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終わりを告げる者
しおりを挟む『アンタはあたしが守る』
『しっかり強くなるんだよ』
ベラさん…ごめんね……。
あなたの言葉が私の支えになってるけど、そのせいでウルージャさんもヒュータさんも…。頼り切っちゃダメだよね。ミルクティーを飲んだ後とてつもなく懐かしさが私の魂を包み込む。また涙が頬を伝う。
「レイ」
静かに涙を流している時、ベラさんがガラスの部屋に入って来た。私はすぐ駆け寄る。
「ベラさん!大丈夫なんですか!?」
「はっ。あたしは、どんな打撃を受けようと今ここで死ぬわけにはいかないんだよ。それに、あたしは再生能力に優れてるから多少のダメージには耐えられるのよ」
ベラさんは再生能力があると言った。火傷した部分はすっかり良くなっている。パフティールさんの塗った薬草の効果もあって通常よりも早く傷が癒えたよう。
「良かったね、レイ」
「パフティールさん…!はい!!」
私は嬉しさのあまり、後から入って来たパフティールさんの柔らかく白い手を握る。
「ありがとうございます!!」
「はは…彼女も君を守れて嬉しいだろうね。」
「あたしの心を読んだつもりか、貴様はパフティールと言ったな。アンタは、あのお方の事を知っているようだね…詳細を聞きたい」
ベラさんは多分…暗黒世界の頂について、パフティールさんに聞きたいらしい。実のところ確かに、パフティールさんは今の時点で謎だらけ。
「そんな警戒しないで欲しいな。君とレイをここまで連れて来たのに」
「ふん。この娘に手を出す事は許さないよ。幾ら、紳士的な貴様でも内心はどうかねぇ?」
パフティールさんに警戒心を抱くベラさん。
困ったような顔の彼。
「……分かったよ」
そう言い残しパフティールさんが消えてしまった。
「えっ、パフティールさん!?」
今まで目の前にいたパフティールさんの気配が無い。
「パフティール…あいつの正体も暗黒世界のあの方についても、まだ分からない事があるね。けど今はレイを守る事だけに集中するよ」
「…ベラさん。」
「ほんとはね、あたしは暗黒世界の存在がいずれ滅びる事を知ってるんだ。あたし達も元は人間だったからね…」
「え!?だって、人間の存在をあんなに嫌って…」
「嫌いなわけじゃ無い。ただ……あたしやウルージャ、ヒュータでさえ暗黒世界に生まれ変わる前の記憶を覚えてるだけさ」
記憶……?
「アンタもいずれは思い出さなきゃならない日が必ず来るよ。そうでなければ…こんな世界に転生されて来ないはずだからね」
暗黒世界に生まれて来る前の世界に、ベラさん達がいたって事?
『それを前世の記憶と言うのですよ』
はっ!誰!?
ふと、またあの時の声が頭の中に響いた。私の名前らしきものを教えてくれた声。私は必死で心の中で叫ぶ。
(あなたは誰…!?)
(何処にいるの…!)
けれども声の気配は消えていた。
目を閉じて集中しても聞こえなくなっていた。
すぐに消えてしまう声。
一体誰の声なのかな。
「レイ…どうした?」
目を開けばベラさんがいる。
「また、聞こえたの」
「また?」
私は小さく頷く。
「ねぇ、ベラさんがこの世界に生まれて来る前は…人間だったんだよね?」
「…ああ。そうさ」
「それを前世の記憶と言うって聞こえたの。」
「…!」
ベラさんは私の話を聞いた後、目を見開く。
「そうかい…あたしが人間だった頃の記憶ってのは遠い遠くの記憶さ。生きとし生けるものというのは生死を繰り返すもの。暗黒世界を選んで転生して来たのは…あたしにとって本当に大切な何かを命が消えるまで守り抜く、その夢を叶えたくて今ここに生きてるのさ」
ベラさんの私をまっすぐに見つめる瞳は美しく儚げに映っている。目だけでも全てを物語っている。幾つの景色をその目で見てきたのだろう。
「アンタの瞳…嫌じゃないわ」
「ベラさん…?」
「よく一人でこの危ない世界を選んで生まれて来たね。まあ、アンタを見守る存在なんて誰かしらいるんだろうが…精々、死ぬんじゃないよ。」
「わ、分かってます」
「レイにはレイの使命があり、あたしにはあたしの使命がある。前にも言ったが暗黒世界では、あのお方に魔物化しなさそうなアンタが見つかれば直ぐに処刑されるって事を忘れるな」
は……そうだった。
私は人間。皆みたいに魔物化されないで生まれて来てしまった魂。いつだって気を抜けない環境。
「不意打ちに空から降ってきたデカい火の玉、ファイアボールみたいな攻撃をしかけ、アンタを狙う奴もいるから…何処にいたって安心は出来ん」
あの火の玉は誰がしかけたのかは分からない。多分、外の魔物達の仕業なんだろう。
「さ、いつまでもこの屋敷に居座っていてもまた敵の魔物達が襲って来るだけだろうからね。」
ベラさんは気合いを入れて私に手を差し伸べる。
でも私は……。
「ベラさん、パフティールさんが言ってました。この世界には時間っていうのが無いって」
「ええ。」
「でも…私には時間が存在するみたいで……」
腕を組みながら聞くベラさん。
私は少し焦っている。
「つまり、寿命って事ね」
「えっ…」
「暗黒世界の魔物に寿命なんて無い。ただ、生まれて生き延びるだけ…敵に敗れたら最後、全ての記憶や魂が抹消されるだけ。何も残らない。そして、ここだけの話…世界を支配するあのお方を倒せた者などいないという事。あたし、あのお方を身を捨てる覚悟で消滅させるわ」
「……!」
「あたしは最初から、それを望んでいる。ルールを破らないフリをしながら本当に大切な何かを守り、あのお方を。」
嘘…ベラさんが暗黒世界の掟を守り続けているフリをしていた?大切な何かを守るためって…。
「ウルージャとヒュータはもう、敗れてしまった。アンタもあたしも次第に存在を忘れてく…」
「嘘っ!!」
「だって…あいつらは抹消されたんだよ?魂が消されてしまったなら天国や地獄さえも行けない。だからこれで終わりにすんのよ!」
いきなり、ベラさんはガラスのテーブルにガン!と握り拳を叩く。その衝撃でガラスにヒビが入りバリバリバリッ…!と割れていく。
「わっ!!」
「な、なんだこれは…」
ガラスの部屋中が歪み足元が上手く保てず尻餅をついてしまう。
「大丈夫かい!?レイ!!」
「ベラさん……!」
《レイ…ベラ…お前達を、この暗黒世界で生かすわけにはいかない。今すぐに抹消してくれる》
視界が真っ暗になり低く魔王のような声が響く。
きっとベラさんの本当の目的を知ったからだ。
そう直感的に思った。
私達は別の世界へワープする感覚に陥った……。
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