体が痛かった。 限界も近かったのだ。
小さな湯治場で女はゆっくりと体を休めた。
1年もすると、女は他のところで働いていたが、案の定、賄賂や女衒の真似事や、かなり後ろ暗いことをやって、闇の危ないやつらと繋がってお金を不法に儲けていたらしい。
一時は繁栄したが、その旅館は不祥事がばれて潰れたらしい。 温泉も本物ではない。なにかあまり洗っていなかったらしい。汚い。節約のために、食中毒や、お風呂で倒れる人が出て、この旅館は、とんでもない経営をしていると
他の厳しい経営者から目を付けられた。
しばらくして、多額の借金と共に親戚は、闇のやつらに連れ去られた。
旅館は潰れて、大手の旅館経営者が、買い受けたらしい。
それを風の便りで聞いて、嗚呼・・やはり・・あたしの嗅覚と勘や身体はそういったモノに敏感なんだねえ。とじみじみと他人事のように思った。
その他にも、何か危険が迫るたびに、女は嗅覚が鋭くなって、その度に逃げた。
辛うじて、女は事件に巻き込まれるのを避けていたのだ。
しかしもう限界だ。覚悟を決めてここを最後の職場にしよう。淡々と或る女は仕事を続けた。
上の方で、良からぬ陰謀や計画が着実に進行している気配がする。 その余波は、勿論下っ端である或る女にまで影響を受けるだろう。下手したら巻き込まれて死ぬかもしれない。
下っ端のほうが、いつも死と紙一重で生きている。或る女はその嗅覚で、すぐに転職したり、鼠のように逃亡して辛うじて事件や、なにかに巻き込まれるのを阻止した。
そうやって、辛うじて或る女は生き延びてきたのだ。
しかし今回は逃れ得ない大きな大きな何かが波のように、多くの民を押し流す気配がする。
何処に逃げればいいか分からない。もう逃げるのにも疲れた。誰に密告したら、女にとって有利になるかもわからない。
全てが闇の中だ。
或る女は覚悟を決めた。もう逃げない。ここで淡々と何が起きようと働こう。
殺されても仕方がない。もう女は老女だ。逃げるのもしんどい。生きるのもしんどい。なのに事件や、異変に対する嗅覚は年とることに高まっている。
嗚呼・・はじめは幼い頃、可愛い弟を連れて、食べ物を買いに商店までいったごろ、胸騒ぎがした。 なんだかすれ違った男たちが嫌な目で、あたしたちを、特に弟を見たような気がしたのだ。 厭な匂いもした。どくんどくんと女は鼓動が速まって、過呼吸を起こしそうになった。
なんだろう。これは。すぐに女は小さな弟の手を掴んで、逃げるように行きつけの商店のおばさんに助けを求めようと一目散に走った。
すると、あとを追いかける汚い浮浪者のような男が、見えた。内心悲鳴を上げながら、それでも弟の手は離さなかった。必死で、「おばさんおばさん助けてえ!」と大きな悲鳴を上げながら走った。
あと少しで、汚い男の手が、弟を捕えようとした。もう駄目だ。女は最悪の事態を予想して目を閉じた。
その時、奇跡が起きた。「●●ちゃん。△△坊! 大丈夫かい!どうしたんだい!?」
金切り声で、何があったと叫んで旦那さんらしき人と駆け寄ってくるおばさんたちが見えた。
女の大きい悲鳴がおばさんのところまでかすかに届いたから、何事かと旦那さんを連れて悲鳴があがったところまで
駆け寄ったのだ。唯事じゃないと思ったからだ。
すると、おかしな男たちが、子どもたちを追いかけて捕えようとしているではないか。まるで鬼のようだった。
おばさんは人さらい、誘拐と瞬間に悟った。
「その子たちに何をするんだい!」 おばさんは怒鳴って駆け寄った。男たちに怒号を上げた。
男たちはしぶしぶ諦めたように引き下がって、あと少しで弟に手が届くところで引き返し、逃げていった。
嗚呼、その時は、女にとっておばさんが救い主そのものだった。
女は弟と一緒に、おばさんに縋って泣き叫んだ。おばさんはよしよしもう大丈夫だよと幼子をあやすように、女と弟を慰めた。
両親には事の事態をおばさんから直接言ってもらった。
「なんてこったい・・。」両親はこの界隈で子どもを攫う事件があったと聞いていたが、まさかうちの子が攫われそうになるとは夢にも思わなかったのだ。
人間は、自分だけは大丈夫だと不思議な心理が働く。そこが大きな落とし穴らしい。
しばらく両親も、親戚も神経をすり減らして、家や、近所を怪しい男たちが通らなかったか警備をした。
数か月後、やっと男たちが捕まったと聞いたときは、みんな心底ほっとしたものだ。
あれが一番幸福な時だった。
それからは大変だった。 流行り病で一番頼りになる祖母や、父は亡くなった。
母は、頼りなく己の手だけでは子どもたちを育てきれず、親戚に養子に出した。 姉も弟もその時、永遠に離れ離れになった。もう会えないなと女は泣きながらさよならと言った。
弟も泣いていた。母親もごめんねと泣いていた。あれが家族の最後だったんだ。
その後、女は親戚の元で働いていた。旅館みたいなところで下女みたいなことをずっとやっていた。
時折、親戚が、女衒紛いのことをやっていることに気づいても、女は黙っていた。
ある時、親戚が、なにかおおきな投資をして、旅館を大きくして商売を増やそうと考えていることを知った。
大丈夫だろうか?見たところ、トントン拍子に出世していくようにみえたが、時折、きな臭い匂いと、嫌な感じが纏いつく。
嗚呼・・危険だ。
女はなんとかして仮病を詐病して、お暇を親戚からもらおうとした。実際、蒼白だったのだ。食べ物もろくに食べられない。どんどん厭な匂いで一気に痩せたのだ。
女をほとんど唯でこき使っていた強欲な親戚も、流石に病人をこき使うことはできなかったらしい。
女の思惑通り、雀の涙ほどの退職金で、女は田舎へ療養しろと半ば追い出された。
この大事な時に病気になった女が疎ましかったのだろう。
女には相手の思惑が透けて見えた。浅ましく浅はかで強欲だ。こんな人たちが出世しても長く持つまい。
なにか不祥事とか起こすだろう・・。
女はそう予測して、田舎へ帰った。しばらく療養のため安い温泉へいこう。自炊できるところだ。
実際、女はずっと働いて、身体が痛かった。 限界も近かったのだ。
小さな湯治場で女はゆっくりと体を休めた。
1年もすると、女は他のところで働いていたが、案の定、賄賂や女衒の真似事や、かなり後ろ暗いことをやって、闇の危ないやつらと繋がってお金を不法に儲けていたらしい。
一時は繁栄したが、その旅館は不祥事がばれて潰れたらしい。 温泉も本物ではない。なにかあまり洗っていなかったらしい。汚い。節約のために、食中毒や、お風呂で倒れる人が出て、この旅館は、とんでもない経営をしていると
他の厳しい経営者から目を付けられた。
しばらくして、多額の借金と共に親戚は、闇のやつらに連れ去られた。
旅館は潰れて、大手の旅館経営者が、買い受けたらしい。
それを風の便りで聞いて、嗚呼・・やはり・・あたしの嗅覚と勘や身体はそういったモノに敏感なんだねえ。とじみじみと他人事のように思った。
その他にも、何か危険が迫るたびに、女は嗅覚が鋭くなって、その度に逃げた。
辛うじて、女は事件に巻き込まれるのを避けていたのだ。
しかしもう限界だ。覚悟を決めてここを最後の職場にしよう。淡々と或る女は仕事を続けた。
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