大輪の花火の輪

栗菓子

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第22話 温室

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わたしは、窒息しそうになると、森林が生えた温室もあり、花畑もあり、絶滅危惧植物を育てている試験場もあるS公園へ行く。

とても広大で一日では回れないほどの面積を誇る公園。
とても偉い明治時代の人がその基礎を築いたらしい。頭が本当にすごい人たちが居たんだ。

だんだん時代が過ぎるにつれて偉大な人が居なくなり、頭も劣化した人が残ったような気もする。

温室は開けるとむああと独特の匂いと熱気を感じる。嫌な匂いではない。ここだけがジャングルのような異国の空気に似ているのだ。

バナナの木や、お釈迦様に縁がある沙羅双樹など、ヒスイのような長い花が垂れ下がっている花も見た。

食中花植物。ウツボカズラというものも本物で見た。リアルだがどこか作り物にも感じられる、ほんとうに
ひょうたんのように長いツボのような形になっていて、匂いがする。この匂いにつられた虫は、すべって、ツボの奥に落ちて消化、吸収されるのだ。このひっそりした花が・・?

わたしはその瞬間を見たことが無いので不思議だった。
蓮の花が咲いたアマゾンのような池やジャングルに似せた温室。

素人のわたしにはわからないことばかりだが、絶滅危惧種の種を必死で育てようとしている研究者もいるらしい。
わたしにはどれも同じに見える植物だ。

中には、ある特定の蛾に受粉を手伝ってもらって運んでくれる植物も居る様だ。蛾が絶滅したらその植物も絶滅するらしい。これって一蓮托生なのかな?

これを広大に考えれば、何かが何かに影響を与えるという現状。世界の不思議な摂理。

バタフライエフェクト?よく映画で蝶の羽ばたきで未来まで影響を受けるって見たことがあるような?

じゃあ、今の世界も、なにか蝶が羽ばたいて、壊れるようになっていたのかな?

わたしにはわからない。壊れるようになっていたのかもしれない。


温室の近くに地湧金連という巨大なサボテンと蓮の花を組み合わせたような不思議な植物があった。

バナナのような黄色の筍みたいなものの奥に花があるらしい。

なんかとても珍しくおめでたい植物みたいに偉大に感じられた。

黄色の葉が開くと、甘い汁が流れるらしい。蟲はそれに惹かれてやって来るらしい。


わたしはしばらくそれに見惚れていた。

そして黄色の帽子をかぶった幼児たちを引率している先生たちを見かけた。ああ遠足だ。
子どもは良いなあ。楽しそうだ。
親もいる。親も少し和らいだ顔をしている。こんなきれいな空気だもの。


わたしはほっとした。なんだか未来をかんじたのだ。でもどきりとする親子も居る。

一定の間隔で離れながら歩いている親子だ。

親が先に歩いている。何故? 振り向かない親。 子どもはよろよろと歩いている。 距離は少し離れている。
手は繋いでいない。 親は振り向かなかった。無表情だった。

わたしはそれに違和感を感じた。 子どもが居なくなってもいいんだろうか?

わたしはなんだかかすかに不安を感じた。

時折、どきりとするところを見る。平和な光景に不穏な影を感じる一点の黒い染み。



嗚呼、世界は決して完全な幸福には満ちてはいない。わたしは安堵したり、どきりとしたりする。

わたしはそれを思い知る時がある。

わたしは深呼吸した。この綺麗な空気を一杯吸わなきゃいけない気がした。


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