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「踏み出す勇気、希望の光」2
しおりを挟むアンドロイド対策特殊警察部隊
解散式・当日
体調を考えて楓は遅れてから式に出席した。中に入って感じたのが、ホッとしたような安堵の表情をしている班の者たちもいた。
桐原班の説得を受け――納得し、楓を受け入れたのだろう。
それでも、納得がいかなかった他の班から、交わされている会話が聞こえてきた。
退席していく者が出てくるのも仕方がないことなのだろう。
全部、聞き流して席に着いた。
まだ、名前は呼ばれていないらしい。
楓は全てを焼き付けようとしているのか――。
真剣な瞳でまっすぐ前を向いていた。
「桐原――いや、沢田楓」
一瞬――誰が呼ばれたのか、分からなかった。
それほど、桐原姓に馴染んでいる自分がいる。
今は自然と受け入れられることができる自分がいた。
「過去」から「未来」へと切り替えることができた証拠でもある。
(沢田姓を使う何て)
楓は小さく息をのんだ。
どこまでも、優しくて――気持ちに敏感な人たちなのだろうか?
心が広く――海のような人たちである。
「桐原隊長、長谷副隊長これは?」
「皆で話し合って決めたのよ」
*
「皆、今いいか?」
「――はい」
山積みになっている書類と、にらみ合っている桐原班のメンバーが手を止めた。
何事かと顔を見合わせて、葵と蓮を見る。
「楓の本名を知っているかしら?」
ここにいる全員――楓の小さい頃を知っていた。退院したあと、心配だからといって蓮と葵が連れてきたのである。
「沢田楓君でるすよね?」
「何か問題でもありましたか?」
「今回の式典で以前の名前を使おうと思う。その前に意見が聞きたい」
「いいと思います」
「私も賛成です。区切りとしてもいいですし、気持ちの整理もついている頃でしょう」
「――ありがとう」
反対する者はいない。
楓のことを認めているからだった。
*
「今日は特別だからな」
「再スタートには必要だと思ったからよ」
泣いている姿を見てしまったから――何かできることはないかとずっと考えていた。楓の気持ちを無視することはできない。
家族の一員として見逃すことはできなかったのである。
見て見ぬふりなどできなかった。
桐原班のメンバーも同じ気持ちだったのだろう。
「迷惑だったかしら?」
「迷惑なんかじゃないです。嬉しいです」
楓は敬礼をして手帳とナイフを上司に返却した。
「君には負担と迷惑をかけてしまったな――すまない」
「謝ることはないと思います。呼んでくれて嬉しかったです」
「ブラッディ・ルージュはどうした?」
「姉とともに役目を終えました」
「あれは親の形見だったはずだろう?」
「私の胸の中に刻まれているから大丈夫です」
「強くなったな」
「最高の褒め言葉です」
「最後に聞いてもいいか?」
「――君は今、幸せかい?」
「幸せです」
会場には温かい空気が流れている。不器用ながらも、まっすぐな楓の性格をこの場にいるほとんどが知っていた。だからこそ、「沢田」姓で呼ぶことを許してくれたのだろう。
許可をくれたのだろう。
この先「沢田楓」として呼ばれることはない。
「桐原楓」として生きていくことを決めていた。
生活をしていこうと思ったから――。
「沢田楓」の名前を捨てたわけではない。
忘れたわけではない。
心の中に残しておこうと考えたからだった。
忘れることがないように。
覚えておくためにも。
亡き両親――姉のためにも。
戦って散っていった同胞たちのためにも。
戦争の悲惨さを――次世代に伝えていくために――教えていくために必要だと思ったからだった。
最後の一人が返却すると自然を拍手が起った。
平和が訪れることを信じて――。
信じ続けて。
誰もがこの日を待ちわびていたことだろう。
待っていたことだろう。
落ち着くように促せば、再び静けさが戻ってきた。
上司が満足そうに周囲を見渡す。
「今まで、よく頑張って戦ってくれた。本当にありがとう。本日付でアンドロイド対策特殊警察部隊を解散する。以上、解散!」
二〇三五年八月――。
アンドロイド対策特殊警察部隊、解散。
「また会おう」
「やっと帰れる」
再会を約束して立ち去る人もいれば、別れを惜しみ言葉を交わす人もいた。
式典が終われば人それぞれである。
今度、対策本部の入り口が開かれることは二度とない。
人が集まることはない。
避難シェルターの開放も始まっていた。
ニュースでその映像が流れていた場面を葵、蓮、楓は見ている。外に出た時の市民たちの笑顔がとても印象的だった。
心に残っている。
止まっていた時間が動き出し、確実に進んでいることが分かる。
「楓もよく頑張ったな」
「一歩を踏み出せた気がする」
「ここからが始まりね」
十年にも及んだ戦争は幕を閉じた。
多くの人たちに深い傷跡を残して。
それでも、この道を生きていくしかない。
つらくて、苦しくても。
生きて――生き抜いていく。
例え、困難があったとしても――。
壁にぶち当たっとしても。
前を向いて未来を描いていく。
絶望しかなかった暮らしの中に、新しい花が芽吹いてくことを期待して――僕たちの再出発が始まろうとしていた。
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