~soul~

むささび雲

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強くなりなさい

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私が、ウルージャさんとヒュータさんの魂が消滅してしまった事を想いながら涙を流し続けていると。ベラさんは私の頭にポンッと手を置き優しく撫でてくれる。
「アンタは自分を責めるんじゃない…むやみに泣き続けたってウルージャとヒュータの努力が報われないよ。」
「ひぐっ……でも…」
「でもじゃない。この世界じゃ皆そうさ…どれだけ仲間を失っても前へ進まなければ、あたし達の魂だっていつか消えて無くなるだけよ」
「……!」
「あたしはね、いつだってそう。何度犠牲者が出ようと、あたしは生き残らなきゃならない。それが一つの使命なのかもしれないね」
「…ベラさん…」
さっきよりも凛としているベラさんは立ち上がって私に手を差し伸べる。
「掴みな。アンタはあたしが守る」
私は……ベラさんの手を強く掴み立ち上がる。
きっと私が生まれて来る前にも、ベラさんは何度も大切な人達を失って来たのかもしれない。私も、ウルージャさんとヒュータさんを失った。だからこそ前を向かなきゃ。
「ベラさん…私も一緒に生き残ります。ベラさんやウルージャさんにヒュータさんほど、まだ全然…不足してる所があるけど戦います」
ベラさんは静かに頷き言う。
「レイ、あたしはアンタを守る。だからレイは…しっかり強くなるんだよ」
「はいっ!」
「よし…それで良いわ。じゃ、とりあえず…あの伝言係はいなくなったようだし」
「ベラさん、あの豹の人は…」
「恐らく暗黒世界の全体を見張り係も担当してる者だろう。いつ誰々が消滅したかとかね、まあ色々知ってるんだろうね。という事は、あたし達は何らかの形で今も見張られている可能性が高いわ…ただの伝言を伝えるような奴じゃない」
暗黒世界をたった一人で見張ってるなんて…どうすればそんな事が出来るんだろう?人間じゃない限り魔法とか使うのかな?
「…にしても」
「……?」
ベラさんは私を見て言う。
「アンタ、小っさいねぇ」
「え、小さい?」
「気づかなかったのかい…見るからに130㎝くらいしか無さそうだ。あたしやウルージャ達は190㎝はあるからね」
「えぇ…」
そういえば自分の姿を一度も見てなかった。人間だってのは分かったけど。
「そうだ、なんならすぐ近くに湖がある。そこで水面に映る自分の姿を見たいなら連れてくよ?前に気になってたみたいだしね」
「見たい!見たいです!!」
自分の姿が気になってた事…ベラさんは気づいてくれてたんだ。なんか嬉しい。


そして、私とベラさんは手を繋ぎながら小さな家から出て近くの湖へと向かった。安全を第一にして周りをキョロキョロと見渡しながら歩く。
なんだろう…この優しくて懐かしい感じは。
いつの日にか体験した………。


『レイーこっちへおいで』


………ママ…何処にいるの…?


『ほら!捕まえた~!』
『ママぁ~!!』
『レイ』
『あぁ~!パパだぁ!!』


………パパ…お帰りなさい。



「……イ…」
「んんっ…」
「レイ!」
「…は!!」
呼ばれた声に私は目を開けた。気づいたらもう湖に辿り着いていた。側でベラさんが心配そうにしている。私…どうした?さっきのは一体誰なの…ママやパパって。
「大丈夫かい!?」
「ベラさん…私どうなって…」
「あたしが聞きたいくらいよ。湖まで歩いてる途中にレイが倒れたんだから!しっかりしなさいって言ったばかりでしょ」
「ご、ごめんなさい…」
「さっきまた別の魔物が現れてたら大変だったよ。幸いにも何もいなかったから良かったものを…」
「こ、これから気をつける…」
プンプンと怒るベラさんに、しょんぼりする私。
「それよりも、見な。自分の姿を。」
ベラさんが水面を指差し、それに従いゆっくり湖に近づいていく。そこで映ったのは。
「これが…私…」
白い肌にイエロー色の瞳にオレンジ髪のポニーテールをしてる女の子。真っ白いワンピースを着て裸足だった…というか、ベラさんが言った通り…とても小さい身体をしている。
「人間だ…」
私は魔物の姿じゃなく人間の子供の姿をしている。周りは魔物だらけだっただろうから、こんな私じゃ、あからさまに人間だとバレてしまう。
もう気づかれているみたいだけど。
「これで分かっただろう?アンタは人間だ。あたし達、魔物よりも遥かにつけ狙われる率は高いよ」
「ほんとだ…どうしよう……」
「大丈夫、アンタはあたしがっ……」


ヒュゥゥゥ、ボォォォォン…!!


「レイ!危ない!!」
ベラさんのかけ声が聞こえた。
「ぐっ……!」
空から大きな火の玉のようなのが降ってきて、ベラさんは自ら盾になり打撃を受けてしまう。
「ベラさん…!?」
「…熱っ…空から降ってきた、のは…数百万℃…ケホッ!…のファイアボール、だねっ…」
「ベラさん、喋っちゃダメ!死んでしまう!!」
嫌だ…ベラさんまで消えないで。
まだ一緒にいたいよ。
私はベラさんの腕を自分の肩に回して安全な場所へと運ぶ。どうか、死なないで。ベラさんまで犠牲者にならないで。分かってる、私が強くならなきゃ…今度は誰も失くさないように!


森を抜け出たら、街の景色が見えた。
本当に人間一人いなくて魔物ばかりが行き交う。
街なんて全然安全な場所じゃない!これじゃあ私まで消されちゃう!!街を見回せば魔物達が私とベラさんに視線を向ける。
私は心の中で思う。
(殺される……!)
どうしようもない私はベラさんの腕を肩に回したまま立ち尽くすしかなかった。

「君」

不意に綺麗な優しい声が耳に響く。
「そちらは重症のようだね…今すぐにでも治療をしよう。さあ、重症気味の彼女のもう片方の腕を貸して」
そう言って黒いマントを纏う鳥の顔をした魔物が運ぶのを手伝ってくれた。
この方は一体…。


沢山の魔物達が私達が通る道を作ってくれる。
鳥さんの横顔をチラ見しながら歩いてく事…数十分後、辿り着き目の前には大きなお屋敷が建っている。鳥さんが空いてる方の手で門を開け庭に入ると緑が広がり様々な色の薔薇ばらが咲いている。
「君、後は僕に任せてくれないかな。一人で大変だっただろう?もう頑張らなくていい」
「は、はい」
私と交代した鳥さんはベラさんをおぶさり、お屋敷へと入ってゆく。


お屋敷の中は広くまるで中世ヨーロッパ風な雰囲気。
「君、そこに掛けたまえ」
「はい…!」
部屋に入ったはいいけど、これ全部ガラスで出来てるんだぁ。テーブルも椅子もドアも、この部屋とインテリアはガラスで作られてるみたい。因みにベラさんは別の部屋のベッドで休ませてもらってるみたい。
「あの」
「紹介が遅れたね。僕はパフティール。この屋敷に棲まう者さ」
「わ、私は…」
「知っているよ、君はレイだね?」
えっ…どうして。
「はい、レイです。けどなんで知ってるんですか?」
パフティールさんはニコッと笑い話す。
「向こうの存在の化身、だからさ」
「向こう…の存在…?」
「そう。レイ、君にはあまり時間が無いみたいだよ。向こうの存在から君に伝えてくれと…」
正面に座るパフティールさんは、よく分からない事を私に話す。向こうの存在?時間がないって、そういえばこの世界に来てから時間っていうのを気にしてなかった気がする。空だって青く澄み切ってたり真っ赤になったり…普通の世界とは違うらしいし。
「レイ」
「あ…パフティールさん、色々と疑問点が…」
「そうだね。さっきの彼女は大丈夫さ、火傷を負ったようだが薬草を塗れば元の綺麗な肌に戻り状態も良くなる。」
「そ、そうですか!良かった…」
パフティールさんのおかげで、ベラさんは助かるみたい。
引き続き話を聞く。
「それと、この世界に時間という概念は無い。だから朝も夜というのも存在しない。君はレッドスカイを見た事あるか?」
あ、ヒュータさんが教えてくれた…。
「はい。失くした大切な人に教わりました…赤い空になると悪い事が起こるって言ってました」
「うん、その通りだ。でもレッドスカイは自然現象じゃないんだ」
「へっ?じゃあ、一体…」
「暗黒世界の頂となる者。簡単に言うと王様みたいな人かな?その彼が創りあげたもので、もちろん暗黒世界を操る者も彼しかいない」
「それじゃ…」
「彼の存在が消えればこの暗黒世界も全て抹消される事になる。」
「えぇ!?」
パフティールさんは笑顔を崩さず話すけど私にはとても前向きにはなれなかった。だって暗黒世界全体が消えちゃうなんて…。

スッとソファから立ち上がるパフティールさんはガラスの部屋を出ようとする。
「彼女の様子を見てくる。君はミルクティーでも召し上がるといい」
パチンッ!と指パッチンをしたパフティールさん。
ガラステーブルの上に現れたのはミルクティーが入った透明なコーヒーカップ。キラキラと光り、ミルクティーの甘い香りが私の不安定な心を癒す。少しホッとした後、コーヒーカップを手に持ち口に近づけミルクティーを飲む。
「温かい……」
また、何処か懐かしい感じがする。
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