妖狐と魅惑の遊戯

夢咲まゆ

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第四十五話

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 やがてわずかに口元を緩ませ、髪を撫でていた晴斗の手を取った。

「……ありがとう、晴斗……」

 そしてギュッと手を握り、純粋な笑顔を向けてきた。

「私の封印を解いたのがあなたでよかった」
「えっ……?」
「あなたが優しい人でよかった。そうじゃなかったら、私は今頃『きつねうどん』になっていたかもしれないから」
「いや、だから『きつねうどん』にキツネは入ってねぇんだって」
「知ってる。昨日そう教わった」

 ふふ、と控えめに笑う九尾。つられて晴斗も一緒に笑った。こんな冗談を言えるのなら、もう大丈夫かもしれない。

「それじゃあ、私は湯浴みしてくるから……」
「ああ、そうだな。入り方は覚えてるか?」
「覚えた。……だから一緒に入る必要はないからな?」
「ハハハ……そうか。じゃあ、ゆっくり入って来いよ?」

 九尾を見送りつつ、晴斗は汚れた布団を全部片付けた。丸洗いできるものは洗濯機に放り込み、できないものは後で布団用のコインランドリーに持って行くことにする。

 脱衣所をこっそり覗いたら、九尾がシャワーを浴びている音が聞こえた。タオルと着替えを用意せずに風呂に入ってしまったようなので、脱衣カゴに新しい着替えとふわふわのタオルを置いておいてあげた。

 ――『あなたが優しい人でよかった』……か。

 ちょっとドキッとした。告白にはなり得ない台詞だが、それでもやっと自分を見てくれたみたいで嬉しくなった。昨夜までの九尾は晴明の影を追ってばかりで、ほとんど晴斗自身を見てくれなかったから。

 ――てことは、俺のライバルは晴明さんってことか?

 強敵すぎるだろ、オイ……と思いつつ、晴斗は脱衣所を離れた。
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