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#3 男同士のクリスマスイブ ~二人は愛し合ってはいない~
「イブの夜、空いてる?」
作家業の夕介(ゆうすけ)よりも
少し年下の友人の涼太(りょうた)から
そんなメッセージが来たのは
12月半ばのことだった。
これは遊びの誘いだろう。
男同士のノリを少しだけ含んでいるが、
恋愛的な綾は無い。
涼太のことはよくわかる。
今月は自身の仕事の進みが早く
連載の小説やエッセイの清書はすでに仕上がっていた。
いつもなら断るところだが「空いてる」と送信した。
普段は取材で出かけていて外出欲は満たしているし、
年始はテレビをかけてだらだらしつつも
営業メッセージの送信で
自宅マンションで時間を取られる。
でも安心して人と話す機会も関わる機会も無いので
気心知れた涼太の家なら行ってもいいと思った。
夏には涼太の犬の散歩のバイトで
毎朝通っていたし。
*
そしてクリスマスイブ。
飼っている"ちいかわ"に出て来そうな仔猫に
エサをあげて
微弱なエアコン暖房をつけて
ナーと言うように鳴く声を背に
自宅マンションを出る。
夕介のマンションは高級マンションではないため、
玄関のドアは電子ロックではなく
普通にキーを入れて回して鍵をかける方式だった。
キーには、かつて夕介が飼っていた犬「ミサ」に似た
犬のキーホルダーが付いていた。
今は亡くなって何年も経つが
夕介はミサのことを
決して忘れてはいなかった。
夜の訪れて来た、
涼太の家までの約10分程の道のりを歩きながら
ミサことミーちゃんと散歩した日々を思い出す。
冬のこの季節、この道は水車に長いつららが張っていた。
その時ミーちゃんはいつもと変わらず無駄吠えをせず
一緒に静かにトコトコ歩いていた。
想い出は美しいが、
いつも夕介の心の奥深く、どこかには
その亡くなった犬ミサが
暗い光として影を落としていた。
*
夕介と涼太は、
友達になりたい者同士をつなぐ
マッチングアプリで出会ったが、
夕介が今のように文章の仕事が
忙しくなる前のことで、
その頃は毎週のように遊んでいた。
涼太はすでにその頃から
仮想通貨の先行投資で儲け
実家で悠々とした生活を送っていた。
しかし夕介は、涼太と遊んでも
親しき仲にも礼儀ありで
たかったり、お金を出し渋ったりはしない。
車で出かける時は
夕介の車で彼が運転した。
ガソリン代は遠くに行く時くらいは
一部出してもらうこともあったが。
*
涼太の家でも用意はしてあるだろうが、
夕介はコンビニでイチゴの小さめなホールケーキを買って
持って行く。
青暗くでも星が綺麗な冬の夜空に、
刺すような寒さの中、
涼太の家に着くと
優しげな涼太の母が
いつものように出迎えてくれた。
奥には夏の間、バイトとして毎日一緒に散歩をした
座敷犬のポンタがいた。笑顔だった。
ミーちゃんの面影を見た。
涼太の部屋に入ると
彼はいつものように上下青いジャージを着ていた。
エアコンの暖房が効いており、
ダイソーの小さくてシックな黒の加湿器が
静かに白い水蒸気を上げている。
お金があるのにダイソーの加湿器を使う所が
涼太の経済観念の良い所だろう。
金があるからと使いまくっていては
人生いくらあっても足りない。
スマホのメッセージでは
予定のやりとりしかしていなかったので
「彼女とかはいないのか?」と訊いてみる夕介。
涼太は性に対する興味はあるものの、
別に執着は無いらしい。
家でゲームやサブスク映画の方が良いとのこと。
かといって恋愛経験が無い訳でもないと続けた。
夕介も、女の子をエスコートはできるが
気を遣うのがしんどいし、費用もかかる。
仕事に加えて余計な計算をするのも
さらにしんどいと自分の本音を吐露した。
そして小さめな四角いやわらかな木の色合いの
涼太の部屋のこたつテーブルに
彼の母親に渡さなかったイチゴのホールケーキを出して置く。
白いホイップクリームに真っ赤なイチゴが映える。
トートバッグから取り出した背景用の大きめな画用紙と
一般販売されている自身の小説のキャラクターのフィギュアを
いくつか並べてスマホで写真を撮った。
「趣味?」
涼太が怪訝な顔で尋ねる。
「仕事だ」
SNSを更新しないとな、と夕介が答える。
それから控えめにケーキを切って
涼太の両親にも持って行ってもらった。
その後、二人して
マリオカートや桃太郎電鉄、
スマブラをプレイする。
一位を目指して走りながらケーキを食べつつも
涼太は最近のAIがどれくらい進化しているかを
話してくれる。
文字ばかりを相手にしている作家の夕介には新鮮だ。
だが、別にそういう情報が得られるから
一緒にいるという訳ではない。
桃鉄のターンの合間に
涼太はAIに作らせたと言うホラー動画を見せてくれた。
夕介はヤバいの一言だった。でも笑った。
*
夕介は今月の仕事も一段落して、
気心知れた涼太の家で
二人で話しながらゲームをしつつ
小競り合いをしているこの時は
何物にも代えられない尊きものだと思っていた。
夕介はゲームは苦手だったが、
涼太とプレイするゲームはいつもとても楽しかった。
でも夕介はあまり涼太を友人とは意識していなかった。
真の友人とは切っても切れぬ糸のようなものではないだろうか。
そしてその永遠の間柄の者を親友と呼ぶ。
夕介は、涼太に対しては
執筆のスケジュールを組むパズルをするような
含む所は無く、礼儀をわきまえつつ
でも自然体で気楽に付き合っていた。
「チキンもあるよー」
涼太が優しい明るい声で言う。
「食べる」
夕介が穏やかに笑みをたたえて返事をした。
スマブラの合間に一緒に食べる
涼太が買って来てくれた
ファミチキはとてもおいしかった。
光を帯びた夜が更けていく。
つづく
作家業の夕介(ゆうすけ)よりも
少し年下の友人の涼太(りょうた)から
そんなメッセージが来たのは
12月半ばのことだった。
これは遊びの誘いだろう。
男同士のノリを少しだけ含んでいるが、
恋愛的な綾は無い。
涼太のことはよくわかる。
今月は自身の仕事の進みが早く
連載の小説やエッセイの清書はすでに仕上がっていた。
いつもなら断るところだが「空いてる」と送信した。
普段は取材で出かけていて外出欲は満たしているし、
年始はテレビをかけてだらだらしつつも
営業メッセージの送信で
自宅マンションで時間を取られる。
でも安心して人と話す機会も関わる機会も無いので
気心知れた涼太の家なら行ってもいいと思った。
夏には涼太の犬の散歩のバイトで
毎朝通っていたし。
*
そしてクリスマスイブ。
飼っている"ちいかわ"に出て来そうな仔猫に
エサをあげて
微弱なエアコン暖房をつけて
ナーと言うように鳴く声を背に
自宅マンションを出る。
夕介のマンションは高級マンションではないため、
玄関のドアは電子ロックではなく
普通にキーを入れて回して鍵をかける方式だった。
キーには、かつて夕介が飼っていた犬「ミサ」に似た
犬のキーホルダーが付いていた。
今は亡くなって何年も経つが
夕介はミサのことを
決して忘れてはいなかった。
夜の訪れて来た、
涼太の家までの約10分程の道のりを歩きながら
ミサことミーちゃんと散歩した日々を思い出す。
冬のこの季節、この道は水車に長いつららが張っていた。
その時ミーちゃんはいつもと変わらず無駄吠えをせず
一緒に静かにトコトコ歩いていた。
想い出は美しいが、
いつも夕介の心の奥深く、どこかには
その亡くなった犬ミサが
暗い光として影を落としていた。
*
夕介と涼太は、
友達になりたい者同士をつなぐ
マッチングアプリで出会ったが、
夕介が今のように文章の仕事が
忙しくなる前のことで、
その頃は毎週のように遊んでいた。
涼太はすでにその頃から
仮想通貨の先行投資で儲け
実家で悠々とした生活を送っていた。
しかし夕介は、涼太と遊んでも
親しき仲にも礼儀ありで
たかったり、お金を出し渋ったりはしない。
車で出かける時は
夕介の車で彼が運転した。
ガソリン代は遠くに行く時くらいは
一部出してもらうこともあったが。
*
涼太の家でも用意はしてあるだろうが、
夕介はコンビニでイチゴの小さめなホールケーキを買って
持って行く。
青暗くでも星が綺麗な冬の夜空に、
刺すような寒さの中、
涼太の家に着くと
優しげな涼太の母が
いつものように出迎えてくれた。
奥には夏の間、バイトとして毎日一緒に散歩をした
座敷犬のポンタがいた。笑顔だった。
ミーちゃんの面影を見た。
涼太の部屋に入ると
彼はいつものように上下青いジャージを着ていた。
エアコンの暖房が効いており、
ダイソーの小さくてシックな黒の加湿器が
静かに白い水蒸気を上げている。
お金があるのにダイソーの加湿器を使う所が
涼太の経済観念の良い所だろう。
金があるからと使いまくっていては
人生いくらあっても足りない。
スマホのメッセージでは
予定のやりとりしかしていなかったので
「彼女とかはいないのか?」と訊いてみる夕介。
涼太は性に対する興味はあるものの、
別に執着は無いらしい。
家でゲームやサブスク映画の方が良いとのこと。
かといって恋愛経験が無い訳でもないと続けた。
夕介も、女の子をエスコートはできるが
気を遣うのがしんどいし、費用もかかる。
仕事に加えて余計な計算をするのも
さらにしんどいと自分の本音を吐露した。
そして小さめな四角いやわらかな木の色合いの
涼太の部屋のこたつテーブルに
彼の母親に渡さなかったイチゴのホールケーキを出して置く。
白いホイップクリームに真っ赤なイチゴが映える。
トートバッグから取り出した背景用の大きめな画用紙と
一般販売されている自身の小説のキャラクターのフィギュアを
いくつか並べてスマホで写真を撮った。
「趣味?」
涼太が怪訝な顔で尋ねる。
「仕事だ」
SNSを更新しないとな、と夕介が答える。
それから控えめにケーキを切って
涼太の両親にも持って行ってもらった。
その後、二人して
マリオカートや桃太郎電鉄、
スマブラをプレイする。
一位を目指して走りながらケーキを食べつつも
涼太は最近のAIがどれくらい進化しているかを
話してくれる。
文字ばかりを相手にしている作家の夕介には新鮮だ。
だが、別にそういう情報が得られるから
一緒にいるという訳ではない。
桃鉄のターンの合間に
涼太はAIに作らせたと言うホラー動画を見せてくれた。
夕介はヤバいの一言だった。でも笑った。
*
夕介は今月の仕事も一段落して、
気心知れた涼太の家で
二人で話しながらゲームをしつつ
小競り合いをしているこの時は
何物にも代えられない尊きものだと思っていた。
夕介はゲームは苦手だったが、
涼太とプレイするゲームはいつもとても楽しかった。
でも夕介はあまり涼太を友人とは意識していなかった。
真の友人とは切っても切れぬ糸のようなものではないだろうか。
そしてその永遠の間柄の者を親友と呼ぶ。
夕介は、涼太に対しては
執筆のスケジュールを組むパズルをするような
含む所は無く、礼儀をわきまえつつ
でも自然体で気楽に付き合っていた。
「チキンもあるよー」
涼太が優しい明るい声で言う。
「食べる」
夕介が穏やかに笑みをたたえて返事をした。
スマブラの合間に一緒に食べる
涼太が買って来てくれた
ファミチキはとてもおいしかった。
光を帯びた夜が更けていく。
つづく
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