文字の大きさ
大
中
小
9 / 31
王子さまはごちそう?
9
:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+:-・:+::+:-・:+:-・:+:
小さな王子さまの巻き起こす騒動がどんな感じなのかが分かる、とあるできごとをお話しましょう。
ある日のことでした。冥王さまの狩猟の旅に、王子さまもついていくことになりました。
魔獣がたくさん暮らしている野原で、狩猟大会が催されるのです。
冥王さまは今回も、王宮から選りすぐりの魔族の騎士たちをつれて行きます。
それ以外にも、冥界のほうぼうから有力な魔族の氏長たちが呼び集められて、楽しい狩り大会が開かれました。
狩猟大会の開かれるところは、冥界の中でもとりわけ景色のよい場所です。河が流れ、岩山があり、いろいろな植物が生えていました。そこは魔獣界と呼ばれる、地底にひろがる平原でした。
広い野原に、冥王さまのための本陣が設えられました。
獣のなめし皮でつくられた野営用の天幕が設置され、薪ストーブが焚かれ、王さまが狩りの様子を見学できるよう、天幕の一部は野原に向けて開け放たれていました。
中央の指揮卓には地形図が広げられ、りっぱな鎖かたびらを着た騎士たちが次々に出入りして、冥王さまと何か打ち合わせをしています。
王子さまはまだ小さく狩りには参加できないので、おとなしく椅子にすわって足をブラブラさせていました。けれどもだんだんとその場所にいるのに飽きてきました。だって、小動物ですら草むらを自由に跳ねまわっているのに、自分だけは「天幕から出てはいけない」と言われていたからです。せっかく久しぶりに冥王宮のお外に出たのに、ずっと天幕の中で見学なんて、つまらなすぎます。
王子さまのご機嫌をとろうと、死の精霊たちがふわふわ目の前で踊りましたが、それらがフワフワ浮遊しているのはいつものことですし、たいした慰めにはなりません。王子さまは天幕のお外で遊びたかったのです。
そのうちに冥王さまは騎士たちに呼ばれ、天幕をほんの少し離れました。お父さまは黒い天馬にまたがり、
「ナシェルや、すぐ戻るから、おりこうさんにしているんだよ」
と言って馬を走らせていってしまいました。
お父さまのお姿が遠目でも見られればよかったのですが、あいにくとすぐに見失ってしまいました。王さまは広い狩場のどこにいるやら、平原の向こうで土煙があがるばかりで、そのお姿はどこにも探せません。
おとなたちの遊びについてきたのだから仕方ないのですが、子どもにしてみたらカヤの外みたいで、こんなつまらないことってありませんよね。
「何かないかなぁ……」
天幕の中でうろうろしていると、不意に入口とは反対側の天幕の一部がぱたぱたと動きました。天幕はところどころ掛け杭で地面に固定されているので、ちょっとしか開きませんでしたけども。
だれかの指先がのぞいて、つんつんとカーペットをつつきました。
「おーい、ナシェル? いるか?」
天幕の外の地べたから聞こえるその声は、乳兄弟で友だちのヴァニオンでした。
彼のお母さんは王子さまの乳母殿です。そして彼のお父さんは、冥王さまに最初に従った九人の魔族のひとりです。冥王さまにもっとも近い臣下として、この狩猟大会にも参加しています。
「ヴァニオン。そんなところで何してるの?」
王子さまは驚いて天幕のカーテンを持ち上げようとしましたが、固定杭がひっかかって開きません。
「父さんに黙ってついてきたんだ」
「どうやって?」
「天幕の収納箱に潜り込んで隠れてきたのさ。中に入れてくれよぅ~」
王子さまは、入口のほうを見ました。入口には騎士がふたり立っています。
「待って、ぼくがそっちにいく」
王子さまは用を足したいと兵士に言って、天幕の外へ出ました。天幕の横側に回ってゴソゴソと、半ズボンを下げるそぶりをしていると、騎士がこちらを見張っているのに気づきました。
「はずかしいから、あっち向いてて!」
「あっすみません、王子殿下」
騎士が慌てて向こうへ向き直り、直立不動の体勢をとると、その間に王子さまはサッと、騎士から見えない天幕の裏側まで回りました。
小さな王子さまの巻き起こす騒動がどんな感じなのかが分かる、とあるできごとをお話しましょう。
ある日のことでした。冥王さまの狩猟の旅に、王子さまもついていくことになりました。
魔獣がたくさん暮らしている野原で、狩猟大会が催されるのです。
冥王さまは今回も、王宮から選りすぐりの魔族の騎士たちをつれて行きます。
それ以外にも、冥界のほうぼうから有力な魔族の氏長たちが呼び集められて、楽しい狩り大会が開かれました。
狩猟大会の開かれるところは、冥界の中でもとりわけ景色のよい場所です。河が流れ、岩山があり、いろいろな植物が生えていました。そこは魔獣界と呼ばれる、地底にひろがる平原でした。
広い野原に、冥王さまのための本陣が設えられました。
獣のなめし皮でつくられた野営用の天幕が設置され、薪ストーブが焚かれ、王さまが狩りの様子を見学できるよう、天幕の一部は野原に向けて開け放たれていました。
中央の指揮卓には地形図が広げられ、りっぱな鎖かたびらを着た騎士たちが次々に出入りして、冥王さまと何か打ち合わせをしています。
王子さまはまだ小さく狩りには参加できないので、おとなしく椅子にすわって足をブラブラさせていました。けれどもだんだんとその場所にいるのに飽きてきました。だって、小動物ですら草むらを自由に跳ねまわっているのに、自分だけは「天幕から出てはいけない」と言われていたからです。せっかく久しぶりに冥王宮のお外に出たのに、ずっと天幕の中で見学なんて、つまらなすぎます。
王子さまのご機嫌をとろうと、死の精霊たちがふわふわ目の前で踊りましたが、それらがフワフワ浮遊しているのはいつものことですし、たいした慰めにはなりません。王子さまは天幕のお外で遊びたかったのです。
そのうちに冥王さまは騎士たちに呼ばれ、天幕をほんの少し離れました。お父さまは黒い天馬にまたがり、
「ナシェルや、すぐ戻るから、おりこうさんにしているんだよ」
と言って馬を走らせていってしまいました。
お父さまのお姿が遠目でも見られればよかったのですが、あいにくとすぐに見失ってしまいました。王さまは広い狩場のどこにいるやら、平原の向こうで土煙があがるばかりで、そのお姿はどこにも探せません。
おとなたちの遊びについてきたのだから仕方ないのですが、子どもにしてみたらカヤの外みたいで、こんなつまらないことってありませんよね。
「何かないかなぁ……」
天幕の中でうろうろしていると、不意に入口とは反対側の天幕の一部がぱたぱたと動きました。天幕はところどころ掛け杭で地面に固定されているので、ちょっとしか開きませんでしたけども。
だれかの指先がのぞいて、つんつんとカーペットをつつきました。
「おーい、ナシェル? いるか?」
天幕の外の地べたから聞こえるその声は、乳兄弟で友だちのヴァニオンでした。
彼のお母さんは王子さまの乳母殿です。そして彼のお父さんは、冥王さまに最初に従った九人の魔族のひとりです。冥王さまにもっとも近い臣下として、この狩猟大会にも参加しています。
「ヴァニオン。そんなところで何してるの?」
王子さまは驚いて天幕のカーテンを持ち上げようとしましたが、固定杭がひっかかって開きません。
「父さんに黙ってついてきたんだ」
「どうやって?」
「天幕の収納箱に潜り込んで隠れてきたのさ。中に入れてくれよぅ~」
王子さまは、入口のほうを見ました。入口には騎士がふたり立っています。
「待って、ぼくがそっちにいく」
王子さまは用を足したいと兵士に言って、天幕の外へ出ました。天幕の横側に回ってゴソゴソと、半ズボンを下げるそぶりをしていると、騎士がこちらを見張っているのに気づきました。
「はずかしいから、あっち向いてて!」
「あっすみません、王子殿下」
騎士が慌てて向こうへ向き直り、直立不動の体勢をとると、その間に王子さまはサッと、騎士から見えない天幕の裏側まで回りました。
感想 0
あなたにおすすめの小説
『バロン秘密結社』の仲間たち 〈Ⅳ〉― 小さな密航者 ー
金太のクラスに新しく転校生がやって来た。
その転校生は意外なことにあの河合老人の孫だったのだ。
ニューヨークから帰国したのだが、スーツケースにとんでもない物が紛れ込んでいた。それは目を疑うくらいの小さなおじさんだった。
ロビンの仲間はその小さなおじさんをアメリカに帰すように奮闘するのだった。
オカルト掲示板
【オカルト板】関東地方の怖い噂について語ろう★
1 :名無し:20XX/05/11(月) 22:05:12 ID:abcd1234
皆さん、こんばんは。怖い噂とは違うかもしれないんですが、私が住んでいる町にはおかしな石の神様がいるんです……
少年騎士
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
星降る夜に落ちた子
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
夏休み ユナちゃんの小さな冒険物語
ユナちゃんは小学校3年生の内気な女の子。夏休みのある日、コンビニへ買い物に行くと一匹の猫と出会う。ひょんなことからユナちゃんはその猫ちゃんと小さな冒険をしてみる事になった。
たった5~6時間の出来事を綴った物語です。ユナちゃんは猫ちゃんとどんな小さな冒険をしたのでしょうか・・・
読んで頂けたら幸いです。
くじらのポスト
広い海の底には、小さな郵便局があります。
そこで働く郵便局員のくじらさんのもとには、ある日突然、大切な人と離ればなれになってしまった子どもたちがやってきます。
くじらさんの仕事は、おうちの人が託した「だいすき」や「ありがとう」の手紙を、一人ひとりに届けること。
お母さんに怒られてばかりだと思っていた子。
おじいちゃんにもう一度会いたいと願う子。
自分は愛されていなかったのではないかと苦しむ子。
さまざまな思いを抱えた子どもたちは、一通の手紙とくじらさんの優しい言葉に触れながら、本当の愛を知っていきます。
これは、言えなかった「大好き」を手紙にのせて届ける、海の底の郵便局の物語です。