17 / 18
シークレット・ラスト4
しおりを挟む
コンコン。
病室のドアをノックするとはい、と返事があった。三人が二人きりにしてくれる。
麻子は病室に足を踏み入れた。
記憶が呼び戻そうとしているのか。
先ほどから激しい頭痛がする。
知っている。
自分はこの人を知っている気がする。
思い出せ。
思い出せ。
徐々に霧がとれて晴れやかになっていく。
本来の自分を取り戻していく。
――麻子。
懐かしい声。
聞きたかった声。
蘇る楽しかった思い出。
そして、愛しい人。好きだよと言ってくれる笑顔。
――そうだ。
私は中田麻子。
目の前にいるのは私の大切な人だわ。
封印されていた記憶が戻ってきた。
薬も実験の始まりだったみたいで、そこまで、投与されていなかったことが大きいだろう。だからこうしてすぐに記憶を取り戻すことができたのである。記憶を取り戻すことができていなかったら、自分は殺人鬼が廃人になっていたるだろう。
それを、打ち破ることができたのは麻子の生きたいという強い気持ちがあったからこそ。
やはり、強い子だ。
「昴!」
「――うん」
「昴!」
麻子は何回も昴の名前を呼ぶ。
生きていることを確かめるように。
「おいで、麻子」
彼は両手を広げた。
傷の痛みなどどうでもいい。
麻子が抱き着いてくる。
昴はもてる力を使い彼女を強く抱きしめた。こんなことぐらいで、二人の絆は切れない。途切れることはない。むしろ、強くなった方だ。
「ごめん。ごめんなさい」
麻子は子供のように彼の腕の中で泣きじゃくる。昴は彼女が落ち着くのを待った。
瞳に残っている麻子の涙を昴は掬い取る。
「僕の方こそ守れなくてごめん」
どれだけ、彼女が苦しんだことか。
しかも、その間自分は眠っていた。
何もすることができなかった。
「どうして、昴が謝るのよ!」
「ねぇ、麻子」
「なぁに?」
「何があっても麻子は麻子だから」
昴は麻子の額に自分の額をあわせる。ふわり、とシャンプーのいい香りがした。疲れもあるのか二人は手をつないだままうつらうつらしてしまう。
そのまま、眠りについた。
一か月後――。
昴は無事に退院し今日から学校復帰が決まっていた。
「おはよ、昴」
「おはよ、麻子」
二人は鞄を持って部屋を出る。リビングに入るとパンが焼けるいい匂いがした。
サラダにゆで卵。
飲み物はカフェオレ。
デザートはリンゴとバナナ。
すでに、雄二が朝食の用意を終わらせているようだ。それぞれの席に座る。いつもと変わらない日常に二人はほっとする。
この日がずっと続けばいいと願わずにはいられない。
「二人とも、おはよう」
「おはよう、父さん」
「おはよう、雄二さん」
「昴君。無理をしてはいけないよ」
「ありがとう」
頂きますと、食べ始める。ある程度、片づけが終わると昴と麻子は鞄を持った。いってらっしゃいと雄二が見送ってくれる。
「麻子」
昴が麻子に手を差し出す。
彼女はその手を握り返した。
「昴」
「どうした?」
「私、昴が好きだよ」
「僕も好きだよ」
昴は麻子の薬指に口づけを落とした。
君を守るという誓い。
未来への約束。
何だか、プロポーズを受けているようだ。くすぐったいような――照れくさいような気もするが、それをやってのけるのが昴である。
「行こうか」
そんな二人を包み込むのは、夏の日差し。
それが、いつも以上に輝いて見える。
その日差しに瞳を細めながら、昴と麻子は歩き始めた。
病室のドアをノックするとはい、と返事があった。三人が二人きりにしてくれる。
麻子は病室に足を踏み入れた。
記憶が呼び戻そうとしているのか。
先ほどから激しい頭痛がする。
知っている。
自分はこの人を知っている気がする。
思い出せ。
思い出せ。
徐々に霧がとれて晴れやかになっていく。
本来の自分を取り戻していく。
――麻子。
懐かしい声。
聞きたかった声。
蘇る楽しかった思い出。
そして、愛しい人。好きだよと言ってくれる笑顔。
――そうだ。
私は中田麻子。
目の前にいるのは私の大切な人だわ。
封印されていた記憶が戻ってきた。
薬も実験の始まりだったみたいで、そこまで、投与されていなかったことが大きいだろう。だからこうしてすぐに記憶を取り戻すことができたのである。記憶を取り戻すことができていなかったら、自分は殺人鬼が廃人になっていたるだろう。
それを、打ち破ることができたのは麻子の生きたいという強い気持ちがあったからこそ。
やはり、強い子だ。
「昴!」
「――うん」
「昴!」
麻子は何回も昴の名前を呼ぶ。
生きていることを確かめるように。
「おいで、麻子」
彼は両手を広げた。
傷の痛みなどどうでもいい。
麻子が抱き着いてくる。
昴はもてる力を使い彼女を強く抱きしめた。こんなことぐらいで、二人の絆は切れない。途切れることはない。むしろ、強くなった方だ。
「ごめん。ごめんなさい」
麻子は子供のように彼の腕の中で泣きじゃくる。昴は彼女が落ち着くのを待った。
瞳に残っている麻子の涙を昴は掬い取る。
「僕の方こそ守れなくてごめん」
どれだけ、彼女が苦しんだことか。
しかも、その間自分は眠っていた。
何もすることができなかった。
「どうして、昴が謝るのよ!」
「ねぇ、麻子」
「なぁに?」
「何があっても麻子は麻子だから」
昴は麻子の額に自分の額をあわせる。ふわり、とシャンプーのいい香りがした。疲れもあるのか二人は手をつないだままうつらうつらしてしまう。
そのまま、眠りについた。
一か月後――。
昴は無事に退院し今日から学校復帰が決まっていた。
「おはよ、昴」
「おはよ、麻子」
二人は鞄を持って部屋を出る。リビングに入るとパンが焼けるいい匂いがした。
サラダにゆで卵。
飲み物はカフェオレ。
デザートはリンゴとバナナ。
すでに、雄二が朝食の用意を終わらせているようだ。それぞれの席に座る。いつもと変わらない日常に二人はほっとする。
この日がずっと続けばいいと願わずにはいられない。
「二人とも、おはよう」
「おはよう、父さん」
「おはよう、雄二さん」
「昴君。無理をしてはいけないよ」
「ありがとう」
頂きますと、食べ始める。ある程度、片づけが終わると昴と麻子は鞄を持った。いってらっしゃいと雄二が見送ってくれる。
「麻子」
昴が麻子に手を差し出す。
彼女はその手を握り返した。
「昴」
「どうした?」
「私、昴が好きだよ」
「僕も好きだよ」
昴は麻子の薬指に口づけを落とした。
君を守るという誓い。
未来への約束。
何だか、プロポーズを受けているようだ。くすぐったいような――照れくさいような気もするが、それをやってのけるのが昴である。
「行こうか」
そんな二人を包み込むのは、夏の日差し。
それが、いつも以上に輝いて見える。
その日差しに瞳を細めながら、昴と麻子は歩き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる