この街で

天渡清華

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 食欲も性欲も満足させたシュウは、一糸まとわぬ姿でベッドにうつ伏せて鼻歌を歌いながら、スマートフォンをいじっている。
 ベッドルームもリビング同様、飾り気がない。ダブルベッドの横のサイドテーブルには、デジタルの置き時計とむき出しのままのボックスティッシュがあるだけだ。
「ずいぶんとご機嫌だな」
 全裸のまま飲み物を手に戻ってきたケンは、シュウの分のグラスをサイドテーブルに置いた。シュウはすかさずグラスを手に取り、何口か飲む。
「料理すげえうまかった、いいシェフ雇ったじゃん」
 みじん切りにした野菜が彩りよく散らされた魚介のカルパッチョ、上にかけられたソースの味も色も冴えていた牛肉のソテー、それにチーズとトマトだけの、シンプルな薄い生地のピザ。どれも見た目が美しく、なにより味がよく、細部まで気が配られていた。うまいものを食べ慣れている舌が、喜ぶのが分かった。
「俺、もう少し真面目に店出ようかな。そうすりゃ料理食えるし。あっ、セックスもよかったぜ」
 ごろりと仰向けになり、すぐそばに立っているケンを誘うような目で見上げる。シュウは、自分という商品の見せ方をよく分かっていた。
「ついでみたいに言うなよ」
 ケンは苦笑し、手に持っていたグラスの中身を一気に半分ほど飲むと、サイドテーブルに置いた。引き寄せられるようにシュウに覆いかぶさり、キスする。絡みあう身体が、二度目の快楽に沈んでいく。

 翌日の夕方、シュウは予定外だがHEAVENに顔を出した。
「お疲れさまです。シュウさん、今日は歌われますか?」
 親子ほど年の離れた店長が、シュウに丁重に声をかけてきた。シュウのステージは人気があり、男娼としての売上も常にトップクラスだ。それにケンとの関係もあって、ここでは特別扱いを受けている。
「うん。店長、急にごめんね」
 店長ももちろん、ケンに雇われている。この店はケンの先代の時代から、組織が経営する店の中でも別格で売り上げも多く、重要な収入源になっていた。
「大丈夫です、時間は取れますよ。ショーのタイムテーブルを楽屋にお持ちします」
 シュウが店に出るのは週に二、三日で、専用の楽屋を持っていた。一晩に二回ほどステージに出て、合間に客のテーブルについたり、個室で客を取る。出勤しない日や昼間は、「出張」で客の相手をしていた。ほとんどが常連の指名客で、定期的に呼んでくれるいわゆる太い客を何人もしっかりとキープしている。
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