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三十路いり
しおりを挟む論文最終稿の査読が終わり、ようやく修羅場を終えた。
あーーーーやってらんない…
この全て終え解放された日がまさか三十代の始まりの日だとは。
科研費の申請やら指導する生徒の卒論の確認やら学会の締め切りやら、あれこれでばたついてるうちにまさかまさかの誕生日を迎えてしまった。
そもそも博士課程を卒業したのは3年前、順調に27歳の時。
この時点でなぜ焦らなかったのか、わたし。
そのまま大学のポスドクになれたのは幸運だったけども。
大学内である出会いなんてものはせいぜい研究室の学生が入れ替わっていくくらいで、同世代なんて出会わないものだ。
改めていう。
なぜ卒業時点でアラサーだったのに、婚活しなかったのか、わたし。
あーあ、とおもいながら1Kの、学生時代から住み続けている部屋に帰る。
なんやかやでもうここに住んで12年になってしまい、今のお給料だったら別のところに住めなくもないが結局ひっこし面倒だし、と言うことでここに住み続けてしまっている。
途中にあるコンビニによって、せめてちっちゃいので良いから、とコンビニスイーツのなかでもグレードが高いケーキを買った。
「ハッピーバースデー、三十路…」
…あーあ、結婚、したかったなぁ。
高校の頃やら、学部生時代の同級生の殆どは博士課程にいる間に結婚してしまった。
晩婚化が進んでいるとはいえ、ぎりぎり女性の結婚平均年齢は29歳らしいし、そもそも私の出身は九州の片田舎。
三十路なんて、立派な行き遅れだ。
コンビニサラダと、サンドイッチと、ケーキ。
スープは玉ねぎを刻んで、コンソメを溶かした簡単なやつ。
来年も多分独り身なのだろうし、その時はご飯くらい炊きたいなぁ、と思いながら
「いただきます、」
と、口に出したそのとき。
ピーンポーン。
え…?
ここ最近は大学にいる時間が長かったから、基本的に荷物は郵便局に取りに行ったり休日指定するようにしてるので平日のこんな夜中に荷物が来るはずはない。
それに学生ばかりが入るこのアパートには自治会なんてものは存在しないから自治会費とかもない。
この頃はお風呂入ってまた大学戻るみたいな生活だったからお隣さんから苦情なんてことがあるわけがない、というかそれだったら多分一階に住んでいる大家さんから来る。
いったい、なんなのだろう。
12年住み続けているけど大家さんと揉め事を起こすこともないようにしてるのだけど…?
こわごわ玄関に向かい、インターホンに出る、
「はい、」
「あ、やっとでた。開けて開けて、俺だよ、」
「あ、オレオレ詐欺なら要らないです。払えるお金もないし子供もいないんで、どうぞお帰りください」
て、あれは電話か。
とりあえず不審者である。
ケータイどこ置いたかしら、と思いつつインターホンの受話器をおこうとしたのが伝わったのか、
「ちょっ、切らないで切らないで、」
「いやあの普通に迷惑ですし、ご近所にも申し訳ないんで、早く帰ってください」
わたしにはあのコンビニで買ったといえどスウィーツが待っているのだ。
修羅場をくぐり抜けた自分への久々のご褒美をこれ以上先伸ばしたくない。
「あーもう、声でわかんない?
俺だよ、大谷雅俊。学部のときのサークルの同期の、」
………?
「あ、久しぶりだからわかんないのか、そうかそうか、とりあえず開けて。」
「いや不審者なのであげたくないです、」
「そうかそうか、じゃあ、」
がんがんがんがん!
目の前の鉄の扉が大きく音を鳴らす。
え!?なにしてんのこいつ!?
「なな!なな!俺が悪かった、もう二度と浮気なんかしないから!ここ開けてくれ!!!」
ぎゃーーーーっ!?!?!?
この部屋は二階、一階には大家さんが住んでいらっしゃるしそもそもこんな大声はアパート中に聞こえてしまう。
がしゃっ、と鍵を開けた。
「チェーンも外してよ、また騒いじゃうぞ」
「そんなさらっとガチモンの脅しかけないでください…」
なつかしい、さらさら黒髪と、真っ白なすべすべお肌。
髭剃りのあとなのか、ちょっとあごは青いけど。
「上げてよ。誕生日お祝いに来たんだからさ」
「…5年くらいぶりなんだから、いきなり来るくらいだったら事前に連絡ちょうだいな」
どうやら偽物ではなさそう?なので、チェーンも外し、玄関に招き入れた。
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