紫煙

うそろ

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煙管

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大学、研究室。
院試を乗り切り、卒論を書ききった僕はそのまま院進し、B3として新しく入ってきた彼女に出会った。

「サラダはあるけど、卵があといっこだけだね」
「買いに行ってきます。スクランブルエッグ作りたいので、」
「いいよ、僕が行く。明日も遅くまでかかるんだろう?それに煙管も手入れしなきゃでしょう。ちゃんと休まないといけないんだし、先お風呂入ってなよ。散歩ついでに、行ってくるからさ、」
「…ありがとうございます、」
彼女が煙管を片付け始めたのを確認して、買い物袋と、財布と、鍵。携帯も忘れずに。
僕と彼女が二人で買い物に行くことはなかった。
彼女の家に半ば無理やり押しかけて同棲を始めた僕に、彼女の「いや」には逆らう権利はない。なによりも、彼女には僕よりも好きな人がいる。彼を大事にする彼女は、僕とずっといるのが嫌なのだろう。それがわかっていながら、彼女を僕は手放せないから、黙って従うしかない。歩いて2分ほどの、遅くまで空いている安いスーパー。この辺りはスーパーや商店街があって住みやすいが、駅から遠いし大学に行くにはバスを乗り継がないといけない。でも原付や自転車を持った学生は多く暮らしていて、彼女も原付で通っている。サークルの幹部でもある彼女には多くの後輩がいて、その後輩に見られるのは嫌だから、という理由で二人で近くで遊んだり散歩したりするのを嫌がる。食器も、タオルも、二人分ある家なのに、あの家に僕の居場所はない。
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