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第三章 謎解きミステリと不思議のホラー3
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「い、いや悪くはねえよ! でもほら、七不思議って結局、昔人間の子供が考えたもんだろ? そんなに恐れるほどのもんでもないっていうかさ」
「恐れるほどのものなんですっ! ……でもたぶん、ミステリさんのかなえたい願いのためには……」
私がそう言うと、ジュブナイルさんがすっとミステリさんを指でさした。
ミステリさんは、もう黒い手帳になにかをメモしながら、口の中でぶつぶつつぶやいてる。
「花音ちゃんには申し訳ないけど……ミステリの願いは、『事件解決』『謎の解明』だからね……あの手紙、誰が仕掛けてるにせよ、七不思議を体験して謎を解けっていうのなら、体験しないといけないんだろうね」
「うう、やっぱり」
私は頭を抱えたくなった。
そりゃ学校の七不思議なんて、おとぎ話か古いうわさみたいなものなんだろうけど、そのあやふやさが、夜の学校っていう舞台だと余計に怖い。
「だよなあ。じゃ、どうする? おれらで手分けするか? 七つも謎があるんじゃなあ」
「いえ、ファンタジーさん! ぜひみんなで一塊になって行きましょう!」
「お……おう。ん? なんだあれ」
ファンタジーさんは、私たちが歩いてきた廊下の奥を見た。
確かに、なにかが動いているのが見える。
黒い。夜の空と同じ色の、なにか。
あれって。
「『使い』かよ!? くそっ、数が多い……ジュブナイル、いけるか!?」
「いいとも。ミステリ、童話、絵本! あいつらは僕らが食い止めるから、花音ちゃんを頼む!」
童話さんと絵本さんが、前足をぴっと額に当てて、「了解!」と答えた。
……でも、押し寄せてくる「夜の底の使い」は、今までに見たことがないくらい大群に見える。
「あ、あんなに、大丈夫なんですかっ!?」
「おれ一人じゃさすがに厳しいけどな。ジュブナイルがいれば、たいがいのことはなんとかなるさ。ほらジュブナイル、弓と矢だ。援護頼むぜ」
「オーケー。それじゃまたね、花音ちゃん」
二人は体を「夜の底の使い」に向けながら、顔だけ振り向いて、微笑んだ。
「あ。でもファンタジー、勝利の女神の祝福があったほうが心強くない?」
「ん? それは、確かにそうだな」
女神?
なんの話かと思ってると、二人はつかつかと私の前にきて、膝まづいた。
「な、なんですか急に?」
「花音、手を出してくれ」
「僕にも」
言われるがままに、ファンタジーさんに右手を、ジュブナイルさんに左手を出す。
その手を取った二人が、それぞれの手の甲に、軽く唇を当てた。
「ひょえ!?」
「よし。これで勝負はもらった。欲を言えば、頬にお返しくらいは欲しいところだが」
「あはは、女神にキスさせてもらって、お返しはおかしいでしょ。そりゃ、僕も欲しいけどね」
……たぶん、この時の私は、この精霊たちにやられっぱなしでほんろうされてるのが、ちょっと悔しかったんだと思う。
だから、少しだけびっくりさせたかったんだ。
私はまずファンタジーさんのほうに足を踏み出して、マントの肩のあたりをつかんだ。
「わ、なんだよ?」
思わずかがんだファンタジーさんの左のほっぺたに、ほんの軽くだけど、唇を当てる。
ファンタジーさんがあっけにとられてる間に、今度はジュブナイルさんを捕まえて、右のほっぺたに同じようにささやかにキスした。
二人が固まってる。
「じゃ、じゃあ、けがとかしないでくださいね!」
慣れないことをして、顔から火が出そうだった。
私はぐるんと振り向いて、ミステリさんに「行きましょう!」と言った。
本当は、役に立てるならここで一緒に戦いたいけど……たぶん、私は足手まといだもんね。
振り向く一瞬前に、二人の笑顔が見えた。
大丈夫、絶対。あの二人は強いんだから。
「花音殿は任されたぞ、ファンタジー、ジュブナイル! では花音殿、参りましょう。童話、絵本、卿らも遅れるな」
「はいですう!」
「お前こそなァ」
そうして私たちは、廊下を奥へ走り出した。
でも最初の角を曲がったところで、数は少ないものの、また「夜の底の使い」が地面や壁にへばりついてるのが見えた。
ミステリさんが前に立って、それらを引きつけてくれる。
そうすれば最終的には、さっきの本の中に吸い込めるんだもんね。
てっきりそうするものだと思ってた。ところが、ミステリさんは、向かってくる鳩くらいの大きさの影をぱしっとつかむと、べたんと地面に叩きつけて、ブーツを履いた足で踏みつぶした。それを童話さんと絵本さんが、さらにぺんぺんと蹴り飛ばす。
焼けて炭になった紙が粉々になるように、影も舞い散って消えた。
「わたくしとて、技を使わずとも、この程度の『使い』」は労せずして倒せますぞ。ご安心召され、花音殿」
ジュブナイルさんもそうだけど、弱ってなければ、あのくらいの「使い」はなんてことないんだ。それが分かって、ちょっとほっとする。
「では手始めに、音楽室から見てみますか。ここの階段を上がった先でしたな」
ブルーの髪をなびかせて、ミステリさんが先を示す。
そう、音楽室は二階にある……んだけど。
「ミステリさん……なにか聞こえません?」
「むう。ピアノの音が聞こえますな」
さ、早速だあ。
音楽室について、防音用の分厚いドアを開けてみる。
すると、音はぴたっと止まった。
「フフフ花音殿、そのように恐れますな。たかがピアノが鳴るだけではありませんか。人間でもできることを、人間以外ができたからといってそんなにおののくようなものでは」
「ピアノが怖いんじゃなくて、その人間以外っていうのが怖いんですっ。で、でも音がやんだなら、もうここでできることってないような気がしますけど……」
ピアノの奥には、窓がある。今はどれも分厚いカーテンで遮られてるけど。
たぶんあれを開けても、外は真っ暗なんだろうな。
音楽室の中に入ってみたけど、特に変わったところは見当たらないな……。
ついついピアノを何度も見ちゃうんだけど、ピアノの上には、有名な音楽家の肖像画がずらっと壁に掛けられてた。
これ、小学校でもこうだったな。モーツァルト、ショパン、リスト、シューベルト、ベートーベン……
ベートーベン……?
「あの、ミステリさん」
「いかがされました、花音殿」
「あそこの、ベートーベンの肖像画なんですけど」
「ええ。ぎょろっとした目が印象的ですな」
「ぎょろっとっていうか……きょろきょろしてません?」
「しています。完全に、あの目玉は動いていますとも」
私は、音楽室の入り口まで全力で飛びのいた。
「な、なんでそんなに普通なんですかっ!?」
「ああ。あの無人で鳴るピアノ、ベートーベンが額縁から抜け出してきて弾いているというパターンもあるのですよ。だから目が動くくらい、そんなに問題では」
「問題ですっ! もうこれ体験したってことでいいですよね!?」
私は童話さんと絵本さんを左右のわきに抱えて、音楽室を出た。
ミステリさんもついてきてくれた。
「では、次に参りましょうか。保健室の、ベッドの下の死体です」
「ええ……死体、を見ることに、なるんでしょうか……」
「なに、わたくしが見ますよ。レディにそのようなことはさせられません」
そう言ってもらえると、大変ありがたいなあ。
私たちは一階に戻って、保健室に向かった。
ファンタジーさんたちを残してきたほうの廊下は、今は音もなく静かだった。どうなったんだろう……。
「ご心配ですか? 残してきた二人のことが」
「心配ですよ。それは、あの二人が強いのは知ってますけど」
「フフフ。そう言ってくれる司書殿ばかりだといいのですけどね」
「……違うんですか?」
このあたりにはもうあんまり強い「使い」がいないのか、童話さんと絵本さんが目を光らせてるだけで、影たちは私たちに寄ってこない。
なので、ついおしゃべりしちゃう。
「精霊を、単なる本の陰くらいにしか思わない方々もおられますよ。おかしいことではありません。司書の才能と、本やその精霊に対する思い入れがあるかどうかとは、別問題です。中には、心から本を愛し、『夜の図書室』に入る資格を得たくて仕方ないのに、とうとう得られなかった方もおられます」
「そうなんですか……」
なんだか、巡り合わせでたまたま司書になれたのが、申し訳なく思えちゃうな。
「だからといって、花音殿が気に病むことはありませんよ」
「……ジュブナイルさんといい、精霊のみなさんって私の心が読めるんですか?」
「心をお読みできるわけではありませんが、思いを察することが時折できるというだけですよ。わたくしたちは、人に読まれるために誕生した本の精霊。常に人を見つめ、見つめられることを願っておりますからね」
そういうものなんだ。
本と人のこと、私が知らないことがまだまだたくさんあるんだろうな。
「ファンタジーもジュブナイルも、今日までに、人間とともにあっていい思いばかりしてきたわけではございません。だからこそ、卿のような司書殿と巡り会えたことを、幸せに感じているのでしょうな」
「私のような……って、ミステリさん、私と会ったばっかりじゃないですか。私のこと、よく知らないでしょ?」
「存じませんとも。ですが、分かることもあります。卿は、わたくしの友人を大切に思ってくれ、そして彼らから信頼されている、素敵な司書殿でございますよ」
私よりだいぶ高いところにあるミステリさんの顔を見上げると、彼はにっこり微笑んでた。
……この人たちの笑顔って、どうしてこんなに、見ていて胸が熱くなるんだろう。
「さて、着きました。ここが保健室ですな……開けますよ」
引き戸を引いて、ミステリさんが中に入る。
私の後ろは、童話さんと絵本さんが見張ってくれてる。
「左手奥に、ベッドが二つありますな……あの下を覗くわけですな」
カーテンに周りを囲まれたベッドの、手前の一つの前で、ミステリさんがすうっと体をかがめた。
顔を床すれすれにして、しばらく黙ってる。
きれいな長い髪が床に触れてるのが、私としてはかなり気になったけど、本人は気にならないのか、平然としてた。
「ミステリさん? ……なにか、変わったところありますか?」
「おーい、ミステリ。なんにも言わないとこ見ると、一個目のほうはなにもないんだろ? 早く二個目見てみろよー」
「絵本、そう言うなら自分で下を覗いてみたらいいですう」
絵本さんはきらりと目を光らせて答える。
「ミーは怖いものなんか見たくないんだよ!」
「うう、勝手ですう」
「恐れるほどのものなんですっ! ……でもたぶん、ミステリさんのかなえたい願いのためには……」
私がそう言うと、ジュブナイルさんがすっとミステリさんを指でさした。
ミステリさんは、もう黒い手帳になにかをメモしながら、口の中でぶつぶつつぶやいてる。
「花音ちゃんには申し訳ないけど……ミステリの願いは、『事件解決』『謎の解明』だからね……あの手紙、誰が仕掛けてるにせよ、七不思議を体験して謎を解けっていうのなら、体験しないといけないんだろうね」
「うう、やっぱり」
私は頭を抱えたくなった。
そりゃ学校の七不思議なんて、おとぎ話か古いうわさみたいなものなんだろうけど、そのあやふやさが、夜の学校っていう舞台だと余計に怖い。
「だよなあ。じゃ、どうする? おれらで手分けするか? 七つも謎があるんじゃなあ」
「いえ、ファンタジーさん! ぜひみんなで一塊になって行きましょう!」
「お……おう。ん? なんだあれ」
ファンタジーさんは、私たちが歩いてきた廊下の奥を見た。
確かに、なにかが動いているのが見える。
黒い。夜の空と同じ色の、なにか。
あれって。
「『使い』かよ!? くそっ、数が多い……ジュブナイル、いけるか!?」
「いいとも。ミステリ、童話、絵本! あいつらは僕らが食い止めるから、花音ちゃんを頼む!」
童話さんと絵本さんが、前足をぴっと額に当てて、「了解!」と答えた。
……でも、押し寄せてくる「夜の底の使い」は、今までに見たことがないくらい大群に見える。
「あ、あんなに、大丈夫なんですかっ!?」
「おれ一人じゃさすがに厳しいけどな。ジュブナイルがいれば、たいがいのことはなんとかなるさ。ほらジュブナイル、弓と矢だ。援護頼むぜ」
「オーケー。それじゃまたね、花音ちゃん」
二人は体を「夜の底の使い」に向けながら、顔だけ振り向いて、微笑んだ。
「あ。でもファンタジー、勝利の女神の祝福があったほうが心強くない?」
「ん? それは、確かにそうだな」
女神?
なんの話かと思ってると、二人はつかつかと私の前にきて、膝まづいた。
「な、なんですか急に?」
「花音、手を出してくれ」
「僕にも」
言われるがままに、ファンタジーさんに右手を、ジュブナイルさんに左手を出す。
その手を取った二人が、それぞれの手の甲に、軽く唇を当てた。
「ひょえ!?」
「よし。これで勝負はもらった。欲を言えば、頬にお返しくらいは欲しいところだが」
「あはは、女神にキスさせてもらって、お返しはおかしいでしょ。そりゃ、僕も欲しいけどね」
……たぶん、この時の私は、この精霊たちにやられっぱなしでほんろうされてるのが、ちょっと悔しかったんだと思う。
だから、少しだけびっくりさせたかったんだ。
私はまずファンタジーさんのほうに足を踏み出して、マントの肩のあたりをつかんだ。
「わ、なんだよ?」
思わずかがんだファンタジーさんの左のほっぺたに、ほんの軽くだけど、唇を当てる。
ファンタジーさんがあっけにとられてる間に、今度はジュブナイルさんを捕まえて、右のほっぺたに同じようにささやかにキスした。
二人が固まってる。
「じゃ、じゃあ、けがとかしないでくださいね!」
慣れないことをして、顔から火が出そうだった。
私はぐるんと振り向いて、ミステリさんに「行きましょう!」と言った。
本当は、役に立てるならここで一緒に戦いたいけど……たぶん、私は足手まといだもんね。
振り向く一瞬前に、二人の笑顔が見えた。
大丈夫、絶対。あの二人は強いんだから。
「花音殿は任されたぞ、ファンタジー、ジュブナイル! では花音殿、参りましょう。童話、絵本、卿らも遅れるな」
「はいですう!」
「お前こそなァ」
そうして私たちは、廊下を奥へ走り出した。
でも最初の角を曲がったところで、数は少ないものの、また「夜の底の使い」が地面や壁にへばりついてるのが見えた。
ミステリさんが前に立って、それらを引きつけてくれる。
そうすれば最終的には、さっきの本の中に吸い込めるんだもんね。
てっきりそうするものだと思ってた。ところが、ミステリさんは、向かってくる鳩くらいの大きさの影をぱしっとつかむと、べたんと地面に叩きつけて、ブーツを履いた足で踏みつぶした。それを童話さんと絵本さんが、さらにぺんぺんと蹴り飛ばす。
焼けて炭になった紙が粉々になるように、影も舞い散って消えた。
「わたくしとて、技を使わずとも、この程度の『使い』」は労せずして倒せますぞ。ご安心召され、花音殿」
ジュブナイルさんもそうだけど、弱ってなければ、あのくらいの「使い」はなんてことないんだ。それが分かって、ちょっとほっとする。
「では手始めに、音楽室から見てみますか。ここの階段を上がった先でしたな」
ブルーの髪をなびかせて、ミステリさんが先を示す。
そう、音楽室は二階にある……んだけど。
「ミステリさん……なにか聞こえません?」
「むう。ピアノの音が聞こえますな」
さ、早速だあ。
音楽室について、防音用の分厚いドアを開けてみる。
すると、音はぴたっと止まった。
「フフフ花音殿、そのように恐れますな。たかがピアノが鳴るだけではありませんか。人間でもできることを、人間以外ができたからといってそんなにおののくようなものでは」
「ピアノが怖いんじゃなくて、その人間以外っていうのが怖いんですっ。で、でも音がやんだなら、もうここでできることってないような気がしますけど……」
ピアノの奥には、窓がある。今はどれも分厚いカーテンで遮られてるけど。
たぶんあれを開けても、外は真っ暗なんだろうな。
音楽室の中に入ってみたけど、特に変わったところは見当たらないな……。
ついついピアノを何度も見ちゃうんだけど、ピアノの上には、有名な音楽家の肖像画がずらっと壁に掛けられてた。
これ、小学校でもこうだったな。モーツァルト、ショパン、リスト、シューベルト、ベートーベン……
ベートーベン……?
「あの、ミステリさん」
「いかがされました、花音殿」
「あそこの、ベートーベンの肖像画なんですけど」
「ええ。ぎょろっとした目が印象的ですな」
「ぎょろっとっていうか……きょろきょろしてません?」
「しています。完全に、あの目玉は動いていますとも」
私は、音楽室の入り口まで全力で飛びのいた。
「な、なんでそんなに普通なんですかっ!?」
「ああ。あの無人で鳴るピアノ、ベートーベンが額縁から抜け出してきて弾いているというパターンもあるのですよ。だから目が動くくらい、そんなに問題では」
「問題ですっ! もうこれ体験したってことでいいですよね!?」
私は童話さんと絵本さんを左右のわきに抱えて、音楽室を出た。
ミステリさんもついてきてくれた。
「では、次に参りましょうか。保健室の、ベッドの下の死体です」
「ええ……死体、を見ることに、なるんでしょうか……」
「なに、わたくしが見ますよ。レディにそのようなことはさせられません」
そう言ってもらえると、大変ありがたいなあ。
私たちは一階に戻って、保健室に向かった。
ファンタジーさんたちを残してきたほうの廊下は、今は音もなく静かだった。どうなったんだろう……。
「ご心配ですか? 残してきた二人のことが」
「心配ですよ。それは、あの二人が強いのは知ってますけど」
「フフフ。そう言ってくれる司書殿ばかりだといいのですけどね」
「……違うんですか?」
このあたりにはもうあんまり強い「使い」がいないのか、童話さんと絵本さんが目を光らせてるだけで、影たちは私たちに寄ってこない。
なので、ついおしゃべりしちゃう。
「精霊を、単なる本の陰くらいにしか思わない方々もおられますよ。おかしいことではありません。司書の才能と、本やその精霊に対する思い入れがあるかどうかとは、別問題です。中には、心から本を愛し、『夜の図書室』に入る資格を得たくて仕方ないのに、とうとう得られなかった方もおられます」
「そうなんですか……」
なんだか、巡り合わせでたまたま司書になれたのが、申し訳なく思えちゃうな。
「だからといって、花音殿が気に病むことはありませんよ」
「……ジュブナイルさんといい、精霊のみなさんって私の心が読めるんですか?」
「心をお読みできるわけではありませんが、思いを察することが時折できるというだけですよ。わたくしたちは、人に読まれるために誕生した本の精霊。常に人を見つめ、見つめられることを願っておりますからね」
そういうものなんだ。
本と人のこと、私が知らないことがまだまだたくさんあるんだろうな。
「ファンタジーもジュブナイルも、今日までに、人間とともにあっていい思いばかりしてきたわけではございません。だからこそ、卿のような司書殿と巡り会えたことを、幸せに感じているのでしょうな」
「私のような……って、ミステリさん、私と会ったばっかりじゃないですか。私のこと、よく知らないでしょ?」
「存じませんとも。ですが、分かることもあります。卿は、わたくしの友人を大切に思ってくれ、そして彼らから信頼されている、素敵な司書殿でございますよ」
私よりだいぶ高いところにあるミステリさんの顔を見上げると、彼はにっこり微笑んでた。
……この人たちの笑顔って、どうしてこんなに、見ていて胸が熱くなるんだろう。
「さて、着きました。ここが保健室ですな……開けますよ」
引き戸を引いて、ミステリさんが中に入る。
私の後ろは、童話さんと絵本さんが見張ってくれてる。
「左手奥に、ベッドが二つありますな……あの下を覗くわけですな」
カーテンに周りを囲まれたベッドの、手前の一つの前で、ミステリさんがすうっと体をかがめた。
顔を床すれすれにして、しばらく黙ってる。
きれいな長い髪が床に触れてるのが、私としてはかなり気になったけど、本人は気にならないのか、平然としてた。
「ミステリさん? ……なにか、変わったところありますか?」
「おーい、ミステリ。なんにも言わないとこ見ると、一個目のほうはなにもないんだろ? 早く二個目見てみろよー」
「絵本、そう言うなら自分で下を覗いてみたらいいですう」
絵本さんはきらりと目を光らせて答える。
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