4 / 14
一章
悪魔
しおりを挟む
僕はもう、五十歳になる。これから、人生を楽しむ予定だ。僕は今まで、このために努力し続けていた。
それは、貯金だ。
僕の所得はそれなりに良い方だ。そして、日々、節約に節約を重ねた。節電、節水はもちろん、服も普段使いしか持っていないし、住んでいる所は月五万のボロアパート。食費も切り詰めていた。娯楽だって、友人の家に行き、パーティーとかに混ぜて貰ったりして、自分では一切金を出さなかった。
…長かった。だが、それももう終わりだ。ようやく望みが叶えられる。
なぜ僕はこんなにも金を貯めていたのか、だって?
ふふふ、それはね…
これからの人生、遊びまくって終わりたかったのだ。
ああ、楽しみだ。
そうだな。まずは、回らない寿司屋に行ってみよう。子供の頃、親に連れて行ってもらった時以来だ。
楽しみだ。僕の人生はこれから始まるのだ!
僕は、ぼろっちい中古の車に乗って寿司屋に向かう。
しばらくして、信号に引っかかってしまった。このまま直進してしまいたい位だが、それではこれからの人生設計がおじゃんだ。僕は待つ。
…よし、青になったな。
僕はアクセルを踏む。もちろん速度は標識通りだ。つまり、安全運転。
…僕は、だったが。
僕の車の目の前に、おそらく高校生であろう男が、信号を無視して歩いてきた。
歩きスマホだ。
まずい!そう思った時にはもう遅かった。僕は力の限りブレーキを踏んだが、その時には男を轢いていた。
やっちまった…のか?僕が、悪いのか?
いきなり出てきた奴が悪いだろう!?スマホを見て、信号を無視した奴が!
結果から言うと、僕は殺人の罪で無期懲役になった。
多額の金をつぎ込んで弁護士を雇った。
だが、そいつは僕が轢いた男の知り合いだったらしい。見事に嵌められた。
しかも去り際に、『アイツの仇だ、クソ野郎。』と、言いやがった。
…なんで?
初めはよく分からなかった。所謂、現実逃避だ。
だが、一週間も経てば実感が湧いてくる。僕の今までの人生が無意味なものになったことの。
ふざけるな!なんで、僕がこんな目に遭わなければいけないんだ!僕が何をしたと!?
なぜ、よりにもよって、今なんだ!?今から、やっと楽しめると、思った矢先に!
僕じゃない!僕はちゃんと規則に従った。この事故はアイツの自己責任だろう!?
それを、知り合いだからと僕に罪を擦り付けた。
…何がしたいんだ!?アイツはもう、死んでいるのに!なぜ生きている僕から幸せを奪うなどという無駄なことをするのだ!?
僕はもう、十分に苦しんだ!そして、やっとそれから解放されるだけの金を貯めた。
でも、もうそれも無意味だ。一生、刑務所暮らしだ。
…
…
もう、いいや。疲れた。
…僕は運が無かった。それだけだ。
…そう。
それだけ…
なんて、納得できればこんな人生、歩んでねえんだよ!ふざけるな!
いや、今、冷静になるんだ。僕は今から、アイツを追う。
僕の幸せを奪った、全ての元凶だ。
死んでも、追いかけ続けてやる。
僕の楽しみを奪ったんだ。お前は僕を、楽しませてくれるよなぁ!?
待っていろ、簡単には殺さない。まずは、僕と同じように、幸せになってもらわないとだ。
それから、絶望のどん底に突き落としてやる。
くはは、その顔を想像するだけで、笑いがこみあげてくる。
…待っていろ、絶対、絶対だ。
僕はそう決意して、自分の目を抉り出し、指を脳に突き刺して自殺した。
「面白い男ですね。これ程までの醜い『感情』、初めて見るかもしれません。」
…なんだ?死ねなかったのか?十分に脳を壊せたと思ったんだが。
「いいえ?あなたは死にました。…ここはあなたが望んでいた、死後の世界です。」
なんだと!?
「いよっしゃあああ!…で!?アイツは、一体どこにいるんだ!?」
幸先が良いな。これまでの不幸のツケが返ってきたのかもなぁ。
「あなたが探している男はもう転生しています。今は一人の子供ですね。」
「へえ、そいつは幸せなのか?もう、壊してもいいのか!?」
いいだろう?幸せなら、壊しても。もう、待ちきれないんだよ。
「そうですね。中々に幸せそうですが、やはりまだ子供なので。思春期まで待った方が、そいつの心を砕きやすいと思いますよ?」
うわぉ、ん?そういえば、この女は誰だ?容姿と言い、性格と言い、惚れそうなほど魅力的だ。
「なあ、あんたは何だ?まさか、閻魔様とか言わないよな?」
僕はおどけて見せる。
「そのようなわけがないでしょう。私とあのお方を比べるなど、失礼にも程がありますよ?」
…マジか。いるんだ、閻魔様。
「私はベルトリア。ただの一介の最高位悪魔に過ぎません。」
「悪魔!?…それも最高位の、ねぇ。なるほど、納得だ。僕が一目見ただけで魅了されてしまったのも、頷ける。」
「へあっ!?///」
ん?…もしかして、意外と初心なのか?顔を真っ赤にして、取り乱している。可愛いなぁ。この復讐が終わったら、この子を人生の目標にでもしようかな。…なんてね。
「ん、///こほん。揶揄わないでくださいよ。」
「揶揄ってはいないよ?本当だし、本気だとも。もっと君の事が知りたいとさえ思っている。…まあ、やることが終わってからだけどね。」
「え!?あ、えぅ、///もう、勘弁してください。」
打たれ弱いな。この最高位悪魔。
「まあ、それより、そこに僕も転生してくれない?僕の事も知ってるっぽいし、説明はいらないよね?」
「え?あぁ、そうですねぇ、ふむ。やはり、タダではできません。」
ほう、なんだと?
それは、貯金だ。
僕の所得はそれなりに良い方だ。そして、日々、節約に節約を重ねた。節電、節水はもちろん、服も普段使いしか持っていないし、住んでいる所は月五万のボロアパート。食費も切り詰めていた。娯楽だって、友人の家に行き、パーティーとかに混ぜて貰ったりして、自分では一切金を出さなかった。
…長かった。だが、それももう終わりだ。ようやく望みが叶えられる。
なぜ僕はこんなにも金を貯めていたのか、だって?
ふふふ、それはね…
これからの人生、遊びまくって終わりたかったのだ。
ああ、楽しみだ。
そうだな。まずは、回らない寿司屋に行ってみよう。子供の頃、親に連れて行ってもらった時以来だ。
楽しみだ。僕の人生はこれから始まるのだ!
僕は、ぼろっちい中古の車に乗って寿司屋に向かう。
しばらくして、信号に引っかかってしまった。このまま直進してしまいたい位だが、それではこれからの人生設計がおじゃんだ。僕は待つ。
…よし、青になったな。
僕はアクセルを踏む。もちろん速度は標識通りだ。つまり、安全運転。
…僕は、だったが。
僕の車の目の前に、おそらく高校生であろう男が、信号を無視して歩いてきた。
歩きスマホだ。
まずい!そう思った時にはもう遅かった。僕は力の限りブレーキを踏んだが、その時には男を轢いていた。
やっちまった…のか?僕が、悪いのか?
いきなり出てきた奴が悪いだろう!?スマホを見て、信号を無視した奴が!
結果から言うと、僕は殺人の罪で無期懲役になった。
多額の金をつぎ込んで弁護士を雇った。
だが、そいつは僕が轢いた男の知り合いだったらしい。見事に嵌められた。
しかも去り際に、『アイツの仇だ、クソ野郎。』と、言いやがった。
…なんで?
初めはよく分からなかった。所謂、現実逃避だ。
だが、一週間も経てば実感が湧いてくる。僕の今までの人生が無意味なものになったことの。
ふざけるな!なんで、僕がこんな目に遭わなければいけないんだ!僕が何をしたと!?
なぜ、よりにもよって、今なんだ!?今から、やっと楽しめると、思った矢先に!
僕じゃない!僕はちゃんと規則に従った。この事故はアイツの自己責任だろう!?
それを、知り合いだからと僕に罪を擦り付けた。
…何がしたいんだ!?アイツはもう、死んでいるのに!なぜ生きている僕から幸せを奪うなどという無駄なことをするのだ!?
僕はもう、十分に苦しんだ!そして、やっとそれから解放されるだけの金を貯めた。
でも、もうそれも無意味だ。一生、刑務所暮らしだ。
…
…
もう、いいや。疲れた。
…僕は運が無かった。それだけだ。
…そう。
それだけ…
なんて、納得できればこんな人生、歩んでねえんだよ!ふざけるな!
いや、今、冷静になるんだ。僕は今から、アイツを追う。
僕の幸せを奪った、全ての元凶だ。
死んでも、追いかけ続けてやる。
僕の楽しみを奪ったんだ。お前は僕を、楽しませてくれるよなぁ!?
待っていろ、簡単には殺さない。まずは、僕と同じように、幸せになってもらわないとだ。
それから、絶望のどん底に突き落としてやる。
くはは、その顔を想像するだけで、笑いがこみあげてくる。
…待っていろ、絶対、絶対だ。
僕はそう決意して、自分の目を抉り出し、指を脳に突き刺して自殺した。
「面白い男ですね。これ程までの醜い『感情』、初めて見るかもしれません。」
…なんだ?死ねなかったのか?十分に脳を壊せたと思ったんだが。
「いいえ?あなたは死にました。…ここはあなたが望んでいた、死後の世界です。」
なんだと!?
「いよっしゃあああ!…で!?アイツは、一体どこにいるんだ!?」
幸先が良いな。これまでの不幸のツケが返ってきたのかもなぁ。
「あなたが探している男はもう転生しています。今は一人の子供ですね。」
「へえ、そいつは幸せなのか?もう、壊してもいいのか!?」
いいだろう?幸せなら、壊しても。もう、待ちきれないんだよ。
「そうですね。中々に幸せそうですが、やはりまだ子供なので。思春期まで待った方が、そいつの心を砕きやすいと思いますよ?」
うわぉ、ん?そういえば、この女は誰だ?容姿と言い、性格と言い、惚れそうなほど魅力的だ。
「なあ、あんたは何だ?まさか、閻魔様とか言わないよな?」
僕はおどけて見せる。
「そのようなわけがないでしょう。私とあのお方を比べるなど、失礼にも程がありますよ?」
…マジか。いるんだ、閻魔様。
「私はベルトリア。ただの一介の最高位悪魔に過ぎません。」
「悪魔!?…それも最高位の、ねぇ。なるほど、納得だ。僕が一目見ただけで魅了されてしまったのも、頷ける。」
「へあっ!?///」
ん?…もしかして、意外と初心なのか?顔を真っ赤にして、取り乱している。可愛いなぁ。この復讐が終わったら、この子を人生の目標にでもしようかな。…なんてね。
「ん、///こほん。揶揄わないでくださいよ。」
「揶揄ってはいないよ?本当だし、本気だとも。もっと君の事が知りたいとさえ思っている。…まあ、やることが終わってからだけどね。」
「え!?あ、えぅ、///もう、勘弁してください。」
打たれ弱いな。この最高位悪魔。
「まあ、それより、そこに僕も転生してくれない?僕の事も知ってるっぽいし、説明はいらないよね?」
「え?あぁ、そうですねぇ、ふむ。やはり、タダではできません。」
ほう、なんだと?
0
あなたにおすすめの小説
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる