戦争のない明日へ

朝海

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「踏み出す勇気、希望の光」2

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 アンドロイド対策特殊警察部隊
 
 解散式・当日
 
 体調を考えて楓は遅れてから式に出席した。中に入って感じたのが、ホッとしたような安堵の表情をしている班の者たちもいた。

 桐原班の説得を受け――納得し、楓を受け入れたのだろう。
 
 それでも、納得がいかなかった他の班から、交わされている会話が聞こえてきた。
 
 退席していく者が出てくるのも仕方がないことなのだろう。
 
 全部、聞き流して席に着いた。
 
 まだ、名前は呼ばれていないらしい。
 
 楓は全てを焼き付けようとしているのか――。
 
 真剣な瞳でまっすぐ前を向いていた。

「桐原――いや、沢田楓」
 
 一瞬――誰が呼ばれたのか、分からなかった。

 それほど、桐原姓に馴染んでいる自分がいる。
 
 今は自然と受け入れられることができる自分がいた。
 
 「過去」から「未来」へと切り替えることができた証拠でもある。

(沢田姓を使う何て)
 
 楓は小さく息をのんだ。
 
 どこまでも、優しくて――気持ちに敏感な人たちなのだろうか?
 
 心が広く――海のような人たちである。

「桐原隊長、長谷副隊長これは?」
「皆で話し合って決めたのよ」



「皆、今いいか?」
「――はい」
 
 山積みになっている書類と、にらみ合っている桐原班のメンバーが手を止めた。
 
 何事かと顔を見合わせて、葵と蓮を見る。

「楓の本名を知っているかしら?」
 
 ここにいる全員――楓の小さい頃を知っていた。退院したあと、心配だからといって蓮と葵が連れてきたのである。

「沢田楓君でるすよね?」
「何か問題でもありましたか?」
「今回の式典で以前の名前を使おうと思う。その前に意見が聞きたい」
「いいと思います」
「私も賛成です。区切りとしてもいいですし、気持ちの整理もついている頃でしょう」
「――ありがとう」
 
 反対する者はいない。
 
 楓のことを認めているからだった。



「今日は特別だからな」
「再スタートには必要だと思ったからよ」
 
 泣いている姿を見てしまったから――何かできることはないかとずっと考えていた。楓の気持ちを無視することはできない。

 家族の一員として見逃すことはできなかったのである。
 
 見て見ぬふりなどできなかった。
 
 桐原班のメンバーも同じ気持ちだったのだろう。

「迷惑だったかしら?」
「迷惑なんかじゃないです。嬉しいです」
 楓は敬礼をして手帳とナイフを上司に返却した。
「君には負担と迷惑をかけてしまったな――すまない」
「謝ることはないと思います。呼んでくれて嬉しかったです」
「ブラッディ・ルージュはどうした?」
「姉とともに役目を終えました」
「あれは親の形見だったはずだろう?」
「私の胸の中に刻まれているから大丈夫です」
「強くなったな」
「最高の褒め言葉です」
「最後に聞いてもいいか?」
「――君は今、幸せかい?」
「幸せです」
 

 会場には温かい空気が流れている。不器用ながらも、まっすぐな楓の性格をこの場にいるほとんどが知っていた。だからこそ、「沢田」姓で呼ぶことを許してくれたのだろう。
 
 許可をくれたのだろう。
 
 この先「沢田楓」として呼ばれることはない。
 
 「桐原楓」として生きていくことを決めていた。
 
 生活をしていこうと思ったから――。
 
 「沢田楓」の名前を捨てたわけではない。
 
 忘れたわけではない。
 
 心の中に残しておこうと考えたからだった。
 
 忘れることがないように。
 
 覚えておくためにも。
 
 亡き両親――姉のためにも。
 
 戦って散っていった同胞たちのためにも。
 
 戦争の悲惨さを――次世代に伝えていくために――教えていくために必要だと思ったからだった。
 
 最後の一人が返却すると自然を拍手が起った。
 平和が訪れることを信じて――。
 
 信じ続けて。
 
 誰もがこの日を待ちわびていたことだろう。
 
 待っていたことだろう。
 
 落ち着くように促せば、再び静けさが戻ってきた。
 
 上司が満足そうに周囲を見渡す。
「今まで、よく頑張って戦ってくれた。本当にありがとう。本日付でアンドロイド対策特殊警察部隊を解散する。以上、解散!」
 
 二〇三五年八月――。
 アンドロイド対策特殊警察部隊、解散。

「また会おう」
「やっと帰れる」
 
 再会を約束して立ち去る人もいれば、別れを惜しみ言葉を交わす人もいた。
 
 式典が終われば人それぞれである。
 
 今度、対策本部の入り口が開かれることは二度とない。
 
 人が集まることはない。
 
 避難シェルターの開放も始まっていた。
 
 ニュースでその映像が流れていた場面を葵、蓮、楓は見ている。外に出た時の市民たちの笑顔がとても印象的だった。
 
 心に残っている。
 
 止まっていた時間が動き出し、確実に進んでいることが分かる。

「楓もよく頑張ったな」
「一歩を踏み出せた気がする」
「ここからが始まりね」
 
 十年にも及んだ戦争は幕を閉じた。
 
 多くの人たちに深い傷跡を残して。
 
 それでも、この道を生きていくしかない。

 つらくて、苦しくても。
 
 生きて――生き抜いていく。
 
 例え、困難があったとしても――。

 壁にぶち当たっとしても。
 
 前を向いて未来を描いていく。
 
 絶望しかなかった暮らしの中に、新しい花が芽吹いてくことを期待して――僕たちの再出発が始まろうとしていた。
 





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感想 1

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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.17 朝海

おはようございます。
返信遅くなり申し訳ありません。
これから、小説を書いていくためのモチベーションになります。
ありがとうございます!

解除

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