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「再会、最後の詞」3
しおりを挟むあと少しだったのに。
夢が叶いそうだったのに。
世界が手に入りそうだったのに。
「――許さない」
邪魔をするなと――殺してやると、今まで傍観をしていた弥生が動き出した。
楓は弥生の攻撃をかわしていく。
それでも、よけきれなかった攻撃が楓の身体を傷つけていく。甘いと言われても――弥生と戦うつもりはなかった。ブラッディ・ルージュと片付けて、敵意がないことを示す。
楓は激しく抵抗する弥生を抱きしめる。こうして、再会できたのも奇跡みたいなもので――敵対しているのも受け入れるしかない。
会いたかったと――あなたが大切だと伝えたい。
昔の記憶が取り戻すことができなくても、弥生と全力でぶつかるべきだと決めていた。
(もう、逃げない。隠れはしない)
人格を取り戻したいというならば、弥生とまっすぐ向き合うべきなのだろう。
声を聞くべきである。
真摯になって耳を傾けるべきだった。
そうするには、まずは楓が動かないといけない。
行動に移すべきだった。
*
「お待たせ、楓。迎えに来たよ」
「父さんと母さんは?」
「まだ、仕事よ。今日は私と帰ろうね」
ランドセルを背負った少女と、幼稚園ぐらいの男の子の姿が脳裏に浮かんでくる。握りしめている手は、小さかった。つかの間の幻である。目の前に居る少年と面影があるような気がした。
姿が重なって見えた。
仕草や身に纏う空気がよく似ている。
何かがひっかかっているようで思い出せない。
大切なことを忘れているようで――苛立ちが募っていく。
「知らないな。私はこんな記憶覚えていない」
「知らなくてもいい」
研究内容を守るために自爆装置が発動したのだろう。
地響きがして研究寺内が揺れた。
(時間がないな)
「私たちはどこかで、会っているのか?」
先ほどの映像が気になって仕方がない。
なかなか、離れようとしなかった。
「あなたは私の姉だった。家族だった」
弥生に向けられた視線は、慈しみをこめたものである。全てを、包みこんでくれそうな――そんな優しさがあった。
「残念ながら、私にその記憶はない」
「知っているよ」
「それに、お前に『姉』と――」
呼ばれる理由はないという言葉は続かなかった。楓を突き飛ばして頭を抱えて座り込む。
流れて込んでくるのは、家族との楽しかった日々を徐々に思い出す。封じ込められていた記憶が、流れ込んでくる。閉じ込められていた思いが、戻ってきた。
ぼんやりとしていた瞳に、光を取り戻していた。出てきたのは、楓の姉としての反応である。
(全部、思い出したわ)
「楓?」
目の前にいるのは、成長した弟――楓の姿だった。
「やっと、会えた。弥生姉さん」
弥生は大粒の涙を流す。
今度は弥生が楓を抱きしめた。
「ごめん――ごめんなさい。私を許して」
謝って済むことではないかもしれない。
許されないかもしれない。
謝るのも、ただの弥生の自己満足だった。
「弥生姉さんもここから出よう」
楓はここから出ようと、誘う。今なら、まだ姉弟としてやり直せる。家族として暮らしていける。弥生が生きたいと思うなら――一緒に歩いて行けばいい。
受け止める覚悟はできている。
皆で支えて――力になるつもりでいた。
*
「いいえ。私は残るわ」
「どうして?」
「私が全ての責任をとる」
戦争の闇は私が背負うから、安心してと弥生は楓に話す。
「弥生姉さんが責任をとる必要はない」
一人に任せるほど楓も薄情ではない。
お願いだから、頼りにしてくれと思う。
「私たちがやってきたことは、簡単に許されることではないわ。それに、私は長生きできないと思うの」
アンドロイドとして生きてきた中で、いつ暴走をするか分からない。楓とその家族を殺してしまうかもしれない。自分の中で眠っている本能には勝てないだろう。
深く眠っている獣を呼び起こすつもりはなかった。獣を目覚めさせないためにも、自我を保つためにもそう判断した。
それに、新しい火種を作らないためにも――。
戦いを防ぐためにも。
それに、アンドロイドになる前――なった後も、大和に何回も抱かれており――汚れている。大和に抱かれたこんな身体では、楓の手をとることはできない。
別々の道を行くべきだと、一緒にいるべきではないと楓を説得する。
*
「最初から、死ぬつもりでいたのか?」
「ごめんなさい。これだけは、譲れないの」
死ぬことが運命なのだとしたら――。
滅びることが決められていたとしたなら――従うしかない。
不思議と気持ちは落ち着いていた。
死について恐怖心はない。
「僕に殺せというのか?」
「これ以上、楓の手を汚すようなことはしないわ」
弥生は楓の懐からブラッディ・ルージュを取り出す。もう、ブラッディ・ルージュは必要ない。
戦闘は終わったのだ。この戦いは楓たちが勝利したのである。
これ以上、楓がつらい思いをしなくてもいい。
傷つかなくてよかった。
(戦争の闇は全て私がもっていくわ)
「楓には待ってくれている人がいるでしょう? 私は楓と家族で幸せだったわ」
(私のかわりにあなたは生きて――生き抜いて)
いつでも、見守っている。
近くにいる。
「僕も同じだ。最後に話せてよかった」
弥生が生きていた時を忘れない。
きっと、忘れることができないだろう。
弥生の分まで生きてみせると、一刻一刻と変っていく世界を見続けるつもりでいた。
寿命が尽きるまで、見届けるつもりである。
それが、残された者の役割だろうと楓は思っていた。
「楓が守りたい人のところへいきなさい」
「さようなら――弥生姉さん」
楓は背中を向けて走り出す。
弥生は後ろ姿を見送った。
楓が去り、部屋に煙が充満していく。
炎が何もかも飲み込んでいく。
焼き尽くしていく。
不思議と熱さは感じない。
心が凪いで穏やかな心境だった。
ついに終焉の時がやってくる。
(楓とも話せたし思い残すことはないわ)
成長した姿を見られて嬉しかった。
喜びしかなかった。
(私はいなくなってしまうけれど、生きていたという存在はなくなってしまうけれど。もうすぐ、この世界から消えてしまうけれど、私は応援している。ありがとう――楓。『家族』として愛しているわ)
これで、思い残すことはない。
両親のところへいける。
自然に戻れるのだと――それだけで、満足だった。
弥生の姿は燃え盛る炎の中へと消えていった。
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