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「俺は間違えた。途中でそれに気づいても、もう今さら本当のことなんか言えなかった。いや、言えねえと思っちまったんだ。ボスとしてあり続けて、お前に贅沢をさせたりシマを守るのが、お前のためだと思った」
シュウの目にたまっていた涙が、ゆっくりと流れ落ちる。
「お前がダイスケのことを忘れなくてもいい。ダイスケのことも、これからのこともお前の思うとおりにするから、俺のそばにいてくれないか……?」
シュウは呆然としたまま、ケンの髪に触れた。瞳が揺れ、動揺している。
「つまり俺はずっと、お前の気持ちを踏みにじってきたのか……」
つぶやきが頼りなく漂う。
「だけど、お前はそれでいいのか?」
まだ呆けているような声。無意識なのだろうが、その言葉はダイスケを忘れないことを前提としている。ケンはうつむき、ひっそりと微笑んだ。少しの間の後、顔を上げてうなずく。
あれだけ切実に求めて得られなかったものを、そう簡単に忘れられるわけがない。抱かれなかったからこそ、ダイスケはシュウの中に強く残るはずだ。それなら、子供じみた独占欲は捨てて、本当の意味でそんなシュウを包容できる男になろう。
「バカだな、お前」
シュウはうつむいた。その拍子にあごをしたたり落ちる涙。泣きすぎて、首筋も着ているTシャツの襟もとも濡れている。シュウの膝に手をかけたまま、ケンはじっとシュウの言葉を待った。
「……ごめん、ちょっと考えさせてくれ。すぐ返事すんのは無理だ、ごめん」
ごしごしと腕で目のあたりを拭きながら、シュウ。とまどい、混乱してすぐに返事できないのは当然だ。
「分かった、待ってる。ただ……」
言うべきか迷い、ケンはシュウの膝に置いた手に力をこめた。
「ただ、なんだよ?」
「俺は今回シマを荒らした黒幕に、俺自身切りこんで決着をつけてやろうと思ってる。もしそれで俺になにかあっても、お前は気にせず生きていってくれ。俺のことを気に病まないでくれ」
瞳だけを上げて、シュウは少し笑った。
「なんか、さっきの俺と似たようなこと言ってるな」
ケンは、小さく弱く見えるシュウを抱きしめたかったが、思いとどまった。シュウの答えを待ちたかった。
「ケン、生きてくれ。動く前からそんなことを言うなんて、お前らしくねえぞ。返事もできなくなっちまう」
いつもの調子で、シュウはケンの肩を強くたたく。目は泣き腫らし、鼻先も赤くなっていたが、涙で濡れた顔が窓から差しこむ光に輝くのを、ケンはきれいだと感じた。
「そうだな、強気でいかないとな」
ケンは立ち上がった。生きてりゃ、なんとかなる。思えば、ずっとそんな感じで生きてきた。これからも、生きなければ。
「ケン、俺はやるぞ。キヨヒトさんの力を借りて世に出て、店の客なんて目じゃねえぐらいのファンを作ってやる」
力を取り戻した瞳で、シュウはケンを見上げる。
「おう、やってやれ。俺もやってやる。お互い、しぶとく生きていこうぜ」
うなずきあうと、ケンは部屋を出た。二人で励ましあっていた、子供の頃に戻れたような気がした。
ふたり、これから生きる場所が違ってもいい。とにかく今は抗争を乗り越えて、生きることを考えよう。
シュウの目にたまっていた涙が、ゆっくりと流れ落ちる。
「お前がダイスケのことを忘れなくてもいい。ダイスケのことも、これからのこともお前の思うとおりにするから、俺のそばにいてくれないか……?」
シュウは呆然としたまま、ケンの髪に触れた。瞳が揺れ、動揺している。
「つまり俺はずっと、お前の気持ちを踏みにじってきたのか……」
つぶやきが頼りなく漂う。
「だけど、お前はそれでいいのか?」
まだ呆けているような声。無意識なのだろうが、その言葉はダイスケを忘れないことを前提としている。ケンはうつむき、ひっそりと微笑んだ。少しの間の後、顔を上げてうなずく。
あれだけ切実に求めて得られなかったものを、そう簡単に忘れられるわけがない。抱かれなかったからこそ、ダイスケはシュウの中に強く残るはずだ。それなら、子供じみた独占欲は捨てて、本当の意味でそんなシュウを包容できる男になろう。
「バカだな、お前」
シュウはうつむいた。その拍子にあごをしたたり落ちる涙。泣きすぎて、首筋も着ているTシャツの襟もとも濡れている。シュウの膝に手をかけたまま、ケンはじっとシュウの言葉を待った。
「……ごめん、ちょっと考えさせてくれ。すぐ返事すんのは無理だ、ごめん」
ごしごしと腕で目のあたりを拭きながら、シュウ。とまどい、混乱してすぐに返事できないのは当然だ。
「分かった、待ってる。ただ……」
言うべきか迷い、ケンはシュウの膝に置いた手に力をこめた。
「ただ、なんだよ?」
「俺は今回シマを荒らした黒幕に、俺自身切りこんで決着をつけてやろうと思ってる。もしそれで俺になにかあっても、お前は気にせず生きていってくれ。俺のことを気に病まないでくれ」
瞳だけを上げて、シュウは少し笑った。
「なんか、さっきの俺と似たようなこと言ってるな」
ケンは、小さく弱く見えるシュウを抱きしめたかったが、思いとどまった。シュウの答えを待ちたかった。
「ケン、生きてくれ。動く前からそんなことを言うなんて、お前らしくねえぞ。返事もできなくなっちまう」
いつもの調子で、シュウはケンの肩を強くたたく。目は泣き腫らし、鼻先も赤くなっていたが、涙で濡れた顔が窓から差しこむ光に輝くのを、ケンはきれいだと感じた。
「そうだな、強気でいかないとな」
ケンは立ち上がった。生きてりゃ、なんとかなる。思えば、ずっとそんな感じで生きてきた。これからも、生きなければ。
「ケン、俺はやるぞ。キヨヒトさんの力を借りて世に出て、店の客なんて目じゃねえぐらいのファンを作ってやる」
力を取り戻した瞳で、シュウはケンを見上げる。
「おう、やってやれ。俺もやってやる。お互い、しぶとく生きていこうぜ」
うなずきあうと、ケンは部屋を出た。二人で励ましあっていた、子供の頃に戻れたような気がした。
ふたり、これから生きる場所が違ってもいい。とにかく今は抗争を乗り越えて、生きることを考えよう。
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