~soul~

むささび雲

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乱戦

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頭の中がこんがらがっている私は窓の外を見る。
空はさっきと変わらず真っ赤な色…少し怖くなってきた。
「大丈夫か?嬢ちゃん」
「ど、ドラゴンさん…」
「おっと。俺はドラゴンの姿をしているがドラゴンなんて名前じゃねぇ。俺は、ヒュータってんだ」
ドラゴンさんのヒュータさんは、すんなり自分の名前を教えてくれた。けどベラさんが掟を破ったらダメって言ってたけど…ヒュータさんとウルージャさんの2人は、あんまり気にしていないみたい。私は、あの赤い空についてヒュータさんに聞いてみた。
「あの…」
「ん?」
「どうして空が真っ赤なんですか?異常気象、とかでしょうか。」
「ああ…異常気象は関係ねぇが、あれはレッドスカイっつーんだ。よく赤い空が現れると、よくねぇ事が起こる前兆らしいんだぜ」
レッド、スカイ…そのままだ。
けど思った通り何だか嫌な予感がしてきた。

ヒュータさんは赤い空について説明し終わると、またソファへ横になる。また寝るのかな。
「ちょっと、アンタ」
そこへ、ベラさんが私に声をかけた。
「ベラさん」
「たくっ…ヒュータの奴も命知らずなものだ。掟を破れば己自身が滅ぶかもしれないのに…」
ため息をつくベラさんを見て、ちょっぴり私は落ち込んでしまう。そこまで、この世界のルールを守っているなんて私も見習いたいくらいです。けれど人間である限りは私にも、どうしたらいいか分かりません。
ただ…あまり迷惑をかけないようにするしか。
「よし、名前を考えてやるよ」
「へっ?」
「名前が無いんじゃ…色々、面倒だしね。あたしがとびきりの名前を…」
「いんや、俺がつける。」
いきなり名前をつけるなんて言い出すベラさんに割り込むウルージャさん。椅子から立ち上がり、ベラさんの真正面に立つ。
「アンタはセンスが無いから、お止し。」
「そんなの考えてみなきゃ分からないだろ。」
「はぁ~ん、どうだか?」
ま、また苛々しているベラさん…ウルージャさんは度胸があるみたいです。

『……イ…』

ん?何処からか声が聞こえる?
耳を澄ましてみると。

『…レイ…』

レイ…?私の本当の名前はレイ…?


しばらく同じように耳を澄ましてみた。でも優しい声の気配も無く聞こえなくなっていた。一体…誰が教えてくれたんだろう?
ま、まあいいや!私の名前はレイ!
それで決まり!!
「ベラさん、ウルージャさん」
「あら…どうしたんだ?」
ベラさんはキョトンとする。
「私、今誰か分からないけど声が聞こえたんです!それで私の名前は…レイってつけようかなと。」
そう話したら2人は顔を見合わせた。
「レイ、か」
「そうだねぇ…名前をつける手間が省けた。良いんじゃないかねぇ?」
「ああ。んじゃあー…今からお前はレイだ!あ、そうだ…」
ウルージャさんは自分の手を私に差し出した。
「俺はウルージャ。まあ、仲良くやろうや」
「あ…は、はい!」
私は、ウルージャさんの手を握り握手を交わした。そのための手だったんですね。
そして…。
「あたしも、ベラだよ。まだ、その人間の姿じゃ暗黒世界の者として認められないが、しばらくは様子見だよ。ここにいても構わないけど…気をぬくんじゃないよ」
「は、はい!」
「いつアンタが、あたし達以外に見つかっても可笑しくないわ。それに暗黒世界には命がどれだけあっても足りないほど危険な事があるからね、魔物化するまでは身を隠すのが適切ね」
一通り、ベラさんが説明してくれた。理解できた事は…この暗黒世界が危険な世界って事。もちろん、あの赤い空もそうだと思う。


バタァァァンッ……!


話してる途中、この家のドアが勢いよく開いた。
「な、なんだい!お前達はっ!?」
ベラさんやウルージャさんが私を庇うように盾になる。その時、ソファに横になってたヒュータさんも私の前に立つ。
ドアを乱暴に開け入って来たのは黒の迷彩柄の特攻服を着て蛇のような顔をしている数人の魔物達。この人達も二足歩行をしている。手には銃が握られていて私達に向けられている。
「ここから魔物とは違う匂いがしたんでなぁ!てめぇら…まさかその後ろにいるいんのは人間という生き物じゃねぇか~?」
蛇さんの連中の一人が喋り出し、ベラさんの後ろに隠れてる私を指差した。
「おい!よこしな。その人間を。」
「バーカ、これから成長して魔物化すんだよ。勝手な事を言ってもらっちゃ困る!」
ウルージャさんは蛇さんの連中の一人に対抗するように言いながら、その後に…。
「ベラ、レイ連れて逃げろ」
「はぁ?何言ってんだい」
「久々に暴れたくなっちまってな。この雑魚共は俺の獲物だ、さあ…早く行け」
コソコソ…と蛇さん達に聞こえないよう小さな声で、ウルージャさんがベラさんに告げた。

「なぁ~にコソコソ喋ってんだぁぁぁ!!」
蛇さん達が一斉に銃を構え銃弾を撃ってきた。

バンバンバァァンッ……!!

「行くよ!!レイ!」
ベラさんは私の手を掴み窓ガラスを突き破り外へ飛び出した。ウルージャさんやヒュータさんは銃弾を避けながらも蛇さん達と戦う。
「へっ。ヒュータ~!こいつら倒してベラとレイに自慢してやるか!!」
「おう!だが、よそ見すんなよ、ウルージャ。」
「分かってる!!」
ウルージャさん…ヒュータさん…。
零れ落ちそうになる涙を堪えて2人を見送りながら手を引かれる私。お願い…どうか無事でいて。


ガァーガァー…!

「なんか変な鳴き声がするよ…」
「鳥だよ、鳥。ほら!早く来て!」
もう何時間走っただろうか。あの木の家から随分遠くに来たんじゃないだろうか。息切れがしながらも、ベラさんに手を握られたまま森へ森へと逃げて来た。ウルージャさんとヒュータさんは大丈夫かな…。
「はぁ…ここならあいつらに見つからずに済むわ。」
「ベラさん、ここって…」
「森がある場所には幾つか身を隠すための家があるのよ。いつもの場所にはもう戻れそうにもないね…ひとまず、この小さな家で身を隠そうか。」
そう話しながら、木で出来た前より小さな家の中へと入りベラさんは部屋のドアを閉める。壁に寄りかかり木の床に座り込む私は体育座りをした。
その隣に、ベラさんも座る。
「ごめんなさい…」
「ん。何謝ってるんだい?」
「私なんかが…来たから…ウルージャさんやヒュータさんが庇うようになっちゃって…ベラさんだって本当は嫌なはずなのに。」
話してるうちに目から涙がポロポロ流れた。
「…はぁ。確かに最初は人間なんて冗談じゃないって思ったわ。けど、なんか……」
私は顔を上げ、横に座り言葉につまるベラさんを見る。
「なんか…守ってやらなきゃいけない。そんな気がしたんだ、だから今は…嫌なんかじゃないわ」
「…!」
「ウルージャもヒュータもアンタを守ったつもりだと思うんだけどねぇ。」
ベラさんの話を聞いて涙が止まらない。
私がこの暗黒世界に生まれて来たせいで危機的な状況にしてしまったのに。

《ベラだな》

突然、また誰かの声が響いた。今度は頭の中じゃなくて部屋中に…ベラさんもその声に気づく。声からすると男の人だ。もしかして…さっきの蛇さん達の仲間!?
「誰だ!!」
ベラさんはまた私を庇いながら部屋を見渡す。
すると現れたのは…。
「私は伝言を伝えに来た者だ。」
その姿は豹の顔をして、こちらも特攻服を着ているけど迷彩柄じゃなく、シンプルな銀色で統一され黒いブーツを履いている。腰には長い剣がついている。どうやら敵ではなさそうだけれど…。
「あたし達の仲間…ウルージャとヒュータは生きてるのかい!!」
「ああ。残念だが、ウルージャは特攻部隊に敗れ暗黒世界から存在が抹消された!」
えっ……。
ウルージャさんが…?
嘘っ……嘘って言って…。
「…そうかい、ならば仕方がないね。ヒュータはどうしたんだ!」
「同じく、ヒュータもウルージャと共に抹消されたようだな。最後まで…レイを守るために、そう言い残して特攻部隊を排除したようだが…己自身さえも道連れするとはな」
「……!ヒュータまでも。」
ヒュータ、さん…。
私を守るために…?
「以上だ!貴様らもいずれまた狙われる時が来るだろう。この暗黒世界で生き延びるために多少の犠牲が伴うのは致し方無い。だが…レイとやら、恐怖に飲まれてはいけない」
「…!」
「私は敵でも味方でも無ければ暗黒世界を支配する者でも無い。必要な伝言を伝えるためだけに生きる者。逃げるなよ、レイ」
「あ……!」
そう話して、豹さんは一瞬にして消えた。
部屋の中はシーン…として再度、床に座り込む。ウルージャさんとヒュータさんが死んだって事を知り涙を流さずにはいられなかった。
ヒュータさんが言った通りだった…レッドスカイ、赤い空が現れる時は悪い事が起きる前兆だって……。
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