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シュウはケンが来たことには当然気づいているはずだ。しかし、ケンが部屋に入ってきても反応せず、青白い顔で布団に埋もれ、すぐ右側の壁の方を見て黙っている。抱きしめたいと思っても、伸ばした腕が跳ね返されてしまいそうな雰囲気だ。
傷は、首の右側と左の二の腕。包帯がやけに白く、シュウが華奢なだけによけいに痛々しい。銃弾がかすった程度の浅い傷だが、出血はそのわりに多かったようで、左腕に点滴が繋がれている。明らかに、殺せるのにあえてはずした、プロの仕業だ。
ケンは空いている方の椅子に座った。なにを言うべきか、言葉が浮かばない。シュウもケンの方を見ないまま、沈黙が続く。
部屋に入るまでは、心配で心配でどうにかなりそうだった。それなのに今、ケンは逃げ出した言葉達をかき集めることもできず、シュウの横顔を見つめながらただ座っている。途方に暮れている、と言ってもいい。
「……カズキも刺されたらしいけど、それと俺の件は関係あるのか?」
沈黙を破ったシュウの言葉は、ケンの耳に冷たく響いた。
「まだ、分からねえ」
シュウは小さくため息をつく。
「とんだデビュー祝いだな。これで俺が最初から表に出るんだったら、さすがにお前だってタダじゃ済まなかったぜ」
今日は十月二十三日。シュウがキヨヒトとデュエットしたデビュー曲のリリースまで、二日しかない。
「お前を撃った敵は潰すさ」
ケンがさらりと言い切ると、シュウの目がようやくケンに向いた。感情のない、少し潤んだ瞳でケンを見据える。撃たれたショックとダメージのせいか、泣き明かした後のような顔だ。
「……そういうの、もういいや」
さも興味なさそうにつぶやくシュウ。ボスとして強くあろうとするケンの心を、誰よりもあっさり、深々と傷つける。撃たれたことで、この街や自分の境遇が心底嫌になったのかも知れない。
そういうのとは、なんだ。それこそが生きる理由なのに。そう思っても言葉にできず、聞き流したふりをする。苦しい。
「銃の傷は熱が出る。しばらくはしっかり世話してやるから、ここで寝てろ。ここにいることは人には教えるな」
したいのは、こんな話ではない。がらんとした部屋でかすかに響いて聞こえる自分の声が、言うそばから凍てついていくようだ。
「だったら、ここに店の料理、持ってこれるか? ダイスケさんの料理が食いたい」
「それは無理だな」
即答し、ケンは立ち上がった。これ以上、この部屋にシュウと二人きりでいることに耐えられそうにない。
「できんだろ、同じビルなんだから」
シュウはむくれた。自分で頼もうというのか、椅子の上のスマートフォンをつかむ。
「無理だ」
短く答え、ベッドルームを出ようとするケン。
傷は、首の右側と左の二の腕。包帯がやけに白く、シュウが華奢なだけによけいに痛々しい。銃弾がかすった程度の浅い傷だが、出血はそのわりに多かったようで、左腕に点滴が繋がれている。明らかに、殺せるのにあえてはずした、プロの仕業だ。
ケンは空いている方の椅子に座った。なにを言うべきか、言葉が浮かばない。シュウもケンの方を見ないまま、沈黙が続く。
部屋に入るまでは、心配で心配でどうにかなりそうだった。それなのに今、ケンは逃げ出した言葉達をかき集めることもできず、シュウの横顔を見つめながらただ座っている。途方に暮れている、と言ってもいい。
「……カズキも刺されたらしいけど、それと俺の件は関係あるのか?」
沈黙を破ったシュウの言葉は、ケンの耳に冷たく響いた。
「まだ、分からねえ」
シュウは小さくため息をつく。
「とんだデビュー祝いだな。これで俺が最初から表に出るんだったら、さすがにお前だってタダじゃ済まなかったぜ」
今日は十月二十三日。シュウがキヨヒトとデュエットしたデビュー曲のリリースまで、二日しかない。
「お前を撃った敵は潰すさ」
ケンがさらりと言い切ると、シュウの目がようやくケンに向いた。感情のない、少し潤んだ瞳でケンを見据える。撃たれたショックとダメージのせいか、泣き明かした後のような顔だ。
「……そういうの、もういいや」
さも興味なさそうにつぶやくシュウ。ボスとして強くあろうとするケンの心を、誰よりもあっさり、深々と傷つける。撃たれたことで、この街や自分の境遇が心底嫌になったのかも知れない。
そういうのとは、なんだ。それこそが生きる理由なのに。そう思っても言葉にできず、聞き流したふりをする。苦しい。
「銃の傷は熱が出る。しばらくはしっかり世話してやるから、ここで寝てろ。ここにいることは人には教えるな」
したいのは、こんな話ではない。がらんとした部屋でかすかに響いて聞こえる自分の声が、言うそばから凍てついていくようだ。
「だったら、ここに店の料理、持ってこれるか? ダイスケさんの料理が食いたい」
「それは無理だな」
即答し、ケンは立ち上がった。これ以上、この部屋にシュウと二人きりでいることに耐えられそうにない。
「できんだろ、同じビルなんだから」
シュウはむくれた。自分で頼もうというのか、椅子の上のスマートフォンをつかむ。
「無理だ」
短く答え、ベッドルームを出ようとするケン。
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