この街で

天渡清華

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 変態でごめんな、とキヨヒトは笑った。これまで触れることのなかった秘密をさらりと明かしながらも、華やかに。
「なんですか、それ」
 シュウは上目づかいにキヨヒトを見ながら、くすくす笑ってみせた。
「じゃあ、これまで一人で歌ってきたのは……?」
 反応を探るようにゆっくり言うと、キヨヒトは包みこんでいたシュウの手を何度も軽く指先でたたいて、にやりと笑った。シュウは内心、自分の返しが間違いではなかったことにほっとする。
「ま、そういうことだ。人前でパフォーマンスするって、結局そういうことだろ? ただの独りよがりに終わるのか、自分の楽しさや快感に周りも共感してくれるのか」
 思い浮かぶのは、公園で歌っていた時のホームレス達の笑顔。クラブのステージから見る、客の笑顔。それがもっともっと、自分の歌の力で増える、ということか。うまく想像できない。
「まあとにかく、最初は難しく考えないで、楽しんで歌ってくれればいいんだ」
 こくりと、シュウはうなずいた。
「返事は、じっくり考えてからでいいからな。また店にも行くから」
 これまでさんざん自分に金を注ぎこんでおきながら、それでも強要はせず返事を待つという。とんでもない人だ。圧倒されながら、少し動悸のする胸を押さえる。
「はい。最近めちゃくちゃうまい、イタリアンのシェフが入ったんですよ」
 そう言って、ぎこちなく笑顔を作るのが精一杯だった。ダイスケの控えめな微笑みを思い出す。今頃、ラストオーダーで忙しくしているだろうか。なんとなく、顔が見たくなる。
「そうか、それは楽しみだな」
 優しい笑顔を浮かべながら、キヨヒトは手つかずだったタルトに手をつけた。
「さあ、これを平らげたらそろそろ帰ろう」
 シュウは内心、話を受けようと決めていた。だがやっぱり少し、一人で落ち着いていろいろ考える時間が欲しい。
 ケンにはしばらく、黙っていよう。どうせ反対されるに決まっている。
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