あやかし職業訓練校は税金で運営されています!

クナリ

文字の大きさ
14 / 23

8

しおりを挟む

 それから。
 訓練生としての粕村さん――登校初日に、燎火に「これとこれが失業保険の認定書類なんで記入お願いしまぁす!」と元気よく書類を突き出してきた――は、こちらが心配していたほどには問題児とはならなかった。
 滝じいさんが、粕村さんの性格を先刻承知で上手くプライドをくすぐりながら誘導してくれたおかげで、毎日ちゃんと通ってくれている。さすが、ベテラン講師だ。

 ただ、滝じいさんの日誌には「粕村くん:やたら偉そうでほかの訓練生や妖怪を見下しがち、注意」と赤字で書かれていたけれど。
 それに粕村さんの聞き分けがいいのは、燎火が、「うちで問題起こして悪評が広まれば、訓練のハシゴができなくなるぞ」と釘を刺したせいもあるらしい。
 ……するつもりなんだ、ハシゴ……

 そんなある日、職業訓練課あてに、手紙が届いた。
 前から私たちの議題に上がっていた、就職して中退した後連絡を取らせてくれなかった元生徒からだった。

 中には、中途退校書類と、就職先についての報告書――つまり私たちが必要とする書類が一通り入っている。
 添えられた手紙には、介護施設で調理師として働き始め、慣れない職場に通ううちに気疲れしてしまい、ついつい報告が遅れてしまったと謝罪の言葉がしたためられていた。

「有栖、これは有栖の作戦が効いたんじゃねえのか」

「作戦なんてものじゃないけど、……私たちが待ってるってこと、忙しい中で思い出してくれたんじゃないかな。誰だって、今とこれからの仕事のほうが気になるのは、仕方ないもんね。こうして返事を出してくれるなんて、急に凄くいい人に思えてきたかも」

「……受講生として当然の義務を果たしたってだけだぞ。ちょろいな、有栖って」

 どういたしまして、と書類を複合機MFPでスキャンしてから、紙とデータをそれぞれファイリングする。
 こういう日は、まだ始めて間もない仕事だけど、この業務独特のやりがいが感じられて、気分が高揚してしまう。

「燎火。今日金曜だし、どこか寄って帰らない?」

「おう。行きたいところ、どこかあるか?」

「うーん……そういえば、裏界ってカフェとかあるの?」

 燎火が、顎に手を当てて、斜め上方を見る。
 その様子を見て、私でも察した。

「……ないんだ?」

「いや、あるにはある。だが人間……特に有栖を連れて行けるようなところでは、ないな……」

「え、なにそれ。じゃ、行かないけど、どんなところかじっくり聞きたい。今日、現世のお店でいいから、ご飯食べながら聞かせてよ」

「ふ、物好きだな。じゃあ今日の退勤後にな」

 私たちはそれぞれのデスクについた。
 今日これからのスケジュールをざっと思い浮かべ、就業までに終わるよう、時間と作業を逆算する。
 大丈夫、終わる。
 さすがに、毎日の業務には慣れてきている。自分で自分の仕事を調節できる。

 けれど、いよいよ私にとっては初めての、そして職業訓練には必ず訪れる日が迫っていた。
 訓練の最終日である。
 訓練は生徒に就職してもらうのが目的なので、ある意味では、訓練期間中は助走で、ここからが本番とも言える。

 私はどんなふうに、なにをするのか。
 必要な書類はなにとなにで、訓練生にはなにをしてもらい、私はなにをしなくてはならないのか。
 最終的には、職業訓練の規定に従って様々な報告を妖怪機構に挙げることになるので、不備や間違いは許されない。
 下調べと確認を進めつついるうちに、緊張が高まってきた。

 その時、私のスマホが震えた。見ると、燎火から、今日行きたいお店をいくつか提案する内容のメッセージが届いていた。
 まだ就業中なのに。
 つい小さく吹き出してしまう。
 同時に肩の力がふっと抜けた。
 おかげで、集中力が高まっていく。
 私はキーボードを叩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

処理中です...