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しおりを挟む卵とアイスを買い、彼女の好きな梅酒があるのを見かけて、ちょっと悩んだ。
身体が弱く、精神的にもあまり強いとも言えない彼女は、この頃夜うなされていた。暮らし始めた当初よりもベランダに出る回数も増えていた。眠るために一杯だけ、と少しお酒を身体に入れないと寝付けないほどに。
逡巡しているうちに彼女の後輩を見かけて、僕はそそくさと瓶をかごに入れセルフレジで支払いを済ませてスーパーを出た。
別に彼女の後輩と面識があるわけではなかった。でも、M2で明らかに年を食っている僕が、この学生街の新顔であるのは間違いなくて、あの時分に知らない顔があれば疑問に思われるかもしれない。…そんなことがあるわけもないけれど。
近くの川沿いにある公園。そこまで歩いて、ベンチに座ろうかと思ったがそのまま河原に降りた。腕時計を見るとまだ家を出て十分と立っておらず、もうちょっといてもいいか、帰らなくてもいいかと石段に腰を下ろした。
彼女が眠れないのは僕のせいでもある。その自覚はある。彼女は献身的で一途な人だから、付き合っていなくても好きな人でない人と暮らしているのに罪悪感を抱いているのだろう。それに気づいてから、帰るけれど、でもいる時間は減らしてしまう。
僕を見るたびに、つらそうな顔をする彼女。
やめてくれ、と思う僕と、そのまま、罪悪感に染まって僕に落ちてくれ、と願う僕がいる。
「…あなたのことは、嫌いではないです。でも、あなたを一番にすることはできません。好きな人が、いるんです。なので、」
ごめんなさい、と謝った彼女。
義理チョコだと、知っていた。バレンタインのチョコレート。本命のチョコレートが、ずっとカバンの中に忍ばせてあるのを見たから。
それでもホワイトデーであきらめきれずに、一週間だけ、一緒にいてくれないかとみっともなく、情けなく懇願した。彼女のやさしさに、人の良さに付け込んだ。
案の定付け込むことには成功して、彼女は渋りながらもうなづいてくれた。
その二日後、付き合ってからずっと彼女がしていたあの辛そうな顔が、輝いているのを見た。僕の隣でも研究室ででもなく、キャンパスで、サークルの先輩だという、優しそうな、線の細い男性といたとき。一目でわかった。彼女の一番は、この男なのだと。彼女が隠していたあのチョコレートは、この男のためのものなのだと。
彼女のあの笑顔を、僕のものにしたかった。
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