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第十六話 進化の道
忘れていたモノ
しおりを挟む楽しい、悲しい、苦しい、辛い、苛立ち、呆れ、心配、そして平穏。
それは彼が長い間忘れていたものだった。
ラグナロクのストイックな生活では、それらを感じる余裕もなかった。姉が亡くなってから、その思い出し方を忘れてしまっていた。
(……そうだった。感情って、こんなにあったんだな……)
バッファローにやってきて変わったこと。それにようやく気づいたジョーは、深く息を吐いた。それを見たナガレはニッと笑う。
「マスターの言う通りだ。……そして、オレは気づいてるぜ。お前とアリッサが無茶苦茶仲良くなったこともな」
「じょ~くぅ~ん……♡」
「え? …………どわ!」
ナガレに言われて、突然右肩の重さに気がついた。見ると、なんとアリッサが自分の肩に顎を乗せている! どキツイアルコールの匂いがツンと鼻をついた……。
(そ、そんなに長く話していたと言うのか⁉︎)
「ねぇジョーくぅ~ん。ちゅーしよ、ちゅー。らふらふこいびとみたいにべろからめてさぁ~えぃぉ♡」
顔は赤いしヨダレたれてるし、呂律もちゃんと回っていない。ガチ酔いの酩酊期だ。
「ねぇぉ~いいでしょぉ~ん?」
「え、ちょ……」
これが顔も知らない女であれば男女平等パンチでぶっ飛ばしていたが、居候している立場としては、ジョーはアリッサに強く出れない。助けを求めて周囲を見回すと……レンは瞬時に立ち上がって、ターショの目を両手で覆っていた。ここから先のシーンはお子様には刺激が強そうだ。
「う~わ~⁉︎」
「オラァ~! ナガレくぅん! 今度はウイスキーだァ~!」
「ワインもありまふよぉ~!」
突然ナガレの悲鳴が。振り向くとそこには、長身のアルクルとフローレンスに両肩を組まれ空中に吊り上げられた姿があった。足がちょっと浮くほど持ち上げられ、空中でバタバタともがいている。
「いぱーい飲みまひょ~よ♡」
「うえへぇ~い! ナガレくーん参上~!」
どうやら助けてくれるチャンスはなさそうだ。ならばアリッサと……決意を固めて振り向くと、アリッサが消えていた。
「……?」
「……おい、いくら酒に酔ってても、いい冗談と悪い冗談ってあるよな? 分かるよなぁ?」
「ご、ごぽごぽ。ごぽごぽごぽ」
……いつの間にかアリッサは椅子に座らされて、顔を上向きに固定されている。その口にルックがサイダーのボトルを突っ込みガン詰めするという、まるで拷問の様な光景が広がっていた。
「おいしいサイダーでも飲んで酔い覚ませよ。……飲めよ、バカ姉貴」
「ごぽごぽごぽ……ごぼぶっ」
恐怖で一気に酔いが覚めたアリッサは流石に謝ろうとしているが、ルックはそれを許さない。言葉では気遣った様子を見せているが、目が全く笑っていない。頬にはビキビキと血管が浮いていた。
「…………。……やれやれ、俺も変わったな」
シュバッ!
一人でそう締めて、高速のみでジョッキのサイダーを飲み干すジョー。それと同時にようやくアリッサは解放されて「はぁはぁ」と荒い息を吐いていた。
(……だが、これも悪くない)
こうして、賑やかな大晦日の夜は過ぎていった……。
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