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王子さまはごちそう?
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さきほどの小川をぴょんと飛び越えると、あとはもう、けもの道らしき道もありません。しげみはさらに深くなりました。草花の背丈は、ちょうど二人の肩ぐらいまであります。
木の汁のにおいでしょうか? さきほどから甘ったるい匂いがあたり一面に漂っているような気がしました。
一歩先を行っていたヴァニオンが、こちらを振り返り奇妙な顔をしました。
「ナシェル、なんかこのあたりの草、動いてないか?」
「うん、さっきからぼくの足を触ってきてる」
「いや、そういうことじゃなくて。根っこごと地面を移動してきてないかってこと。茂ってない方向をえらんで歩いてきたはずなのに…囲まれてる?」
そう言われて王子さまもあたりを見渡します。花たちはぴたりと動きをとめたため、王子さまにはハッキリとは分かりませんでした。
ところがよくよく耳をすますと、クスクス、クスクスと押し殺した笑い声が聞こえてきたのです。
「誰?」
王子さまは四方を見渡しながら尋ねました。すると茂みのあちこちから同じように
「誰?」「だれだ?」「だれなの?」「ダレ?」
と無数の声に問い返されたのです。優しい甘い声でしたが、少し楽しんでいるような感じもします。
王子さまはぴんと背筋をのばし、正々堂々と名乗りました。
「ぼくは冥王の子ナシェル。きみたちは誰なの?」
「冥王の子だって!」「とんだ収穫だね」「すごいごちそう」…
そんな声がひそひそと聞こえてきます。生き物の気配は他にありません。
どうやらその声は、草むらの奥のほうで、花たちが話している声のようです。
やっぱりぼくの思った通り、言葉をしゃべる花だったんだ、と王子さまは納得しつつ、ヴァニオンを見ました。ヴァニオンもこちらを神妙に見つめています。
花たちはこう言いませんでしたか?
「すごいごちそう」。
つまり、ヴァニオンが言っていたのも正しくて、ここの花々はしゃべる上に、生き物を食べるのです。王子さまとヴァニオンのことも、捕えて食べるつもりなのでしょう。
こちらはとんでもない、ごちそうになる気はありません。
そして王子さまは、冥王さまの子ですから、勇敢なところを見せなければなりません。
ですから腰に差した小さな短剣を抜きました。お父さまから預かった護身用の短剣です。これまでは、からまった紐ぐらいしか切ったことがありませんでしたけども。
ヴァニオンも同様に腰の剣を抜いて王子さまの前に立ちました。
「ナシェル、下がってて! この花たち、やばい」
でも、下がってと言われてもどこに下がればいいのでしょう。周囲はすっかり取り囲まれているのに?
花たちは下草をユラユラと揺らしながら二人を捕まえようとします。
ヴァニオンが、剣で草をなぎ払おうとしました。けれど草はヴァニオンの剣に絡みついて、身動きを封じます。
「あれ、この草、斬れないぞ!」
ヴァニオン少年は剣にからまった草をひっぱりながら叫びます。急に草花の背丈が高くなり、いよいよ周囲がなにも見えなくなりました。王子さまは、この草花がぜんぶ元はひとつの根っこで繋がっているのではないかしら? と思い始めました。だとしたら、とてつもない大きさの化け物です。この森全体がやばいのだとすると……おとなたちの言うとおり、絶対に入ってはいけないハズです。
「草を斬るのはキリがないし無理だよ、ヴァニオン。剣は捨ててとにかく逃げよう」
「捨てるのも無理だよ、見てくれ! 手にも巻き付かれてる!」
ヴァニオンの手は、剣を握りしめたまま、伸びてきた草にぐるぐると巻き取られているではありませんか。
「あれ、コレもしかしておれ、捕まってるんじゃない?」
「待ってて! ぼくがやってみる」
横から短剣を振り下ろすと、ザシュ、という音とともに草が切れ、舞い散ります。ぎゃっ、という声がどこかから聞こえたような気がしました。
「あ、斬れた!?」
王子さまは意外な切れ味にビックリして、自分の短剣をまじまじと見ました。ヴァニオンが手首に巻き付いた草を叩き落としながら首をかしげます。
「俺の剣じゃ、ぜんぜん斬れないのになんで?」
「分からない。とにかくここから出よう」
木の汁のにおいでしょうか? さきほどから甘ったるい匂いがあたり一面に漂っているような気がしました。
一歩先を行っていたヴァニオンが、こちらを振り返り奇妙な顔をしました。
「ナシェル、なんかこのあたりの草、動いてないか?」
「うん、さっきからぼくの足を触ってきてる」
「いや、そういうことじゃなくて。根っこごと地面を移動してきてないかってこと。茂ってない方向をえらんで歩いてきたはずなのに…囲まれてる?」
そう言われて王子さまもあたりを見渡します。花たちはぴたりと動きをとめたため、王子さまにはハッキリとは分かりませんでした。
ところがよくよく耳をすますと、クスクス、クスクスと押し殺した笑い声が聞こえてきたのです。
「誰?」
王子さまは四方を見渡しながら尋ねました。すると茂みのあちこちから同じように
「誰?」「だれだ?」「だれなの?」「ダレ?」
と無数の声に問い返されたのです。優しい甘い声でしたが、少し楽しんでいるような感じもします。
王子さまはぴんと背筋をのばし、正々堂々と名乗りました。
「ぼくは冥王の子ナシェル。きみたちは誰なの?」
「冥王の子だって!」「とんだ収穫だね」「すごいごちそう」…
そんな声がひそひそと聞こえてきます。生き物の気配は他にありません。
どうやらその声は、草むらの奥のほうで、花たちが話している声のようです。
やっぱりぼくの思った通り、言葉をしゃべる花だったんだ、と王子さまは納得しつつ、ヴァニオンを見ました。ヴァニオンもこちらを神妙に見つめています。
花たちはこう言いませんでしたか?
「すごいごちそう」。
つまり、ヴァニオンが言っていたのも正しくて、ここの花々はしゃべる上に、生き物を食べるのです。王子さまとヴァニオンのことも、捕えて食べるつもりなのでしょう。
こちらはとんでもない、ごちそうになる気はありません。
そして王子さまは、冥王さまの子ですから、勇敢なところを見せなければなりません。
ですから腰に差した小さな短剣を抜きました。お父さまから預かった護身用の短剣です。これまでは、からまった紐ぐらいしか切ったことがありませんでしたけども。
ヴァニオンも同様に腰の剣を抜いて王子さまの前に立ちました。
「ナシェル、下がってて! この花たち、やばい」
でも、下がってと言われてもどこに下がればいいのでしょう。周囲はすっかり取り囲まれているのに?
花たちは下草をユラユラと揺らしながら二人を捕まえようとします。
ヴァニオンが、剣で草をなぎ払おうとしました。けれど草はヴァニオンの剣に絡みついて、身動きを封じます。
「あれ、この草、斬れないぞ!」
ヴァニオン少年は剣にからまった草をひっぱりながら叫びます。急に草花の背丈が高くなり、いよいよ周囲がなにも見えなくなりました。王子さまは、この草花がぜんぶ元はひとつの根っこで繋がっているのではないかしら? と思い始めました。だとしたら、とてつもない大きさの化け物です。この森全体がやばいのだとすると……おとなたちの言うとおり、絶対に入ってはいけないハズです。
「草を斬るのはキリがないし無理だよ、ヴァニオン。剣は捨ててとにかく逃げよう」
「捨てるのも無理だよ、見てくれ! 手にも巻き付かれてる!」
ヴァニオンの手は、剣を握りしめたまま、伸びてきた草にぐるぐると巻き取られているではありませんか。
「あれ、コレもしかしておれ、捕まってるんじゃない?」
「待ってて! ぼくがやってみる」
横から短剣を振り下ろすと、ザシュ、という音とともに草が切れ、舞い散ります。ぎゃっ、という声がどこかから聞こえたような気がしました。
「あ、斬れた!?」
王子さまは意外な切れ味にビックリして、自分の短剣をまじまじと見ました。ヴァニオンが手首に巻き付いた草を叩き落としながら首をかしげます。
「俺の剣じゃ、ぜんぜん斬れないのになんで?」
「分からない。とにかくここから出よう」
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